シンプルな暮らし、自分の頭で考える力。
知の楽しみにあふれたWebマガジン。
 
 

安田菜津紀の写真日記

東京都内の公園、夏の残り香の中で蝶たちが飛び交う

 菅首相が退陣するという。前首相の時代から、私は言葉の意味の軽さについてずっと考えている。桜を見る会の疑惑追及では、「募ってはいるが募集はしてない」という謎の表現が飛び出した。「ご飯は食べましたか?」という質問に対して、「ご飯は食べていないが、パンは食べた」という論点ずらしをするような返答が、「ご飯論法」と呼ばれるようになった。「誤解を与えたら申し訳ございません」という、受け取り方の問題に矮小化するような「謝罪」が横行している。「責任を痛感する」といいながら、責任をとることをしない姿勢はもはや珍しくない。言葉遊びで人を弄ぶのが政治家の仕事ではないはずだ。

 時折、「政府批判ではなく政策批判を」という声を耳にする。時には必要な考えである一方で、同じ過ちや失態が、リーダーが変わってもなお繰り返されるのであれば、やはりそこには温床となる構造的な問題が存在しているはずだ。個々に繰り出される、目先の政策だけにとらわれず、「土壌」自体に切り込まなければならないだろう。

 批判にはエネルギーがいる。時には心の休息が必要だ。政治性を排したエモーショナルな文章に浸りたくなることもある。ただ、「政治性を排することこそ好ましい表現」となってしまうのは、危ういと感じる。こうして多くの人々が政治に背を向けることほど、権力にとって都合のいいことはない。

 批判は時に、置き去りにしてはならない問題点をあぶり出し、よりよい社会を目指すために必要とされている行為だと私は考えている。だからこそ、社会に、政治に、問いかけ続ける。この数年間ですっかり軽くなってしまった言葉の意味を取り戻すために、今後も表現を続けていこう。

 この連載は今回で100回目を迎え、終了となりますが、今後も「言葉を取り戻す旅」の中で、皆さんにお目にかかれることを楽しみにしています。これまでご愛読、ありがとうございました。

秋深まる、長野県内の山里で
君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―

君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―

安田菜津紀

2016/04/22発売

シリアからの残酷な映像ばかりが注目される中、その陰に隠れて見過ごされている難民たちの日常を現地取材。彼らのささやかな声に耳を澄まし、「置き去りにされた悲しみ」に寄り添いながら、その苦悩と希望を撮り、綴って伝える渾身のルポ。

この記事をシェアする

関連するオススメの記事

MAIL MAGAZINE

「考える人」から生まれた本

もっとみる

テーマ

  • くらし
  • たべる
  • ことば
  • 自然
  • まなぶ
  • 思い出すこと
  • からだ
  • こころ
  • 世の中のうごき
  •  

考える人とはとは

 はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
どうして自分が「考える人」なんだろう――。
手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか――手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

「考える人」編集長
金寿煥

著者プロフィール

安田菜津紀

1987年神奈川県生まれ。NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)所属フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。

連載一覧

対談・インタビュー一覧


ランキング

イベント

テーマ

  • くらし
  • たべる
  • ことば
  • 自然
  • まなぶ
  • 思い出すこと
  • からだ
  • こころ
  • 世の中のうごき

  • ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標(登録番号第6091713号)です。ABJマークを掲示しているサービスの一覧はこちら