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料理は基準

2024年9月27日 料理は基準

第6回 ゴーヤーチャンプルー(8月11日筆)

著者: 土井善晴

一汁一菜でよいという提案』がベストセラーになり、「一汁一菜」を実践する人が増えてきました。土井先生の毎日の実践を、旬の食材やその日の思考そのままに、ぎゅっと凝縮するかたちで読みたい! というたくさんの声を背景に、土井先生に、日々の料理探求を綴っていただきます。四季折々にある料理の「基準」とはなにか、ぜひ味わって、そして、自分なりの料理に挑戦してみてください。

 沖縄の郷土料理、チャンプルーとは、ただ数種の具材の炒めものではない。チャンプルーとは「お豆腐の入った」炒め物だ。ご飯、そうめんなどでんぷん質をシンプルに炒めたものはタシヤー、炒めて煮汁を煮詰めたものがイリチー、と区別される。

 苦瓜を沖縄では、ゴーヤーと語尾を伸ばすとおばあに教わった。「ゴーヤーは好き嫌い言わずに食べなさいよ」 と、夏になると、沖縄の友人は幼い頃から聞かされたそうだ。慣れれば苦味は好きになってくる。苦味が苦手な方からは、薄く切ってボイル・塩揉みと苦味を抜く工夫を聞くが、もったいないなあ。

 ゴーヤーチャンプルーとは、ゴーヤー、木綿豆腐、豚バラ肉、卵を使った炒めもの。おばあに作り方を教わったわけではないが、経験的に最善のゴーヤーチャンプルーを考える。炒め物といえば中国料理の強火のイメージだが、日本の家庭(料理)には設備も道具も技術もない。韓国料理のチャプチェに倣って、食材をひとつひとつ別々に火を通して、最後にまとめることにした。

 フライパン(フッ素加工)に油、豆腐を適当にちぎり入れ、塩を軽くして、焼き色がつくまで待つ。箸で転がし、複数面に焼き色をつけて、取り出す。ついで、油を補い、種を抜いて好みの厚みに切ったゴーヤーを入れ、薄塩をし、こちらも焼き色がつくまで待ち、取り出す。ついで、食べやすく切った豚バラ肉を入れ、薄塩、焼き色がつくまで待つ。さて、フライパンのバラ肉の上に、豆腐、ゴーヤーを戻し、鍋肌から醤油を垂らし、醤油を軽く焦がして、溶き卵を2度に分けて流し入れ(鍋返しして)卵でくるむようにして、そのままヤチムンの皿に滑らせる。素材を活かしたチャンプルーの出来上がり。

 

*第7回は本日、第8・9回は10月4日金曜日配信の予定です。

 

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考える人とはとは

 はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
どうして自分が「考える人」なんだろう―。
手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか―手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

「考える人」編集長
金寿煥

著者プロフィール

土井善晴

1957(昭和32)年、大阪生れ。芦屋大学教育学部卒。スイス、フランス、大阪で料理を修業し、土井勝料理学校講師を経て1992(平成4)年、「おいしいもの研究所」を設立。十文字学園女子大学特別招聘教授、甲子園大学客員教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員などを務め、「きょうの料理」(NHK)などに出演する。著書に『一汁一菜でよいという提案』(新潮文庫)、『一汁一菜でよいと至るまで』(新潮新書)、『くらしのための料理学』(NHK出版)、『味つけはせんでええんです』(ミシマ社)、『お味噌知る』(土井光さんとの共著、世界文化社)など多数。


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