第21回 サラダ(11月23日筆)
著者: 土井善晴
『一汁一菜でよいという提案』がベストセラーになり、「一汁一菜」を実践する人が増えてきました。土井先生の毎日の実践を、旬の食材やその日の思考そのままに、ぎゅっと凝縮するかたちで読みたい! というたくさんの声を背景に、土井先生に、日々の料理探求を綴っていただきます。四季折々にある料理の「基準」とはなにか、ぜひ味わって、そして、自分なりの料理に挑戦してみてください。
この頃、夜の食事を軽くしたいと思って、サラダをよく作る。
片っぱしから野菜を切っていく。清潔なまな板、よく切れる包丁で、胡瓜やパプリカ、人参、トマト、キャベツを千切りにして、大きめの皿にのせていく。玉ねぎは水晒ししない。サラダ菜は、買ったときに、適当にちぎってきれいに洗い水気を拭いてポリ袋に入れてある。
そうした野菜にプラスして、この日は芝海老だ。ボイルして、丁寧に皮を剥く。この前焼いたお肉の半分食べ残したのを薄く切ってもいい。ツナ缶を開けることもある。何かしらタンパク質があれば、あとは冷蔵庫の野菜とでサラダができ、メインになる。
こんな、合理的でルール不要の自由自在なサラダはプロの世界にはなかった。
私は思う。このサラダは簡単ではない。瞬時のセンスの良い判断を要求されるから難しい。センスとは正解の選択だ。正解となったサラダは美しい。細やかな生活の心配りがサラダという詩になって表れる。
醤油と米酢、オリーブオイルを加減して、割合をだいたい1対1対2〜3ほどにし、泡立て器で混ぜ、とろりとさせてサラダにかける醤油ドレッシングをつくる。これでご飯が食べられるほどだ。
全卵に油、塩、酢を入れてブレンダーにかけ数秒で作るマヨネーズは物足りない。私は、卵黄を料理鉢に入れて、分離しないように絶えず混ぜながら、油を糸のように垂らし加えることにしている。面倒くさいという感じは起きない。
このサラダは妻に習った。妻にリードされて料理し、民藝的な愛想の無い器を選んで盛りつけ、テーブルを調えて食べる。これがありがたい。プレッシャーのないところにおいしいものは生まれると知る。
*次回は、1月17日金曜日配信の予定です。
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土井善晴
1957(昭和32)年、大阪生れ。芦屋大学教育学部卒。スイス、フランス、大阪で料理を修業し、土井勝料理学校講師を経て1992(平成4)年、「おいしいもの研究所」を設立。十文字学園女子大学特別招聘教授、甲子園大学客員教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員などを務め、「きょうの料理」(NHK)などに出演する。著書に『一汁一菜でよいという提案』(新潮文庫)、『一汁一菜でよいと至るまで』(新潮新書)、『くらしのための料理学』(NHK出版)、『味つけはせんでええんです』(ミシマ社)、『お味噌知る』(土井光さんとの共著、世界文化社)など多数。
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とは
はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
どうして自分が「考える人」なんだろう――。
手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか――手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。
「考える人」編集長
金寿煥
著者プロフィール
- 土井善晴
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1957(昭和32)年、大阪生れ。芦屋大学教育学部卒。スイス、フランス、大阪で料理を修業し、土井勝料理学校講師を経て1992(平成4)年、「おいしいもの研究所」を設立。十文字学園女子大学特別招聘教授、甲子園大学客員教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員などを務め、「きょうの料理」(NHK)などに出演する。著書に『一汁一菜でよいという提案』(新潮文庫)、『一汁一菜でよいと至るまで』(新潮新書)、『くらしのための料理学』(NHK出版)、『味つけはせんでええんです』(ミシマ社)、『お味噌知る』(土井光さんとの共著、世界文化社)など多数。
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