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ロジャー・ペンローズ インタビュー

2020年10月21日

ロジャー・ペンローズ インタビュー

ペンローズへの巡礼 前篇

著者: ロジャー・ペンローズ , 茂木健一郎

2020年のノーベル物理学賞受賞者のひとり、ロジャー・ペンローズ。受賞を記念して、「考える人」2005年夏号〈「心と脳」をおさらいする〉特集に掲載された茂木健一郎氏によるロングインタビューを改めてここに掲載します。

天才物理学者、という言葉がこれほど適切な人物もまずいないだろう。スティーヴン・ホーキング博士との共同研究によるブラックホールの証明。量子重力理論、ツイスター理論。その彼が意識についての大胆な仮説を提案した『皇帝の新しい心』を発表して16年。批判と賞賛の嵐を経たのち、世界的科学者の現在は。

ペンローズとの出会い

 ロジャー・ペンローズに会うのは、私の人生においては掛け替えのない、特別な出来事である。
 ペンローズの『皇帝の新しい心』を初めて読んだのは、まだ自分が将来脳の研究をするなどとは思ってもいなかった、大学院生の頃だった。一九八九年のことである。読み終わった時、世界が今までと変わって見えた。あれほどの知的な興奮を覚えた経験は、これまでの人生の中でも数えるくらいしかない。
 ペンローズがこの本の中で扱っていたのは、人間の心、とりわけその「知性」の本質は何か、ということだった。
 考えてみれば、それまでの大学院での研究生活の中で、人間の知性の本質が何であるかという問題を、学会や仲間内で議論することはほとんどなかった。科学的発見を行い、技術を生み出してきた人間の知性は、いわば暗黙のうちに前提とされていることであり、それ自体を問い直すということは、余り省みられていなかったのである。
 人間が考えるということはどういうことかという問題についての本質的な思考を辿ることなく、ただ、何とはなしの楽観論が支配していた。日進月歩のコンピュータがそのうち人間の脳の機能に追いつくようになり、人間の知性を再現した「人工知能」もそのうちにできるだろうという空気が支配的だったのである。
 しかし、ペンローズだけは違っていた。ペンローズは、人間の知性とは一体何かという問題に、正面から取り組んだ。その結果提案された仮説は、驚くべきものだった。決まった「プログラム」に従って様々な計算をこなして行くコンピュータには、人間のように考えることは永遠にできない。人間は、コンピュータにはできない「非計算論的」な思考をすることができる。そして、人間の思考の根底には、「意識」を支える脳のメカニズムがある。これが、ペンローズが提出したきわめて大胆な仮説だったのである。
 ペンローズが平凡な科学者だったら、この大胆な仮説も無視されて終わっていたかもしれない。しかし、彼はすでに二十世紀の偉大な数理物理学者の一人として広くその名前を知られていた。車椅子の天才物理学者、スティーヴン・ホーキングと共に取り組んだ一般相対性理論の時空の特異点(*1)に関する研究は、理論宇宙物理学において時代を画する業績として評価されている。アインシュタインの相対性理論が支配する時間と空間の構造を記述する「ツイスター」(*2)は、きわめて独創的な数学的発明である。そして、若き日に考案した現実に存在することが不可能な図形、『ペンローズの三角形』は、オランダの画家エッシャーの『階段の家』『滝』『上昇と下降』といった有名な作品の元となるアイデアを提供したと言われている。あまりにも多彩で、深い才能。その偉大な数学的天才が、人間は意識を持つ故にこそ、コンピュータには不可能なことができるのだと主張したのだ。
 全てが機能的で、割り切ったものになっていくかに見える現代に突然登場した、人間の知性にまつわる最上級のロマン。『皇帝の新しい心』が、専門の研究者のみならず、広く一般の関心を惹いたことは当然のことだった。
 時が経ち、大学院生時代からの「あこがれ」の人、ペンローズについに会えたのは、ケンブリッジ大学に留学していた一九九七年初頭のことだった。特別レクチャーの講師として、私たち若手研究者が中心となって招聘したのである。実際のペンローズは想像していた以上に素敵な人だった。その類い希なる知性とチャーミングな人柄に、すっかり魅せられた。一緒にいた二日間で、随分沢山のことを吸収した。
 それ以来、ペンローズが来日した際に京都で食事をして議論するなど、交流が続いている。数年前、私の「一番弟子」の田谷文彦とオックスフォード大学に訪ねたこともある。 今回、オックスフォード大学の数学研究所にペンローズを再び訪ねた。昨年出版された 『現実への道』 (The Road to Reality 未訳)は、数理物理学の立場から、この世界のリアリティをつくっている秩序について考察した大著である。ペンローズは、一仕事を終えて、少しは時間に余裕ができ、新しいことを考え始めているらしい。ペンローズは、この世界をつくり出す数学的秩序について、そして意識のミステリーについて、最近はどんなことを考えているのだろうか。オックスフォードに向かう美しい田園風景を眺めながら、私は次第にふくらんでくる期待感を押さえることができなかった。

若きペンローズ

 オックスフォードの中心街、セント・ジャイルズ通りに面して立つ数学研究所の玄関ホールには、ペンローズが考案した「ペンローズ・タイル(*3)」が展示されていた。おお、ここにあった! としばらく眺める。受付で来意を告げると、しばらくしてペンローズその人がやってきた。小柄な身体から控えめな、しかし力強い精力が伝わってくる。
 いたずらっぽく笑うその目といい、以前会った時と全く変わっていない。私は、何だかほっとして、握った手が温かく感じられた。
 黒板が三つ並んだ講義室に入ると、ペンローズは、さて、というように椅子に座った。私は、講義室のドアをそっと閉めに行った。それから私も椅子に座り、ペンローズと向き合い、さっそくインタビューを始めた。
 まずは、ペンローズがなぜ数学や物理学、そして意識の問題に興味を持つに至ったのか、その点を改めて聞いてみた。

―数学や物理、意識の問題に興味を持つ上では、家庭的な環境の影響は、大きかったのですか?

「確かにそうかもしれません。私の父は、生物学者で、遺伝の研究をしていました。父は、同時に、心の問題にも深い関心を抱いていました。というのも、父は、遺伝的な精神障害に特に興味を持って研究をしていたからです。
 兄は、数学や物理学に興味を持っていましたから、志向が一致していたと言えるかもしれません。一方、弟は、チェスにしか興味がありませんでした。後に、チェスの全英選手権で十回優勝したほどの、チェス好きだったのです。私自身は、どちらかと言えば、チェスよりも碁をやりました。子供の頃、日本人の研究者がやってくると、父は私が一緒に碁をやるようにし向けました。私にとっては、碁の方がチェスよりも数学的な感じがして、好ましかったのです」

―最初から数学をやるつもりだったのですか?

「いいえ。私は最初、医者になる予定でした。脳外科医になりたいと思っていたのです。脳の中を覗き込むことによって、脳がどう働くかを知りたいと思っていました。
 十六歳の時に、校長先生との面接がありました。高校の最後の二年間のプロジェクトとして、何を選択するか、と聞かれたのです。私は、生物と、化学、数学がやりたいと答えました。すると、校長先生が、それはダメだ! と言うのです。生物学と数学を一緒にやることなど、不可能だ! と断言するのです。そこで、私は仕方がなく、それでは数学、物理、化学をやりますと答えました。他の教科はどうでもよくて、とにかく数学がやりたかったのです。
 家に帰って面談の結果を報告すると、両親は大変がっかりしました。これで、もはや私が医者になることはないだろう、と思ったらしいのです。
 大学に入って、数学を研究しはじめると、父はそれもあまり快く思いませんでした。『数学というのは、数学しかできない変人がやるものだ!』と言うのです。そして、『数学以外のこともできる人は、数学を使って何かをやることを考えるべきだ』と諭されました。
 数学をやることに決めていた私は困ったのですが、ある出来事に助けられました。ロンドンのユニヴァーシティ・カレッジにいた父の知り合いの研究者が、私の数学の能力をテストしようと、十二個の問題を作ってくれたのです。どれも、かなり難しいものでした。それを、私は一日で全部解いてしまいました。それで、父も私の適性を認め、数学に専念することを認めてくれたのです」

意識の問題への関心の芽生え

―ケンブリッジ大学では、数学を専攻したわけですが、その際、数学への関心の延長として、物理学にも興味を持ったのですか?

「ええ、そうです。イギリスでは、数学専攻の人も、同時に物理学を学ぶ伝統があります。ケンブリッジで私は純粋数学(*4)を研究していましたが、同時にボー・ディラック(イギリスの数理物理学者、量子電気力学を確立)やヘルマン・ボンディ(オーストリア生まれのイギリスの宇宙論研究者、定常宇宙論を提唱)のような偉大な物理学者たちにも学ぶ機会がありました。そこで、一般相対性理論や量子力学(*5)などの物理学の基礎的な問題に興味を持つようになったのです。
 一般相対性理論で表現される時空の中には特異点があることを示したスティーヴン・ホーキングとの共同研究は、ホーキングの指導教官に薦められたのがきっかけです」

―どのようにして、意識の問題に興味を持つようになったのでしょう?

「意識の問題には、どういうわけか子供の時から興味を持っていました。だからこそ、医者をやるんだったら脳外科医になりたいと思ったのでしょう。
 父とも、意識をめぐって議論することがありました。父自身、意識の問題に興味があったようです。ケンブリッジで学んだ後、精神分析医になろうと思ってウィーンに行きましたが、そこで、フロイトの講義を聴いて、失望を感じたと聞いています。フロイトのアプローチは、父の好みから見ると、あまり科学的ではなかったのです。父は、コンピュータは、意識の問題を解決する上では役に立たないと考えていました。しばしば、コンピュータなんて、より良くみるための眼鏡のようなもので、目そのものではないと言っていたのを覚えています。
 その後ケンブリッジで大学院生だった時に、今日のコンピュータの基礎を創ったチューリングの理論(*6)や、数学の論理体系の中に証明不可能な命題があるというゲーデルの定理(*7)を学びました。その時、『人間には意識があるからこそ、コンピュータにはできないこと、すなわち非計算論的(*8)なことができる』という考えを持つに至ったのです」

―長年、その直観を持ち続けていて、そして一九八九年の『皇帝の新しい心』の出版に至ったわけですね。

「『皇帝の新しい心』のような本は、いつかは書こうと思っていました。それでも、実際に書くのはいわば『引退した』後で、人生の最後に世に問うような本になるか、と思っていました。
 それが、あるテレビ番組を見たことがきっかけとなって、状況が変わりました。マーヴィン・ミンスキー(アメリカの人工知能研究者、“人工知能の父”と言われる)をはじめとする人々が、人工知能の将来について驚くほど楽観的な見通しを語っている番組がBBCで放送されたのです。ミンスキーたちは、コンピュータどうしのやりとりが、そのうちに人間にはとても及ばないような高度な知性を実現するだろうと主張していました。そのお気楽な様子を見て、私はすぐにでも人工知能を批判する本を書かなければならないと決心したのです。
 せいぜい控えめな反応しかないだろうと思って書いた本が、あれほどの反響を呼ぶとは思っていませんでした。また、人工知能の研究者たちから、あれほど激しく、時には非論理的な攻撃を受けるとは思いませんでした(笑)。そのようなわけで、二番目の本、『心の影』(一九九四年)は、『皇帝の新しい心』に寄せられた批判に対する反論を含んでいるのです。
 これらの本を書いたことについては、満足していますが、その結果巻き起こった論争の帰結については、必ずしも満足していません。そもそも、意識の問題のような掛け値なしの難問を巡る論争は、一度始めてしまえばエンドレスに続くものだと思います。近い将来、再び心の問題について、もう一、二冊本を書きたいと思っています。しかし、いつ書き終わるか、まだ定かではありません」

心脳問題と物理学

 日本を出発し、ケンブリッジからオックスフォードヘと移動するその過程で、私はずっと時間に追われていた。イギリスにいるというのに日本から持ち越した仕事が山積し、一体自分はどこにいるのだろう、と首をひねる程だった。
 ところが、ペンローズと数学研究所の部屋で向き合っていると、いつの間にかそれまでの雑事がすっと消えていった。ペンローズと会うと、いつも時間の流れの知覚が変わる。あまりにも深く、重要な問題について向き合う類い希な魂がそこにあるような気がして、その放射を受けた私も、世の中の他の問題が、どうでもよくなってしまうのである。
『皇帝の新しい心』でミンスキーらの人工知能へのアプローチを痛烈に批判したペンローズは、意識(*9)を支えるのは脳の中の量子力学的プロセスであり、それこそが、コンピュータには再現できない「非計算論的」なプロセスなのだという大胆きわまりない説を唱えた。
 十六年の歳月が経った今、ペンローズの説は、否定も肯定もされず、意識を巡るもっとも先鋭的な科学的仮説の一つとして、今も世界中の研究者の関心を惹きつけている。
 意識の問題を巡って、ペンローズは最近何を考えているのだろう。続いて、最近の最大の関心事は何かということを尋ねた。

「最近は、専ら物理の問題を考えています。もちろん、物理学が私の専門で、生物学や神経科学においては素人同然だということもあります。しかし、より重要なことですが、心の本性を理解するためには、まず、物理学において、本質的な進歩を成し遂げなければならないと考えるからです」

 ペンローズが最近物理学に回帰していることは、私も聴き知っていた。
 二十世紀の物理学は、確かに偉大な成果を残したが、別の分野の人々、とりわけ生物学者たちは、脳のような複雑なシステムを記述するためには、物理学のアプローチはそのままでは必ずしも有効ではないと感じている。たとえば、電子のようなミクロな粒子の振る舞いを記述する量子力学と、脳のようなマクロな存在の間には大きなスケールの差があるため、量子力学の理論はそのままでは適用できないという議論が生物学者の間では支配的である。私自身も、物理学と脳のような複雑なシステムを結ぶ何らかの原理が欠けていると感じ、そのギャップを埋めることが最大の課題であると考えている。
 この点について、ペンローズに意見を聞いた。

「確かに、私が研究しているような量子重力(*10)のメカニズムが関わるようなプランク長さ(1.61×10のマイナス35乗メートル)程度のスケールは、脳の中の生理的なプロセスのスケールとかけ離れています。両者の間に何らかの関係があると考えるのは、一見、馬鹿げた考え方のようにも思われます。
 しかし、私は、時間や空間の性質を記述する一般相対性理論は、ミクロなスケールの現象を記述する量子力学に、現在考えられているよりも大きな影響を与えると考えているのです。その結果、将来、量子力学はすっかり姿を変えてしまうと予想しているのです。その、新しい量子力学の下では、脳の中の生理的な現象にも、そして、意識を生み出すメカニズムにも、量子重力のメカニズムが、本質的に関わってくるのではないかと私は考えています」

―量子力学においては、物質の振る舞いが、空間の中で広がりをもった「非局所的(*11)」な性質で決まるわけですが、そのことと意識の持つ非局所性が関係しているとお考えですか?

「そうです。意識を巡る未解決の問題の一つに、『結びつけ問題』があります。『赤い円が右に動いている』というような情報が脳に入ると、『赤』という色、『円』という形、『右に動いている』という動きの情報はそれぞれ脳の別々の場所で処理されます。それにもかかわらず、これらの情報が『結びつけ』られて『赤い円が右に動いている』と知覚されるのは何故か、という問題ですね。
 なにしろ、意識の上で知覚されるものが、脳の中では空間的に別々の場所にある神経細胞の活動を一気に反映しなければならないのですから、ここにはきわめて本質的な問題があることは明らかです。そこに現れているのは、量子力学において見られるのと同じような、『非局所性』なのです」

―ヴォルフ・ジンガー(ドイツの神経科学者)たちが提案している、脳の神経細胞が同期して活動する(*12)ことが、「結びつけ問題」の解決のメカニズムだという説についてはどう思いますか?

「確かにあり得る説だとは思うけれども、なぜ、神経細胞が同期すると、結びつきが起こるのか、その説明原理が全く明らかではないと思うのです。私は、結びつけ問題のような意識における非局所性の起源は、量子重力のような、より根本的な原理に求めなければならないと信じています」

後篇につづく

宇宙の始まりと終わりはなぜ同じなのか』(新潮社)

ロジャー・ペンローズ

竹内薫/訳

2014/1/24発売

※1.^時空の特異点
アインシュタインが一般相対性理論において予言した宇宙の性質。字宙には、大きさがなく密度が無限大の場所があり、これを「時空の特異点」と呼ぶ。ペンローズは、一九七〇年にホーキングとともに「特異点定理」を提出している。

※2.^ツイスター
ツイスター(Twistor)とは、ペンローズが提唱するツイスター理論の中核を担う数学的な概念の名称でペンローズの造語。スピノール(素粒子の性質のひとつである回転=スピンを表現する量)の一種を対にしたものを「ツイスター」と呼ぶ。ツイスターを三次元で可視化すると流線がねじれた(twisted)図になることからこの名前がつけられた。

※3.^ペンローズ・タイル
同じ大きさの正三角形や正方形や正六角形を並べると平面をすきまなく埋め尽くすことができる。正五角形では同じように平面を埋められないが、ペンローズは正五角形から得られる二つの図を用いると非周期的に平面を埋め尽くせることを示した。これがペンローズ・タイルと呼ばれる図形である。

※4.^純粋数学
物理や工学に応用される「応用数学」にたいして、そうした応用とは別にもっぱら抽象的(純粋)に行われる数学を「純粋数学」と呼ぶ。

※5.^量子力学
電子や陽子、中性子、あるいはそれ以下の大ききのミクロな物体(素粒子)は、粒子の性質と同時に波の性質をもっている。この性質は、ニュートン力学(古典力学)ではうまく説明できない。量子力学は、このような素粒子の性質を説明する理論体系。「量子」とは、とびとびの不連続な値だけをもつ物理量のこと。量子を扱う力学なので量子力学という。

※6.^ チューリングの理論
イギリスの数学者チューリング (Alan Mathison Turing,一九一二-一九五四)は、仮想機械「チューリング・マシン」の提案など、今日のコンピュータ・サイエンスや情報科学の基礎を築いた。

※7.^ ゲーデルの定理
一九三一年、論理学者ゲーデル (Kurt Gödel, 一九〇六-一九七八)によって提示された二つの定理を指す(第一/第二不完全性定理)。もっとも厳密な学と考えられた数学の論理的基礎づけの限界を指摘したことで各界に衝撃を与えた。ペンローズは、人間の思考や意識が単なる計算ではないこと (非計算論的であること)を示すためにゲーデルの定理を用いる。

※8.^ 非計算論的
かつて人工知能研究では、人間の知性はコンピュータのアルゴリズム(有限回の計算)によって模倣・実現できると考えられていた。これに対しぺンローズは、人間の意識や知性には計算では説明・実現できない「非計算論的」な要素があると考えている。

※9.^ 意識を支えるのは
ペンローズは、人間の意識がそなえる非計算論的なプロセスには量子的な仕組みがかかわっていると推測する一方で、その解明には現在の量子論では足りないと考えている。

※10.^量子重力
ミクロな現象を説明する量子論とマクロな現象を説明する一般相対性理論を融合する試みのこと。一般相対性理論が重力にかかわる理論であることから、量子重力理論と呼ばれる。

※11.^ 非局所的
局所性原理では、十分に遠く離れた二つの粒子は、相互に影響しあわないと考える。しかし、量子力学ではそのように離れた粒子が相互に影響を与え合うと考えられる。このとき、これらの粒子は「非局所的」に作用していると言う。

※12.^脳の神経細胞が同期して活動する
脳内の別々の場所にあり、また別々の視覚特徴に反応するニューロン群が同期して発火することにより、一群の視覚特徴が一つの物体(たとえば動く赤い円)に属するものとして統合されるとする説。

ロジャー・ペンローズ

ロジャー・ペンローズ

1931年イギリス・エセックス州生まれ。数学者、物理学者。ロンドン大学ケンブリッジ大学セント・ジョンズ・カレッジで数学を学び、博士号を取得。70年にスティーヴン・ホーキング博士との共同研究で宇宙におけるブラックホールの特異点定理を理論的に証明し、以後、量子重力理論ツイスター理論を発表するなど世界中に圧倒的な存在感を示した。89年、「皇帝の新しい心」を刊行。天才物理学者が意識の解明に挑み、また、その方法として量子力学を導入したことで賛踏さまざまな議論を呼んだ。オックスフォード大学名誉教授、ナイトに叙せられている。2020年、ノーベル物理学賞を受賞。

茂木健一郎

1962(昭和37)年東京都生まれ。脳科学者。ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。東京大学大学院物理学専攻課程を修了、理学博士。〈クオリア〉をキーワードとして、脳と心の関係を探究している。著書に『脳と仮想』『ひらめき脳』『生命と偶有性』『IKIGAI―日本人だけの長く幸せな人生を送る秘訣―』(英語での著書、恩蔵絢子・訳)など。

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考える人とはとは

 はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
どうして自分が「考える人」なんだろう―。
手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか―手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

「考える人」編集長
金寿煥

著者プロフィール

ロジャー・ペンローズ
ロジャー・ペンローズ

1931年イギリス・エセックス州生まれ。数学者、物理学者。ロンドン大学ケンブリッジ大学セント・ジョンズ・カレッジで数学を学び、博士号を取得。70年にスティーヴン・ホーキング博士との共同研究で宇宙におけるブラックホールの特異点定理を理論的に証明し、以後、量子重力理論ツイスター理論を発表するなど世界中に圧倒的な存在感を示した。89年、「皇帝の新しい心」を刊行。天才物理学者が意識の解明に挑み、また、その方法として量子力学を導入したことで賛踏さまざまな議論を呼んだ。オックスフォード大学名誉教授、ナイトに叙せられている。2020年、ノーベル物理学賞を受賞。

茂木健一郎

1962(昭和37)年東京都生まれ。脳科学者。ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。東京大学大学院物理学専攻課程を修了、理学博士。〈クオリア〉をキーワードとして、脳と心の関係を探究している。著書に『脳と仮想』『ひらめき脳』『生命と偶有性』『IKIGAI―日本人だけの長く幸せな人生を送る秘訣―』(英語での著書、恩蔵絢子・訳)など。


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