Webマガジン「考える人」

シンプルな暮らし、自分の頭で考える力。
知の楽しみにあふれたWebマガジン。
 
 

安田菜津紀の写真日記

長野県飯田市、友人の元でのびのびと過ごす猫ちゃんと。

 一段と冷え込む夕暮れ時。家路をたどる時間の中で、ちょっとした楽しみがある。民家に挟まれ、ひっそりとした小さな公園で、時々見かける猫の姿だ。
 少し灰色がかったその毛はふっくらとしていて、道端で見かける野良猫たちよりもずっと大柄だ。物おじすることなくどっしりと座り、話しかけるとちょっぴり野太い声で「ま~(にゃ~ではない)」と答えてすりよってくる。どうやら私以外にも彼女に会えることを楽しみにしている人たちがたくさんいるらしい。少し人通りの増える昼間に公園脇を通ると、工事の合間にお弁当をほおばるおじちゃんたちの足元でごろんと昼寝をしている。「こいつあ、人懐っこいよなあ」と、強面のおじちゃんたちの顔も緩む。
 そんな彼女の姿をおさめようと、時々カメラを向ける。ところがいざシャッターを切ろうとすると、するりするりとしなやかに、ファインダーの視界から消えてしまうのだ。結局彼女が納得してくれそうな美しい写りの写真は撮れずじまい。「プロとしてまだまだね!」と何だかからかわれているようだ。
 そんな茶目っ気たっぷりの彼女だが、この頃、なぜだか自分の心が晴れないときほど現れてくれることに気づいた。無くしものをして落ち込んでいたとき、亡くなった友人のことを考えていたとき。公園にふと目をやると、闇夜にふっと白っぽい影が浮かび、彼女がじっとこちらを覗いているのだ。
 しばらく姿を現さないとき、彼女が実は幻だったのではないかと思うことがある。「少し元気になったでしょ? あとは日常に戻って頑張んなさい」と言葉を投げかけるように、しっぽを振りながらまた闇の中へと去っていく彼女の姿を思い出しながら、私は今日も、同じ道を駅へと向かう。

夜によく散歩する公園。昼間に見かけるよりも、猫たちの顔はどこか凛としている。
君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―

君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―

安田菜津紀

2016/04/22発売

シリアからの残酷な映像ばかりが注目される中、その陰に隠れて見過ごされている難民たちの日常を現地取材。彼らのささやかな声に耳を澄まし、「置き去りにされた悲しみ」に寄り添いながら、その苦悩と希望を撮り、綴って伝える渾身のルポ。

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考える人とはとは

何かについて考え、それが「わかる」とはどういうことでしょうか。

「わかる」のが当然だった時代は終わり、平成も終わり、現在は「わからない」が当然な時代です。わからないことを前提として、自分なりの考え方を模索するしかありません。

わかるとは、いわば自分の外側にあるものを、自分の尺度に照らして新しく再構成していくこと。

“Plain living, high thinking”(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)*を編集理念に、Webメディア「考える人」は、わかりたい読者に向けて、知の楽しみにあふれたコンテンツをお届けします。

*産業革命後に急速な都市化が進むロンドンで、イギリスの詩人ワーズワースが書き遺した言葉。

 

 

「考える人」編集長
松村 正樹

著者プロフィール

安田菜津紀

1987年神奈川県生まれ。Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル)所属フォトジャーナリスト。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。

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