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料理は基準

2024年9月20日 料理は基準

第4回 ぬか漬けの盛り付け(7月20日筆)

著者: 土井善晴

一汁一菜でよいという提案』がベストセラーになり、「一汁一菜」を実践する人が増えてきました。土井先生の毎日の実践を、旬の食材やその日の思考そのままに、ぎゅっと凝縮するかたちで読みたい! というたくさんの声を背景に、土井先生に、日々の料理探求を綴っていただきます。四季折々にある料理の「基準」とはなにか、ぜひ味わって、そして、自分なりの料理に挑戦してみてください。

(写真提供:土井善晴)

 ぬか床に手を入れ、胡瓜と茄子、茗荷を取り出し、ぬかを落として、水で洗う。ままの野菜であるよりも、ぐっと深く、しっとりと匂うような、胡瓜の緑と茄子の紺。つど、きれいだなあと思う。

 素材感の強いぬか漬けは、力強い鉢にだって負けない。古道具屋で見つけた炭入れ。出土した山茶碗。実家にあった古い黒釉の片口。そんなものを見立てて、漬けもの鉢に用いる。器を選ぶ、これがすでに盛り付け。ぬか漬けには、盛るという楽しみがある。

 「花は野にあるように」と千利休は、生けかたの極意を言った。「野にあるように」というのは、自然に倣うこと。民藝の柳宗悦は花も料理もやらないが、物づくりにおける人間(職人)臭、すなわち作為を醜いものとして嫌った。

 初めて「漬けものを盛りなさい」と言われたとき、何をどうすればよいか手立てを知らず、脂汗が出てきた。きれいに切りたい、彩りよく並べたい、きれいに盛りたい。渋い鉢にかっこよくなどという過剰な自意識は、盛り付けに作為としてあらわれる。漬けものの盛り付けにこれといった約束事はなく、自然に盛ればいいと、後年わかった。

 何も知らない人に、どう盛ればいいですかと問われたとき、「食べやすく、自由に盛ればいいですよ」と答える。ただ素直に盛れば、きれいになる。野菜の美しさを損なわず、素直に、盛ればいい。とは言っても、これがなかなかできない。いやかなりむずかしい。今も、むずかしいから、おもしろい。

 みなさんも器を選んで、自由に盛り付けてみてください。夏の間の毎日の漬けものの楽しみ。ひと夏過ぎればなにかがわかる。

 

*第5回は本日、第6・7回は9月27日金曜日配信の予定です。

 

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考える人とはとは

 はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
どうして自分が「考える人」なんだろう―。
手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか―手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

「考える人」編集長
金寿煥

著者プロフィール

土井善晴

1957(昭和32)年、大阪生れ。芦屋大学教育学部卒。スイス、フランス、大阪で料理を修業し、土井勝料理学校講師を経て1992(平成4)年、「おいしいもの研究所」を設立。十文字学園女子大学特別招聘教授、甲子園大学客員教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員などを務め、「きょうの料理」(NHK)などに出演する。著書に『一汁一菜でよいという提案』(新潮文庫)、『一汁一菜でよいと至るまで』(新潮新書)、『くらしのための料理学』(NHK出版)、『味つけはせんでええんです』(ミシマ社)、『お味噌知る』(土井光さんとの共著、世界文化社)など多数。


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