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虎屋 赤坂ギャラリーを訪ねて

2020年2月17日 虎屋 赤坂ギャラリーを訪ねて

虎屋のようかん、その秘密を知りたい〈虎屋のようかん編〉

虎屋 赤坂ギャラリーを訪ねて

著者: 考える人編集部

虎屋の資料室、虎屋文庫が、その名も『ようかん』という本を出し、同時に展示も開催(展示はすでに終了)。とらや赤坂店の地下、虎屋 赤坂ギャラリーを訪ねるシリーズの2回目は、ようかんの幅広さとともに、虎屋のようかんの歴史をご紹介します。お答えくださったのは、前回に続き虎屋文庫の所加奈代さん。

どんどん展示をご紹介していきましょう。

「虎屋の羊羹のあゆみ」を現物パッケージで見せるコーナー

次は、虎屋文庫のアーカイブの本領発揮と言えるコーナーです。なかなか社員も見る機会のない古い虎屋商品のパッケージを今回は出しました。

『ようかん』本で詳しく追いましたが、小形羊羹は、地域ごとの味やユニークなデザインを数多く出し、虎屋の主力商品となっています。小形のようかんというと最近の小形化、少量化の影響を感じるかもしれませんが、実は戦前、1930(昭和5)年にできた歴史ある商品なんです。しかも当時のようかんは、写真の左上に見えますが、1.5キロほどある大棹羊羹(現在の大形羊羹に相当)が主流でした。つまり、この大形のもののみで他のサイズがない中での小形の登場ですから、インパクトが大きかったかと思います。考案者は15代店主で、経営センスを感じます。

写真2段目の「小形羊羮」、左側が初代のものです。いま見てもかわいいパッケージで、人気があり1963(昭和38)年まで長いこと使われていました。

3段目の赤い缶詰羊羹、これは戦後のものですが、コンビーフ缶みたいな巻き取りのピンが付いていて、輸出用につくっていたものです。緑色のようかんの箱は、年代は不明ですが「TORAYA'S YŌKAN」と英文が入っており、輸出代行をされていた「明治屋」の名前も見えます。

――サイズの変遷も一目瞭然ですね。

大きい竹皮包の大棹羊羹がずっと来ていて、その次に約半分のサイズの中棹、さらにそれよりも小ぶりにした並棹が登場します。この並棹は名前を何度か変え、現在「中形羊羹」と呼ばれているラインアップになります。並棹は一番変遷しています。

並棹は、ケースが紙箱からプラスチックになり、竹皮になったものの、いまは紙箱に、と時代のニーズに合わせて変化し続けている商品です。

――小形が主流とのこと、大形羊羹はどういう方がお求めに?

「あれでなくては」とおっしゃるお客さまが結構いらっしゃいます。お正月など人の集まる際にとお求めになられる方も多く、切り口が大きくてかなり食べ応えがあり、根強い人気があります。ようかんならではの醍醐味があるんですね。

――「夜の梅」は誕生して200年だとか。

はい。「夜の梅」という菓銘自体は300年以上前から記録に見えますが、ようかんとして作られていたことがわかる200年前の文書を展示しています。今から200年前の1819(文政2)年、「夜の梅一棹」の代金を6匁に定めると値段帳にあるのです。

――これは美しいですね、再現されたのですか?

雛菓子の羊羹(模型)。右は「弥生の空」、左は「水山吹」

はい、明治時代後期以降に作られた雛菓子の見本帳(現在の商品カタログに相当)から、島台に盛られたようかんを工芸菓子作家、福留千夏様に再現していただきました。とても美しく仕上がりました。婚礼や行事などハレの場にようかんは欠かせないものだったんです。

――リュックが突然置いてありますが、これは?

ここは、ちょっと遊びのコーナーです(笑)。

重たい缶詰羊羹を背負われて、秩父宮さまが、1926(大正15)年にマッターホルンに登られたというエピソードがあり、ご来場の方にもその気分を味わっていただこうと、当時のようかんと同じ1.5キロの重りを入れたリュックをご用意しました。

登山のお荷物にプラスしてわざわざ背負って登られ、召し上がってくださったという、ありがたく、うれしいお話なんです。

現代では、多彩なようかんが生まれてきています。

「月の眺(ながめ)」では、空に浮かぶ月が、一切れごとに姿を変えていく。展示菓子の一例
これもようかん。「MONOGATARI」。アートディレクター、渡邉良重氏考案。切り分けると、動物などが現れる。2015年にとらや東京ミッドタウン店で開催された「“みらい”の羊羹」で発表された。他にも再現したもの、新たに考案したもの、と美しいようかんはたくさん。写真を満載した『ようかん』でぜひ。

1980年にパリに出店して以来、日本文化の一つとして和菓子を紹介しようと、虎屋では努めてきました。当初は「黒い石鹸」と間違われるなど苦労もあったのですが、今では三世代にもわたってご来店下さっているお客様がいるなど変化しています。ようかんの素晴らしさを伝えようと、全国の有志のようかんを作る和菓子店が「羊羹コレクション」というイベントを企画しました。ようかんの展示販売会「羊羹コレクション」で、初回は2010年、銀座三越が会場となり、58店が参加しました。伝統的なものから意欲的な新作まで、さまざまなものが並びました。「羊羹コレクション」は新しい挑戦の場になっており、パリ、シンガポール、そして2019年秋にはニューヨークで開催されました。

図書コーナーも人気があります。ようかんの登場する本を集めました。やっぱり本は愛されております。

このコーナーには、ようかんトリビアを集めています。本には入らなかったので、何かのかたちで昇華させようと、ここに置きました。伝統的なようかんが未来へ、世界へ、そして宇宙へ、という構成です。宇宙については、宇宙食にようかんが認定されたことなど、紹介しています。

このコーナーには「いいね」ボタンをつけました。最初はお客様が押してくださるだろうかと心配していたのですが、結構皆さん面白がって押してくださり、安心しました(笑)。

――誰も押してくれなかったらこっそり押すしかないですね(笑)。ですが、結果的には結構な数がついていますね、例えば福井の冬の水ようかんには「いいね」が多いです。

そうなんです。福井では冬に水ようかんを食べる習慣があるという紹介です。本にも詳しくありますが、土地の気候風土に根ざした食文化なんですよ。

――企業のようかんは、SNSで上げている方が結構いましたね。

ニコンや富士通、スバル、荏原製作所のようかんをご紹介させていただき、各企業の社員の方が喜んで見に来てくださいました。

そういえば、滋賀県は能楽が盛んですが、郷土菓子のでっちようかんに関する新作狂言『鮒ずしの憂うつ』などが上演されるそうです。

――チラシを見ると、正確にはようかんが「出てくる」狂言作品ですね(笑)。そして、これはなんでしょう、「ようかん型マンション」?

トリビアを探していたら、マンションまでたどり着いたのには本当に驚きました。あんなところにも、こんなところにも、世界はようかんで満ちています(笑)。「ようかん型マンション」とは、切り分けたようかんのような凹凸のないシンプルなかたちのマンションをそう呼ぶのだそうです。建築業界では普通に使う呼び名だそうで、SUUMOなど不動産のサイトにも出てくるんです。「ようかん型」に対して、雁が広がって飛ぶかたちの「雁行型」というのもあるんです。

本当に、ようかんの話はつきません。なにしろ本1冊が、カラー写真を入れていたらあっという間に埋まっていました。

〔ようかんの歴史編に続く〕

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考える人とはとは

何かについて考え、それが「わかる」とはどういうことでしょうか。

「わかる」のが当然だった時代は終わり、平成も終わり、現在は「わからない」が当然な時代です。わからないことを前提として、自分なりの考え方を模索するしかありません。

わかるとは、いわば自分の外側にあるものを、自分の尺度に照らして新しく再構成していくこと。

"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)*を編集理念に、Webメディア「考える人」は、わかりたい読者に向けて、知の楽しみにあふれたコンテンツをお届けします。

*産業革命後に急速な都市化が進むロンドンで、イギリスの詩人ワーズワースが書き遺した言葉。

 

 

「考える人」編集長
松村 正樹

著者プロフィール

考える人編集部
考える人編集部

2002年7月創刊。“シンプルな暮らし、自分の頭で考える力”をモットーに、知の楽しみにあふれたコンテンツをお届けします。

  • 津野海太郎「最後の読書」読売文学賞受賞


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