シンプルな暮らし、自分の頭で考える力。
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安田菜津紀の写真日記

2018年3月20日 安田菜津紀の写真日記

イラク戦争から15年 これは”遠くの出来事”なのか

著者: 安田菜津紀

イラク北部、ISから奪還直後の村。火薬を積み、自爆テロを計画していたとみられる車が、空爆でつぶれた状態で見つかった。

 2003年3月、高校1年生の春休みのことだった。どのチャンネルをつけてみても、乾いた大地と迷彩服が目に飛び込んできた。遠い地で起きていることに、あの時なりに想像力を働かせようと試みた。でもどうしても、実感がわかない。あまりにもテレビ越しに伝わってくる光景が理不尽にすぎるからこそ、これが本当に現実なのかと目を疑ったからかもしれない。
 そんな報道の中で、とりわけ衝撃だったことがある。当時ブッシュ大統領が「民間人の犠牲者数は、想定の範囲内」と話していたことだ。悲しみなのか、怒りなのか、あの時の感情を上手く言葉にできない。戦争だから"仕方ない"かのような積み重ねが、世界の"今"を築いてしまったのではないだろうか。
 昨年、ISから奪還されたばかりのイラク第二の都市、モスルを訪れた。「自分の父さんがひどく殴られていた」「ぼくのおじさんは撃ち殺された」。凄惨な状況を、なかば興奮気味に訴え続ける子どもたちを前に、ただ戸惑った。難民キャンプのソーシャルワーカーがため息をつく。「今は解放された高揚感の中にいる。でもこれが時間が経ち、ふとした瞬間に無気力になったり、逆に怒りっぽくなったり、眠れなくなったり。具体的な症状としてトラウマが表れていくのは、むしろこれからなんです」。
 「隣人はもしかすると、テロリストに加担していたかもしれない」。そんな不信感が至るところに根深く残った街は、ISの兵士たちが去った後にも火種を抱えているように見えてならなかった。ISが去ることも、目に見えた戦火がおさまることも、最終的なゴールではない。時が経つごとに深まってきた互いの間の溝を埋めていかなければならないのは、むしろこれからだ。
 あるとき、一人の女性にはっきりといわれたことがある。「今のイラクの混乱があるのは、イラク戦争があったからでしょう。あの時、アメリカの姿勢を追った日本に責任はないのでしょうか?」今、私たちが取り戻さなければならないのは、"当事者"という意識ではないだろうか。

テント一つで避難生活を送る少年。戦闘がおさまっても、がれきに覆われた街にすぐに戻れるわけではない。
君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―

君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―

安田菜津紀

2016/04/22発売

シリアからの残酷な映像ばかりが注目される中、その陰に隠れて見過ごされている難民たちの日常を現地取材。彼らのささやかな声に耳を澄まし、「置き去りにされた悲しみ」に寄り添いながら、その苦悩と希望を撮り、綴って伝える渾身のルポ。

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考える人とはとは

 はじめまして。2026年7月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、松本太郎と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただき、ありがとうございます。

 2002年7月4日、季刊誌「考える人」が創刊されました。

 目次には当代随一の執筆陣がずらりと並び、B5判240ページの誌面の隅々から知の香りが立ちのぼってくるかのようでした。

 当時、入社3か月の営業部員だった私は、見上げるような思いで手に取り、発売日には編集長の松家仁之さんと創刊のご挨拶のために書店にうかがいました。

 まだ書店訪問にも慣れておらず、編集長ともほぼ初対面の中、次のお店の約束の時間に間に合うだろうかと時計ばかりが気になって、終始、そわそわしていました。そんな私に松家さんがやわらかな笑顔で接してくれたこと、そして、新雑誌の門出を祝うようなすっきりと晴れた一日だったことを覚えています。

 あれから四半世紀が過ぎ、ウェブマガジンとして衣替えした今でも、創刊時に掲げられた「Plain living, high thinking(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という言葉は古びていません。AIに尋ねれば瞬時に答えが返ってくる時代だからこそ、それらしい言葉に飛びつくのではなく、自分の頭で考え、心の声に耳を澄ませることの大切さは増しているように感じます。

 創刊号には、養老孟司さんのロングインタビューが掲載されています。養老さんはその中で、恩師である中井準之助先生の口癖だった「人の心がわかる心を教養という」という言葉を紹介しています。

 読んだ瞬間に立ち止まり、さまざまな思いが湧き上がってくるような文章に、楽しみながら出会える場であり続けたいと思っています。

「考える人」編集長
松本太郎

著者プロフィール

安田菜津紀

1987年神奈川県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。

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