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ブレイディみかこ×ヤマザキマリ「パンク母ちゃん」

2021年6月24日

ブレイディみかこ×ヤマザキマリ「パンク母ちゃん」

1. パンクな母ちゃんとクレバーな息子たち

著者: ブレイディみかこ , ヤマザキマリ

 60万部を超えるヒットとなった『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』の文庫化を記念して、ブレイディみかこさんとヤマザキマリさんの対談「パンク母ちゃん」を全3回に分けてお届けします。
 初対面にしてすぐに意気投合したふたりには、「長い海外生活」「外国人男性との間に生まれたひとり息子」など、多くの共通点があることが明らかに。何よりふたりともパンクにハマった青春時代があり、その経験が後の人生に大きな影響を与えたこと――。
 海外での凄絶な恋愛、出産、子育て、その経験から見えてくる日本という国の特殊性など、これまでタフな修羅場の数々をくぐり抜けてきたふたりによる、グルーヴ感溢れる対話をお楽しみください。
 第1回は、それぞれのパンク体験、そんな母ちゃんのもとで育った逞しい息子たちについて。「絶対にマネできない子育て」が語られます。(編集・構成:「考える人」編集部)

 対談は3回に分けて配信。当サイトでは、それぞれの冒頭を公開します。続きは「note」での有料コンテンツとなります。
 記事をそれぞれ単体で買うと1本500円×3=1500円ですが、全3回を【1000円】で読めるお得な有料マガジンもございます。マガジンを最初に購入すると、すでに配信されている第2回第3回を追加購入することなくお読みになれます。 

我らパンク母ちゃん

 ヤマザキ (ブレイディさんの着ているTシャツを指さして)あ、PiL!(註:Public Image Ltd、セックス・ピストルズを脱退したジョン・ライドンが1978年に結成したバンド)

ブレイディ え、お好きなんですか?

ヤマザキ 好きも何も、『PIL』(オフィスユーコミックス、2011年)というマンガを描いたこともあるぐらいで。フィクションですが、パンクにはまった私の高校時代の経験をもとに描いたマンガなんです。

ブレイディ えーー!? 昨日、高橋源一郎さんのラジオ番組に出演した時にPiLの曲をかけてもらって、それで思い出してこのTシャツを選んだだけで…。

ヤマザキ てっきり私のマンガを読んでいただいたのかと(笑)

ブレイディ 本当にたまたまなんです。

ヤマザキ 凄い偶然。

ブレイディ 本当ですね。何となくヤマザキさんとパンクが結びつきませんでした。留学されたのはイタリア、そこでルネッサンス絵画の勉強をして、古代ローマのマンガを描かれていて…というイメージだったので。

ヤマザキ イタリアに渡るまで、高校時代はパンクに染まり切った毎日を過ごしていました。16歳だったから1983年頃のことで、熱心になり始めた頃にはすでにセックス・ピストルズは解散していました。だからジョニー・ロットンではなくてジョン・ライドン(註:「ジョニー・ロットン」はセックス・ピストルズ在籍時のニックネーム)、まさにPiLの世代なんですよ。

ブレイディ 私は小学6年生の時にピストルズを初めて聴きました。

ヤマザキ それは早い! 日本にそんな小学生がいたとは(笑)

ブレイディ 私はヤマザキさんの2歳上の1965年生まれで、小学6年生の時は1977年。ピストルズの『NEVER MIND THE BOLLOCKS』がその年の10月発売ですから、バリバリの頃です。福岡出身なのですが、ベイ・シティ・ローラーズからパンクに流れた少女たちが故郷には一定数いました。福岡は音楽がさかんな場所なので、イギリスの情報が入るのがすごく早かったから。

ヤマザキ パンクに惹かれたのは音楽もそうですけど、何よりもあのイギリス独特の「ワーキング・クラス」文化というのがクールでかっこよくて。憧れました。

ブレイディ それー! わかります、わかります。

ヤマザキ 当時私はいわゆる「お嬢様学校」のミッション・スクールに通っていました。いろいろと縛りが多くて、それに背こうとするといちいち先生の逆鱗に触れる。だからこそ余計に反骨精神丸出しのパンクの世界観に憧れたんですよね。

ブレイディ 私も高校は進学校だったので、その感じもわかります。

ヤマザキ マンガにも描きましたけど、そうしたお嬢様な校風に抗うために始めたのが、チリ紙交換のバイトだったんです。パンクになるためには「ワーキング・クラス」の世界を知らなきゃいけないって。肉体労働も体験してます、「チリ紙交換」ですけどね(笑)

ブレイディ それは本物のパンクスだ(笑)

ヤマザキ 1日10時間ぐらいクタクタになるまで働いて、いただけるのが500円。理想と現実のギャップを思い知らされましたね。

ブレイディ 私は福岡出身だから、「めんたいロック」直撃世代。多感な時期に、シーナ&ザ・ロケッツやザ・モッズやザ・ルースターズがシーンにいて、私はルースターズ派だったのですが、友だちのお兄ちゃんやお姉ちゃんとか、福岡のちょっと悪い子たちはみんなバンドをやっていました。

ヤマザキ 当時はそうですよね。小学生でパンクに目覚めたのはどういうきっかけだったんですか?

ブレイディ バンドをやってるお兄ちゃんがいる友だちの家でピストルズのビデオを観たんです。そのジョニー・ロットンが衝撃的で、「何だこの生き物は? こいつ誰だ!」って。

ヤマザキ まあ、誰にとってもあの人の有り様は衝撃でしょう。

ブレイディ これまで見たどんな人間とも違いましたからね。世の中のありとあらゆるものを憎んでいるような眼をしていたでしょう。ベイ・シティ・ローラーズが一瞬でぶっ飛んだ。あの瞬間、私の人生は変わりました。

ヤマザキ ものすごくわかります。でも念のため、これはパンクについての対談じゃないですよね(笑)

第2回はこちら

ブレイディみかこ×ヤマザキマリ「パンク母ちゃん」全3回概要

1.パンクな母ちゃんとクレバーな息子たち
我らパンク母ちゃん/貧乏でもクールになれる国/着物で外国人を落とせる!?/恋愛にナショナリティを持ち込むな/海外への根深い劣等感/勝手に育った息子たち/エンパシーへの風通し/「こういうことは世界のどこに行ってもある」/「どこでもアウェー」な息子たちをリスペクト

2. 詩人と本気で恋をした
詩人はダメ、絶対/アイルランドの詩人はヤバい/「私もアイルランド人と…」/イタリアの詩人、その後日談/悲劇もすべて笑い飛ばす

3. 私たち一生「グリーン」
We love トラック野郎/イギリスでの出産経験/私たち一生グリーン/パンクよ、ありがとう

ブレイディみかこ

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー

2021/06/24 新潮文庫

公式サイトはこちら

ブレイディみかこ

ライター・コラムニスト。1965年生まれ。福岡県出身。音楽好きが高じてアルバイトと渡英を繰り返し、1996年から英国ブライトン在住。ロンドンの日系企業で数年間勤務したのち英国で保育士資格を取得、「最底辺保育所」で働きながらライター活動を開始。2017年『子どもたちの階級闘争』で新潮ドキュメント賞を、2019年『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』でYahoo!ニュース|本屋大賞2019年ノンフィクション本大賞などを受賞。他の著書に『THIS IS JAPAN』『ヨーロッパ・コーリング』『女たちのテロル』『ブロークン・ブリテンに聞け』『女たちのポリティクス』『他者の靴を履く』などがある。

ヤマザキマリ

1967年東京都生まれ。漫画家・文筆家・画家。東京造形大学客員教授。1984年にイタリアに渡り、フィレンツェの国立アカデミア美術学院で美術史・油絵を専攻。比較文学研究者のイタリア人との結婚を機にエジプト、シリア、ポルトガル、アメリカなどの国々に暮らす。2010年『テルマエ・ロマエ』で第3回マンガ大賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。2015 年度芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。2017年イタリア共和国星勲章コメンダトーレ綬章。著書に『プリニウス』(新潮社、とり・みきと共著)、『オリンピア・キュクロス』(集英社)、『ヴィオラ母さん』(文藝春秋)、『パスタぎらい』(新潮社)、『扉の向う側』(マガジンハウス)など。

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考える人とはとは

 はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
どうして自分が「考える人」なんだろう―。
手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか―手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

「考える人」編集長
金寿煥

著者プロフィール

ブレイディみかこ

ライター・コラムニスト。1965年生まれ。福岡県出身。音楽好きが高じてアルバイトと渡英を繰り返し、1996年から英国ブライトン在住。ロンドンの日系企業で数年間勤務したのち英国で保育士資格を取得、「最底辺保育所」で働きながらライター活動を開始。2017年『子どもたちの階級闘争』で新潮ドキュメント賞を、2019年『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』でYahoo!ニュース|本屋大賞2019年ノンフィクション本大賞などを受賞。他の著書に『THIS IS JAPAN』『ヨーロッパ・コーリング』『女たちのテロル』『ブロークン・ブリテンに聞け』『女たちのポリティクス』『他者の靴を履く』などがある。

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ヤマザキマリ

1967年東京都生まれ。漫画家・文筆家・画家。東京造形大学客員教授。1984年にイタリアに渡り、フィレンツェの国立アカデミア美術学院で美術史・油絵を専攻。比較文学研究者のイタリア人との結婚を機にエジプト、シリア、ポルトガル、アメリカなどの国々に暮らす。2010年『テルマエ・ロマエ』で第3回マンガ大賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。2015 年度芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。2017年イタリア共和国星勲章コメンダトーレ綬章。著書に『プリニウス』(新潮社、とり・みきと共著)、『オリンピア・キュクロス』(集英社)、『ヴィオラ母さん』(文藝春秋)、『パスタぎらい』(新潮社)、『扉の向う側』(マガジンハウス)など。

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