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料理は基準

2024年9月27日 料理は基準

第7回 精進あげ(8月17日筆)

著者: 土井善晴

一汁一菜でよいという提案』がベストセラーになり、「一汁一菜」を実践する人が増えてきました。土井先生の毎日の実践を、旬の食材やその日の思考そのままに、ぎゅっと凝縮するかたちで読みたい! というたくさんの声を背景に、土井先生に、日々の料理探求を綴っていただきます。四季折々にある料理の「基準」とはなにか、ぜひ味わって、そして、自分なりの料理に挑戦してみてください。

 お盆は、ご先祖さまが家に戻ってくる日。親族が集まり会食し時間を過ごすことが供養になる。会食の献立は、肉魚といった生臭ものを避け、かつ、暑い夏に安心して食べられる手料理となると、お決まりの冷たいそうめんに野菜ばかりの精進あげ。さつま芋、蓮根、牛蒡、人参などの根菜に、夏野菜のカボチャ、玉葱、茄子をプラス。時間をかけてじっくり揚げた揚げ物を大皿に盛り、そうめんは茹でたてを氷水に放ち、昆布や椎茸で取ったつゆ(汁)を添える。

 近頃、揚げ物のおいしさではサクサクした衣の食感ばかりが強調される。冷めても「サクサク」の市販の天ぷら粉を用いることになるが、「サクサク」とは衣の水分が失われ完全に油だけになったコンディションだ。重曹の働きで衣に水分が混じりにくくなる。熱々のうちはまだよいが、冷めればベトベトしてまずいし、身体にも悪そうだ。

 専門店では、客は揚げたてを食べるのが作法。時間をおけば、どんな名人が揚げても、具材から水分が滲み出て衣がぼやぼやする。家庭料理熱の高かった昭和時代、「天ぷらをからりと揚げるコツは?」という質問はお決まりだった。衣の材料の卵・小麦粉・水は全てを冷たくすること。衣は粘りが出ないように混ぜすぎないこと。たっぷりの油で少量ずつ揚げ、揚がればすぐに食べること。と説明したが、これでは揚げ手は食べられない。

 専門店の天ぷらと家庭の精進あげでは、食材・衣の配合・油の量・食べ方も目的も違うもの。

 家庭料理の精進あげは、おいしい。根菜は水分が少ないので、冷めてもべとべとせず、しっとり食材の風味がよい。

 

*次回(第8・9回)は、10月4日金曜日配信の予定です。

 

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考える人とはとは

 はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
どうして自分が「考える人」なんだろう―。
手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか―手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

「考える人」編集長
金寿煥

著者プロフィール

土井善晴

1957(昭和32)年、大阪生れ。芦屋大学教育学部卒。スイス、フランス、大阪で料理を修業し、土井勝料理学校講師を経て1992(平成4)年、「おいしいもの研究所」を設立。十文字学園女子大学特別招聘教授、甲子園大学客員教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員などを務め、「きょうの料理」(NHK)などに出演する。著書に『一汁一菜でよいという提案』(新潮文庫)、『一汁一菜でよいと至るまで』(新潮新書)、『くらしのための料理学』(NHK出版)、『味つけはせんでええんです』(ミシマ社)、『お味噌知る』(土井光さんとの共著、世界文化社)など多数。


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