明るいあしたを迎えるための音楽 1
著者: 村上春樹
Murakami Radio: “Music for a Brighter Tomorrow” by HARUKI MURAKAMI is here;
村上春樹さんがDJを務める「村上RADIO特別編 ステイホームスペシャル~明るいあしたを迎えるための音楽~」が、2020年5月22日(金)にTOKYO FM/JFM38局ネットで放送されました。
新型コロナでたいへんな日々を過ごしている皆さんを音楽の力で明るくできれば、という村上さんの発案でこの特別編が生まれました。
今回、TOKYO FMの協力をいただいて「村上RADIO特別編 ステイホームスペシャル~明るいあしたを迎えるための音楽~」の番組内容を、日本語と英語両方のバージョンで掲載いたします。海外の村上ファンにも英訳で楽しんでいただけたら幸いです。まずは前半をどうぞ。
村上RADIO特別編「ステイホームスペシャル」
こんばんは、村上春樹です。
村上RADIO、いつもは二ヶ月に一度のペースでやっているんですが、今日は臨時の枠をもらって、二時間の特別版をお送りします。「明るいあしたを迎えるための音楽」というのが今日のテーマです。もやもやと溜まっているコロナ関連の憂鬱な気分を、音楽の力で少しでも吹き飛ばしたいですね。
今日はいつものTOKYO FMのスタジオではなく、僕の自宅の書斎からstay homeでお送りしています。僕一人ですが、猫山さんがそばでちょっとだけお手伝いをしてくれています。えーと、邪魔はしないでくださいね。
このような状況で、みなさんもいろんな制約を受け、不便な生活を送っておられることと思います。会いたい人にも会えない、行きたいところにも行けない、やりたいこともやれない、というのはつらいものですよね。そういうみなさんのために、少しでも元気の出る、少しでも心が和む音楽を、僕なりに選んでみました。そううまく元気が出るかどうか、あまり自信はありませんけど、がんばってみます。
今日は放送局の機材ではなく、僕が普段うちで使っているプレーヤーで音楽をかけます。だからいつもとちょっと音が違うかもしれませんね。
1. The Modern Folk Quartet: LOOK FOR THE SILVER LINING
まずはモダン・フォーク・カルテットの"LOOK FOR THE SILVER LINING"。
英語には、 “Every cloud has a silver lining.” 「どんな雲も裏側は銀色に輝いている」という言葉があります。ライニングというのは洋服の裏地のことですよね。どんなにつらい状況でも、必ずそこに明るい裏面がある。明日を信じよう。そういう前向きな歌です。チェト・ベイカーの歌が有名ですけど、今日はモダン・フォーク・カルテットの歌で聴いて下さい。
モダン・フォーク・カルテットはもともとその名前どおり、フォークソングをレパートリーの中心にして1960年代に結成されたんですが、あとになっていろんな他のジャンルの音楽も取り上げるようになりました。素敵なハーモニーです。あなたも銀色の裏地を探してみてください。
2. Bruce Springsteen: Waitin' On A Sunny Day
“Waitin' On A Sunny Day”、ブルース・スプリングスティーンが、2001年の9・11事件の直後に出したアルバム『The Rising』の中の一曲です。
僕の知っているニューヨークの人は「このアルバムにとても精神的に助けられた」と言っていました。音楽にはそういう力があります。この“Waiting on a Sunny Day”も、心に響く音楽です。
3. Isley Meets Bacharach: Raindrops Keep Falling On My Head
次は僕が落ち込んだときによく好んで聴く「雨に濡れても」です。
今日はアイズリー・ブラザーズのリードシンガー、ロナルド・アイズリーと、作曲者のバート・バカラックという珍しい顔合わせで聴いて下さい。
“I'm never gonna stop the rain by complaining”
「いくら苦情を並べたところで、それで雨がやむわけじゃないだろう」
ほんとにそうですね。しっかり上を向いて歩いていきましょう。
最近の世の中って、なんでもいいからすぐに白黒をつけちゃうという傾向が強いですよね。とくにインターネットの世界なんかでは、強い口調であっちかこっちかきっぱり言い切った方が勝ち、みたいなことがおこなわれています。生意気なことを言うようですが、僕はそういうのはあまり好きじゃないんです。白か黒かよくわからないところで行き惑うのが人間だし、その姿を思いやりを込めて描いたり、あるいは癒したりするのが、音楽や小説の本来の役目ですよね。こういう素敵な音楽を聴いていると、あらためてそれを実感します。
4. Nina Simone: Here Comes the Sun
ジョージ・ハリスンが作曲した名曲「ヒア・カムズ・ザ・サン」をニーナ・シモンが歌います。1971年の録音です。ピアノを弾いているのも彼女です。歌詞はすごくシンプルだけど、シンプルなぶん音楽が心にじかに響きます。
僕は一度、視覚障害者の方の伴走者として、10kmレースを走ったことがあるんです。ボランティアを募集していたので、申し込んで、全盲の方と一緒に走りました。手と手を紐でつないで。実際に走ってみてわかったんだけど、目の見えない人と一緒にレースを走るって、慣れないとむずかしいんです。スピードも相手に合わせて調整しなきゃいけないし、路面の情報も正確に素早く伝えなくちゃいけないんです。僕がそのとき走ったのは、厚木の米軍飛行場だったと思うけど、飛行場って意外に路面が荒れていて、けっこう危ないんです。つまずいたりしないように注意を払いました。それで、なんとかこともなく、ハッピーに完走しました。
そのとき、走る前とか走りながらとか、二人でいろいろ話をしたんですが、全盲の人がランニングの練習をするのって、大変なんですね。いつも伴走者がいるわけじゃないから、自分ひとりであれこれ工夫をしてトレーニングしなくちゃいけない。僕なんか「今日は身体がだるいから走るのやめるか」なんて、しょっちゅう自分に甘えているんだけど、そういうお話を聞いて、これじゃいかんと深く反省しました。
「雨に濡れても」じゃないけど、ぶつぶつ苦情を並べても、なにごとも解決しません。自分にできることを、自分にできるペースで、ひとつひとつ工夫して片付けていくしかありません。小説を書くのだって同じことです。お互いめげずにがんばりましょう。そうですよね、羊谷さん。
5. Carole King: You've Got A Friend
次はキャロル・キングの名曲"You've Got A Friend"(君の友だち)です。今日はキャロル・キング自身がデモテープとして吹き込んだヴァージョンで聴いて下さい。キャロル・キングは若い頃は、歌手としてよりも作曲家として有名で、他の歌手のためにせっせと曲を書いていました。それでその曲を売り込むために、たくさんデモテープを作っています。
ピアノだけとか、簡単な伴奏だけつけて「こういう曲なんですけど」と聴かせて回るんです。でもそれがとても出来がよくて、聴いていると「これなら本人が歌えばいいのに」とか思うんだけど、若い頃のキャロル・キングは自分がスターになれるとは思っていなかったみたいですね。ルックスにコンプレックスがあったんです。
作詞家で夫のジェリー・ゴフィンがハンサムで、押し出しが強かったので、なんとなくその影に隠れていた。でも自立して、アルバム「Tapestry」(つづれおり)で大ブレークします。
この“You've Got A Friend”はその『Tapestry』のためのデモテープです。自分で弾くピアノの伴奏だけで歌っています。もちろんデモだから音作りは粗いけど、そのぶん本番のアルバムより素直にエモーショナルで、迫ってくるものがあります。素敵ですね。
6. Ella Fitzgerald: Over the Rainbow
映画「オズの魔法使い」の有名なテーマ曲「虹の彼方に」はすごくたくさんの歌手が歌っていますが、僕はヴァースがついているヴァージョンが好きなので、このエラ・フィッツジェラルドの歌を選びました。ヴァースというのはメインのメロディーに入る前の前置きのことですね。この曲はヴァースから入ると、すごくチャーミングに聞こえます。途中に入るテナー・ソロはプラス・ジョンソンです。いつ聴いても本当に良い歌ですよね。
7. Bob Marley & The Wailers: Sun Is Shining
ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズ“Sun Is Shining”。
僕はボブ・マーリーの『Natural Mystic』というアルバムで、この曲を知ったんですけど、このCDは自分で買ったんじゃないんです。ずっと前にハワイのマウイ島でレンタカーを借りたら、カーステレオにこのCDが残されていたんです。前に借りた人が取り忘れたんですね。よくあることです。で、それを聴きながらずっとマウイを回っていて、すっかり音楽が気に入りまして、車を戻すときに何も言われなかったので、そのままいただいてきました。でもね、そんなわけでケースなしの、裸のCDだけを持っていたんです。
ところが、その二年後のある日……。ホノルルの「グッドウィル」という、救世軍みたいなショップでこの『Natural Mystic』のケースとライナーノートだけ、中身なし、っていうのを見つけました。ついていた値段は一ドルでした。きっとマウイでCDを忘れてきた人が、ケースとライナーだけをそこに寄付していったんですね。もちろん僕は一ドル払って、それを買ってきました。というわけで、今では中身と容れ物が揃った完全な『Natural Mystic』を、ここにこうして所有しています。巡り会いというのはほんとに面白いものです。うん、人生の幸運を信じましょう。
8. Louis Armstrong: What a Wonderful World
ルイ・アームストロングの晩年の名曲「この素晴らしき世界」“What a Wonderful World”です。
素敵な曲ですが、レコードを販売したABCパラマウントの重役がなぜかこの曲が大嫌いで、まったく宣伝をしなかったんです。だからアメリカではぜんぜん売れなかった。でもイギリスを始め、他のいろんな国で大ヒットして、それからアメリカでもだんだん知られるようになりました。世の中、捨てたもんじゃないですね。
しかし、映画「グッド・モーニング、ベトナム」でのこの曲の使い方、皮肉がたっぷりきいていて、実に素晴らしかったですよね。
9. Kate Taylor: Happy Birthday Sweet Darling
コロナウイルスのせいで、いろいろとつらい思いをされている方も多いでしょう。とくにこの時期に誕生日を迎えた人、あるいは近く迎える人は、きっとすごくつまらないですよね。こんな状態だから、みんなに祝福されるというのもむずかしいだろうし、美味しいものもなかなか食べにいけないし、プレゼントもそんなにもらえないかもしれない。
そういう人たちのために、僕がバースデー・ソングをプレゼントします。ジェームズ・テイラーの妹、ケイト・テイラーが“Happy Birthday Sweet Darling”を歌います。これ、なかなか素敵なんです。僕は自分の誕生日によく聴いています。古いLPでおかけします。
お誕生日おめでとう。You're a little bit older now. ――君は少しだけ歳を取ったんだね。うん、来年の今頃はきっと、たくさんいいことがありますよ。
劇場でパートのお仕事をしている、40代の女性、のりぐまさん
感染拡大後、一番変わったことは、常に「自分が大切にしたいものはなんだろう」と問われている気がしていることです。今できること、できないことは関係なく。人やもの、趣味、すべてにおいて。村上さんはどうですか?
コロナ・ウイルスのせいで、ぼくらの日常生活にはいろんな変化がありましたよね。大きな変化から小さな変化まで。僕の生活にも変化はありました。大きな変化について話すのはけっこう大変なので、小さなことを話しますね。僕はここのところなぜか、万年筆とインクを使って字を書くようになりました。もう二十年くらい使っていなかった万年筆をひきだしの奥から引っ張り出しきて、新しいインクを買って、字を書いています。すると、なんだか気分がいいんです。ああ、字ってこういうものだったよな、みたいな懐かしさを感じます。だから、あなたもそういう日常生活における「小さな変化」を、リストアップしてみるといいと思いますよ。そうすれば、あるいは「大きな変化」も見えてくるかもしれません。
60代、教員の女性、rlungrlungさん
コロナ自粛生活で休校が続き、夜更かしもできるので、読書三昧です。久しぶりにカミュの『ペスト』を読み直してます。春樹さんは『ペスト』はいかがですか?
僕は高校時代に『ペスト』を読みました。昔の文学青年はみんなカミュを読んでましたね。今はあまり読まなくなったみたいだけど、このコロナ・ウイルスのおかげでというか、再び読まれるようになったみたいです。僕は今、ガルシア・マルケスの『コレラの時代の愛』を再読しています。こういうことでもなければ二度目を読むことはなかったかもしれないですね。異様なほど激しい愛の物語です。これ、面白いですよ。
ドーナツ屋の店長をしているという、50代の男性、玄界灘の羊男さん
休業要請のため、2週間ショッピングセンター内のドーナツ・ショップを休店していました。不要不急かといわれると、別に食べなくても、自粛生活には支障はないですよね、ドーナツは。ドーナツの穴だけでもショーケースに並べられたら、面白い「無」の陳列になったかもしれません。今は時間短縮ながら、営業を再開し、ドーナツ作って、仕事終わりにビールを飲んでいます。小確幸です。
ドーナツ、たとえ何があろうと、何が起ころうと、世の中には絶対に必要なものですよね。ドーナツ本体ももちろん素敵ですけど、「ドーナツの穴」という無の比喩も社会には欠かせません。ドーナツはいろんな意味で、世界を癒やします。がんばってドーナツを作り続けて下さい。僕は常に、ドーナツ・ショップの味方です。
40代、会社員の女性、白髪が目立つさん
私は子供の保育園が休園となり、旦那と交互に出勤しています。野球もないし、買い物も必要最低限でつまらない。村上さんの最近の楽しみを教えて下さい。
はい、うん、野球ねえ……うちには昔の試合をビデオにとったものがけっこうありまして、それをひとつひとつ観なおしています。僕の場合、ほとんどヤクルトスワローズの試合なんですが、野村監督の下でリーグ優勝を決めた試合とか、池山の引退試合とか、観てると懐かしいです。それからうちにはレーザーディスクがまだけっこうあるんです。このあいだは、ゴダールの作品を何本かまとめて観ました。バック・トゥー・ザ・1960’sみたいでなかなかよかったですよ。
60代、自営業の女性、羊女さん
コロナ騒ぎ以来、よくできたSF映画の中にいるような気がしてなりません。どこかでポイントが切り替わってしまったのでしょうか? 最近認知症の母がさかんに家の中に小さな子供が走り回っているとか小人の軍隊が行進していると言うようになりました。最初は取り合わなかった私ももしかしたらリトル・ピープルの事かもしれないと思い始めています。世界は変わろうとしているのでしょうか?
うーん、そうですか、リトル・ピープル、出てますか。なかなか怖いですよね。お母さん、世界の変貌を微妙に先取りしているのかもしれないですね。でもね、小説家がやっているのも、だいたいそれと同じようなことなんです。状況の変化にあわせて、普通の人が見えないものを、あるいは見ないようにしているものを、めざとく見つけてそれを文章にし、物語にすること。そういうのが小説家の大事な役目です。お母さんによろしくお伝え下さい。
調理師をしている50代の男性、こんぶとでんぶさん
春樹さんこんばんは。私は今、キプロスの日本食レストランで単身赴任で働いています。とはいえ、国がロックダウンしてしまい、仕事もなく、かといって家族のもとにも帰ることもできず、ただ日々悶々と過ごしています。ビーチはもう夏真っ盛りですが、ツーリストもいないので、餌の目当てをなくした野良猫たちと、ときどき慰め合っています。
そうですか、ロックダウンしたキプロスにおられるんだ。大変ですねえ。ロックダウン下ではありませんが、僕もギリシャの島で冬を過ごしたことがあります。観光客はいないし、店はみんな閉まっちゃうし、猫と遊ぶしかやることないんですよね。でも猫がいるだけでラッキーなんだと思って下さい。猫はいろんなことを人に教えてくれます。そうですよね、猫山さん。(みゃーお)
(パート2はこちら)
絵:フジモトマサル
特別協力:TOKYO FM
Murakami Radio: "Music for a Brighter Tomorrow" by HARUKI MURAKAMI
Good evening, everyone. This is Haruki Murakami.
We usually bring you Murakami Radio once every other month, but today's show is a special one, a two-hour program with a special theme: "Music for a Brighter Tomorrow."
The coronavirus has all of us feeling down these days, so let’s turn to the power of music to see if it can make us feel at least a little better.
Today’s show is not coming to you from the TOKYO FM studio as usual. I’m in my study at home. This is a stay-at-home show. I’m on my own, but I’ve got Nekoyama by my side, helping out. (note: Nekoyama is a cat character that often mews on the show) Meow. Okay, just don't get in the way.
These are difficult times. We're living with all kinds of restraints and new inconveniences. There's nothing easy about not seeing the people you want to see, or going the places you want to go, or doing the things you want to do. It's hard. Which is why I’ve chosen the songs you’re about to hear — this is music that, for me, has the power to soothe the soul, music that cheers me up a bit. I can't say for certain whether these tracks will cheer you up, but let’s give it a try.
I don't have any of the station's equipment here. All the songs you’re going to hear are playing on my home system, the system I always use when listening to music. If things sound a bit different today, that would be why.
1. The Modern Folk Quartet: LOOK FOR THE SILVER LINING
First, we have the Modern Folk Quartet: "Look for the Silver Lining." There's a saying in English: "Every cloud has a silver lining." No matter how tough things get, you can always look on the bright side. Tomorrow is another day. That's the hopeful message at the heart of this song. The Chet Baker version is better known, but I wanted to share the Modern Folk Quartet's take with you today.
When the Modern Folk Quartet got their start in the sixties, they relied on a repertoire of folk songs, as their name suggests, but later branched into a variety of other genres. And just listen to that harmony. It's incredible. Go on. Look for the silver lining. Try to find the sunny side of life.
2. Bruce Springsteen: Waitin' On A Sunny Day
Here we have a song from The Rising, the album Bruce Springsteen released just after 9/11. A New Yorker I know once said, "This album was really there for me when I needed it most." That's the kind of power music has. "Waitin’ on a Sunny Day" really grabs you by the heart. The lyrics are great, too.
3. Isley Meets Bacharach: Raindrops Keep Falling On My Head
Next up, "Raindrops Keep Falling on my Head," a song I’ll often turn to when I'm feeling down.
This version of the song is a rare team-up: a collaboration between Ronald Isley, lead singer for the Isley Brothers, and songwriter Burt Bacharach.
"I'm never gonna stop the rain by complaining." That’s a good line. It’s the truth, too. You’ve got to keep your chin up.
In today's world, there's a real tendency to put things in the starkest possible terms, to paint everything in black and white. Particularly online, there’s little to no room for ambiguity. Please forgive me for saying so, but this is a tendency I simply can't get behind. In reality, we’re always in the gray, wandering somewhere between what’s black and what’s white. And that makes us human. One of music’s fundamental roles is showing us this — showing it with compassion — and that gives us no small comfort. The same goes for fiction. It’s something I remember every time I hear music as wonderful as this.
4. Nina Simone: Here Comes the Sun
Nina Simone singing the George Harrison song, "Here Comes the Sun," recorded in 1971. Nina's on piano, as well. The lyrics could hardly be simpler — and the music could hardly be more powerful.
I once ran a ten-kilometer race with someone who was visually impaired. They were seeking volunteers, so I put my name down and was partnered with a man who was fully blind. We had our hands tied together with rope.
It was only then I really understood, but running a race with someone who can't see is difficult when you aren't used to it. You have to adjust your pace, and convey information to your running partner about what lies ahead, quickly and accurately. I’m pretty sure we ran at the American naval base near Atsugi, but I remember the course being surprisingly patchy. It was kind of dangerous. I had to make sure we didn't trip.
Fortunately, we finished the race without any problems. Before and during the race, my partner and I spoke about all kinds of things, but talking with him I came to realize how difficult it is for a completely blind runner to practice. You can’t always have your partner with you, so you have to come up with different ways to get your training in. It made me look back on all the times I told myself, "I'm feeling too tired today, I guess I'll skip my run." Listening to him describe his routine, I realized I'd been far, far too easy on myself.
Just like they say in "Raindrops," complaining won't solve anything. We have to do what we can, at our own pace. We can do it, as long as we take it one step at a time. The same is true when you're writing a novel. Let's keep our heads up and give it all we've got.
Isn't that right, Hitsujidani? (note: Hitsujidani is a sheep character that sometimes appears on the show) Baaah.
5. Carole King: You've Got A Friend
Next up is the Carole King classic, “You’ve Got a Friend.” This is a demo version recorded by King herself. When she was young, King was better known as a songwriter, not a singer. She wrote song after song for other artists, and she made plenty of demos to get those songs out into the world.
With her demos, the purpose was to provide a rough idea of what a song might sound like, so they tended to be pretty simple, with only a piano or some other simple accompaniment. Simple as they may be, her demos all sound so good that you have to wonder why she wouldn’t just sing them all herself. But young Carole didn’t think she had what it takes to become a star. She lacked confidence in her looks.
Her husband, lyricist Gerry Goffin, was a handsome man and his career got off to a strong start. For some time, King found herself hiding in his shadow. But when she put herself out there with Tapestry, King became a star like no other.
This version of "You've Got a Friend" was a demo tape for Tapestry. It's a simple recording: just King singing and playing the piano. The quality’s rough but, if you ask me, that just makes it more raw, and even more emotional, than what you get on the album. And listen to those lyrics.
6. Ella Fitzgerald: Over the Rainbow
Ella Fitzgerald singing the timeless theme from The Wizard of Oz. “Over the Rainbow” has been performed by many talented singers, but I’m partial to those versions of the song that start with the verse.
Not all versions include the verse, but Ella’s does, before the main melody. There’s something undeniably charming about beginning the song with the verse. The tenor solo toward the middle of the song is Plas Johnson.
This is a song that always sounds great.
7. Bob Marley & The Wailers: Sun Is Shining
Bob Marley's "Sun is Shining."
I remember my first encounter with this track. I heard it on Marley’s Natural Mystic, an album I own, but didn’t buy myself. A long time ago, I rented a car on Maui and this CD was in the car stereo. In other words, the person who’d rented the car before me must have left it there. It happens all the time, apparently.
I drove around the island, listening to Marley the whole time, and really fell for the album. When I took the car back, no one said anything about the disc, so I took it home.
Of course, "it" was just a disc. There was no case.
Then, one day two years later, at a Honolulu Goodwill, I found a copy of Natural Mystic for sale — but this copy had no disc included. “Case, liner notes only.” They wanted a dollar for it.
Whoever brought the case to Goodwill had to be the same person who left the CD in the car on Maui. Needless to say, I took out a dollar and bought it.
That's how I came to possess the disc and the case: a complete copy of Bob Marley’s Natural Mystic. Things really have a way of working out sometimes.
Yes, never forget. Fortune shines on us.
8. Louis Armstrong: What a Wonderful World
“What a Wonderful World”: one of the great songs from the later years of Louis Armstrong’s career.
This is a beautiful track, but the president of ABC-Paramount — Armstrong’s label at the time — hated it and did nothing to promote it. Needless to say, the record performed poorly in the U.S. as a result. But in the U.K. and beyond, it was a huge hit. Eventually the song would make its way back home to greater recognition. Like I said, things have a way of working out.
Then there's the way the song was used in the film Good Morning Vietnam — plenty of irony, truly wonderful.
9. Kate Taylor: Happy Birthday Sweet Darling
So many people out there are suffering in so many ways because of the coronavirus. For anyone with a birthday around this time of year, it has to be a real disappointment. You can't get everyone together to celebrate, you can’t go out for a good meal, and you probably won’t get that many presents.
So here’s this track, a little gift from me to you. It’s a birthday song: “Happy Birthday Sweet Darling,” sung by Kate Taylor, James’ little sister. It's a beautiful song. I like listening to this one on my own birthday. I'm playing it for you today on vinyl — a good old LP.
Happy birthday.
You’re a little bit older now... This time next year, there will be so many good things.
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translated by David Boyd
illustrations by Masaru Fujimoto
Special thanks to TOKYO FM
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村上春樹
むらかみ・はるき 1949(昭和24)年、京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。’79年『風の歌を聴け』(群像新人文学賞)でデビュー。主な長編小説に、『羊をめぐる冒険』(野間文芸新人賞)、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(谷崎潤一郎賞)、『ノルウェイの森』、『国境の南、太陽の西』、『ねじまき鳥クロニクル』(読売文学賞)、『海辺のカフカ』、『アフターダーク』、『1Q84』(毎日出版文化賞)、最新長編小説に『騎士団長殺し』がある。『神の子どもたちはみな踊る』、『東京奇譚集』、『パン屋再襲撃』などの短編小説集、『ポートレイト・イン・ジャズ』(絵・和田誠)など音楽に関わる著書、『村上ラヂオ』等のエッセイ集、紀行文、翻訳書など著訳書多数。多くの小説作品に魅力的な音楽が登場することでも知られる。海外での文学賞受賞も多く、2006(平成18)年フランツ・カフカ賞、フランク・オコナー国際短編賞、’09年エルサレム賞、’11年カタルーニャ国際賞、’16年アンデルセン文学賞を受賞。村上春樹新潮社公式サイト
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とは
はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
どうして自分が「考える人」なんだろう――。
手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか――手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。
「考える人」編集長
金寿煥
著者プロフィール
- 村上春樹
-
むらかみ・はるき 1949(昭和24)年、京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。’79年『風の歌を聴け』(群像新人文学賞)でデビュー。主な長編小説に、『羊をめぐる冒険』(野間文芸新人賞)、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(谷崎潤一郎賞)、『ノルウェイの森』、『国境の南、太陽の西』、『ねじまき鳥クロニクル』(読売文学賞)、『海辺のカフカ』、『アフターダーク』、『1Q84』(毎日出版文化賞)、最新長編小説に『騎士団長殺し』がある。『神の子どもたちはみな踊る』、『東京奇譚集』、『パン屋再襲撃』などの短編小説集、『ポートレイト・イン・ジャズ』(絵・和田誠)など音楽に関わる著書、『村上ラヂオ』等のエッセイ集、紀行文、翻訳書など著訳書多数。多くの小説作品に魅力的な音楽が登場することでも知られる。海外での文学賞受賞も多く、2006(平成18)年フランツ・カフカ賞、フランク・オコナー国際短編賞、’09年エルサレム賞、’11年カタルーニャ国際賞、’16年アンデルセン文学賞を受賞。村上春樹新潮社公式サイト
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