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虎屋のようかん

2020年2月20日 虎屋のようかん

ようかんって、結局何なのですか?〈ようかんの歴史編〉

虎屋 赤坂ギャラリーを訪ねて

著者: 考える人編集部

日々たゆまず、和菓子の研究をしている虎屋文庫が、『ようかん』という本の刊行と同時に展示も開催(すでに終了)。虎屋 赤坂ギャラリーを訪ねるシリーズ3回目、ついに「そもそもようかんは羊肉の汁物だった」に始まる、ようかんの謎の歴史に迫る――所加奈代さん、お願いします!

江戸時代のゆるキャラ(?)の「羊羹和尚」と写真が撮れるコーナー

――これは誰ですか!?

江戸時代の黄表紙、『名代干菓子山殿』(1778)に描かれた「羊羹和尚」です。以前から、お客様に楽しんでいただく仕掛けとして、顔出しパネルなど写真コーナーを作ってはどうかなという話が出ており、今回、このようなかたちで実現しました。みなさん、「羊羹和尚」が何者か、気になるようです(笑)。

――歴史の展示が充実していますね。

全体は6章構成ですが、歴史にはやはり力が入りました。

『ようかん』本で第1章として大きく扱ったのは、ようかんの歴史が意外と知られていないからなんです。まとめて紹介する本もこれまでありませんでした。

「羊羹」が「羊の(あつもの)」という字を書くのは(「羹」とは汁物のこと)、そもそも中国の料理で、羊の肉の入った汁物だったからなんです。

鎌倉から室町時代に中国に留学した禅僧が、食事の間にとる軽食として、日本に伝えたようです。とはいえ、禅僧は肉食が禁じられていたので、小豆や小麦粉、葛粉など植物性の材料を使った蒸し物で見立て料理として作り、それが今の蒸ようかんに近いものとなっていきます。

ここでは変遷を菓子の再現で追っていますが、文字では書けるところも、実物に再現するとなると話は別でした。それこそ、具をどうするか、汁は何がいいか、器もないがしろにできません。それも含めて、推測の部分もありますが、かたちにすることで変遷を楽しんでいただけるよう心掛けました。

――ようかんは日本に伝わり、江戸時代には料理から菓子へと変化したのですね。これを見ると、菓子としてのようかんの変遷は、大きく5段階に分けられるのでしょうか?

はい。大まかには、以下となります(展示の写真、右から順に。『ようかん』37ページ参照)。

菓子1:蒸ようかん・かたちをつくるタイプ=現在の「こなし」、虎屋でいう「羊羹製」

 餡に小麦粉や葛粉を混ぜて蒸してから
 ついたりこねたりしてかたちをつくったもの

菓子2:蒸ようかん・蒸すだけタイプ=現在の蒸ようかん

 菓子1の製法を合理化したもの

菓子3:蒸ようかん・やわらかいタイプ=水ようかんの始まり・現在の羊羹粽や虎屋の生菓子の「水羊羹製」

 菓子1をやわらかくつくったもの

菓子4:寒天の水ようかん=寒天が使われ始める・現在の水ようかん

 餡を寒天で固めたもの

菓子5:煉ようかん=現在の煉ようかん・「ようかん」と聞いたとき、多くの人が思い浮かべるもの

 菓子4が進化したもの

 

従来の説では、ようかんは蒸ようかんから煉ようかんに変遷したと説明されてきました。

この変遷についてもう少し細分化して考え、5段階に分けたのです。まず最初の蒸ようかんというのは、そもそも四角いようかんではなくて、精進料理の流れを汲んだ、かたちをつくったものでした。現在では定番の、生地を枠に流して蒸して切る四角いようかんは後発で出てきたものなんです。

虎屋では、餡に小麦粉、寒梅粉(もち米から作る粉)を混ぜ、蒸してからこねてかたちをつくる生地を「羊羹製」と呼んでいますが、社員の中でも「なんで羊羹と言うのか?」と疑問が大きかったんです。でも実は、「羊羹」というお菓子の、一番大もとのかたちを継いでいる名称なのです。

また、蒸ようかんと煉ようかんの間に、水ようかんの存在があったことを、今回の『ようかん』本で提示しています。蒸ようかんをやわらかくした水ようかんが歴史的には途中にあり、さらに寒天を使って固めたタイプの水ようかんが生まれ、それを煉り上げることで、煉ようかんになったのではないかと考えています。

ワンステップ、水ようかんが入ることで、ようかんを理解する流れがスムーズになりました。多分に推測の部分はありますが、これからさらに裏付けになる資料を探しながら、詰めていきたいと思っています。

水ようかんは「夏の菓子」で冷蔵庫で冷やして食べるというイメージがあるかと思います。それが、江戸時代の中頃に、煉ようかんの前身として水ようかんがある、というのが、今回の重要な発見です。それをなんとか再現してお見せしようと考えました。

ただ正直なところ、5種類のようかんについて、再現してみて違いが出るのか心配でした。実際につくってもらったら、5種類それぞれ違う質感が出てきたのが嬉しいところでした。

原料も製法も少しずつ違います。項目としては2種類の原料で、菓子1から3が小麦、葛粉チーム、菓子4と5が寒天チームという二つに分かれます。ちょっとした水の量や製法の違いが、質感の違いにも出てくるので、再現してよかったなと思います。

――新発見、探求はまだまだ続きますね! もうひとつ展示の中で驚いたのは、『陰翳礼讃(いんえいらいさん)』の再現コーナーです。

これは、谷崎潤一郎の文章を再現してみました。

かつて漱石先生は「草枕」の中で羊羹(ようかん)の色を讃美しておられたことがあったが、そう云えばあの色などはやはり瞑想的ではないか。(ぎょく)のように半透明に曇った肌が、奥の方まで日の光りを吸い取って夢みる如きほの明るさを(ふく)んでいる感じ、あの色あいの深さ、複雑さは、西洋の菓子には絶対に見られない。クリームなどはあれに比べると何と云う浅はかさ、単純さであろう。だがその羊羹の色あいも、あれを塗り物の菓子器に入れて、肌の色が辛うじて見分けられる暗がりへ沈めると、ひとしお瞑想的になる。人はあの冷たく滑かなものを口中にふくむ時、あたかも室内の暗黒が一箇の甘い塊になって舌の先で融けるのを感じ、ほんとうはそう旨くない羊羹でも、味に異様な深みが添わるように思う。

(谷崎潤一郎〔1886~1965〕『陰翳礼讃』より)

『ようかん』本では、ようかんを愛した文豪などの名文を数多く取り上げましたが、「『陰影礼讃』の世界観」を再現できたのは展示ならではのことでした。

『陰翳礼讃』の中で谷崎は、日本家屋の闇の美しさを讃えており、そこにようかんが出てきます。そうなると、実際にどういうものなのだろう、と好奇心が湧いてきて再現をしてみたくなりました。

――具体的に再現するのには、ご苦労があったかと。

明るさの加減に苦労しました。どれくらい暗くしたらいいのか、文庫のメンバーで書庫に懐中電灯を持って入り照らしてみて、明るさを確認したこともあります。施工業者の方にも壁紙の色や素材を工夫して下さり、素敵な小部屋ができました。実際の会場でも何度も検証を行い、「肌の色が辛うじて見分けられる暗がり」との描写からこれぐらいだろうと、この明るさに落ち着きました。

――苦労されましたね。面白い展示でした。最後に、展示や本を出しての反響はいかがでしょうか?

やはり実物を見られておもしろい、という声が多くありました。ようかんがますます好きになり、さらに写真でじっくり見たい、歴史をより深く知りたい、これからようかんを味わう際の参考にしたい、という方が本に手を伸ばしてくださっているようです。次の展示は2020年度中を予定しております。年に1回の開催でまだテーマは決まっていませんが、楽しみにお待ちください。

〔終わり〕

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"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)*を編集理念に、Webメディア「考える人」は、わかりたい読者に向けて、知の楽しみにあふれたコンテンツをお届けします。

*産業革命後に急速な都市化が進むロンドンで、イギリスの詩人ワーズワースが書き遺した言葉。

 

 

「考える人」編集長
松村 正樹

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2002年7月創刊。“シンプルな暮らし、自分の頭で考える力”をモットーに、知の楽しみにあふれたコンテンツをお届けします。


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