第2回 冷やしそうめん(7月6日筆)
著者: 土井善晴
『一汁一菜でよいという提案』がベストセラーになり、「一汁一菜」を実践する人が増えてきました。土井先生の毎日の実践を、旬の食材やその日の思考そのままに、ぎゅっと凝縮するかたちで読みたい! というたくさんの声を背景に、土井先生に、日々の料理探求を綴っていただきます。四季折々にある料理の「基準」とはなにか、ぜひ味わって、そして、自分なりの料理に挑戦してみてください。
そうめんは「ハレ」の日の食べ物だ。ジメジメした日本の暑い夏にあってこれほど喉越しのよいものはなかった。蕎麦は「ケ」の素朴、そうめんやうどんはハレの洗練という立場に、それぞれある。そうめんは白く、ツルツル(鶴鶴)の口当たりも縁起がよい。贈られた品物は、神様のお供え。飢饉の備えでもある。
腰の強い上質なそうめんは極寒期に作られ、天日で干し上げられると乾物になって、貯蔵倉庫で梅雨を越すと古物(ひねもの)となり、2回梅雨を越したものが大古物と言われ珍重される。長期保存は発酵と関わり、きっと微生物が産生する栄養もついてくる。手延べそうめんは作られて2〜3年が食べ頃と言われるが、作る時期、寝かせる期間などで、等級があり、束ねる帯の色で示される。
そうめんは、茹でたての冷やしたて、できたてのつゆでいただく。そのための情熱は暮らしの基本になる。
湯を沸かす間に、そうめんのつゆが作れる。つゆはお玉で114(いちいちよん)が醤油と味醂と水の割合、と言っても、醤油は少し控えて加減する。鰹の削り節ひとつかみ、昆布一枚を入れて、弱火で煮立てる。弱火は昆布がふくらむまでの時間かせぎ。煮立ったら固く絞った布巾で、清潔なボウルに絞りこす。氷水にボウルを浮かべて、回転させて急冷する。葱や茗荷を刻み、生姜をおろし、小皿に盛る。
そうめんは茹でて水にとり、冷めれば、しっかりもみ洗いして滑りを落とす。一本指に引っかけて麺をそろえ、そうめんが美しく映える鉢にもり、冷水をたっぷりはって氷を浮かべ、もみじの葉を一枚落とす。そうめん、つゆ、薬味はすっきり涼しげに。
*第3回は本日、第4・5回は9月20日金曜日配信の予定です。
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土井善晴
1957(昭和32)年、大阪生れ。芦屋大学教育学部卒。スイス、フランス、大阪で料理を修業し、土井勝料理学校講師を経て1992(平成4)年、「おいしいもの研究所」を設立。十文字学園女子大学特別招聘教授、甲子園大学客員教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員などを務め、「きょうの料理」(NHK)などに出演する。著書に『一汁一菜でよいという提案』(新潮文庫)、『一汁一菜でよいと至るまで』(新潮新書)、『くらしのための料理学』(NHK出版)、『味つけはせんでええんです』(ミシマ社)、『お味噌知る』(土井光さんとの共著、世界文化社)など多数。
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とは
はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
どうして自分が「考える人」なんだろう――。
手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか――手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。
「考える人」編集長
金寿煥
著者プロフィール
- 土井善晴
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1957(昭和32)年、大阪生れ。芦屋大学教育学部卒。スイス、フランス、大阪で料理を修業し、土井勝料理学校講師を経て1992(平成4)年、「おいしいもの研究所」を設立。十文字学園女子大学特別招聘教授、甲子園大学客員教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員などを務め、「きょうの料理」(NHK)などに出演する。著書に『一汁一菜でよいという提案』(新潮文庫)、『一汁一菜でよいと至るまで』(新潮新書)、『くらしのための料理学』(NHK出版)、『味つけはせんでええんです』(ミシマ社)、『お味噌知る』(土井光さんとの共著、世界文化社)など多数。
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