モスル近郊の街、ハーゼル。廃墟を包む空気は沈黙していた。
 

 1月1日、新しい年を迎えた日。私はイラク北部、クルド人自治区の主要都市アルビルの救急病院にいた。日がどっぷりと落ちてもなお、遠くから切れ目なく救急車の音がけたたましくこの病院をめがけて近づいてくる。12月29日、第二の都市モスルの奪還作戦が再開され、“前線”から負傷者が緊急搬送されてくるのだ。

 「道を開けて!急いで輸血を!」。医師、看護師たちの怒号と共に処置室へと運びこまれてきたのは、頭を撃たれ血だらけになった子どもだった。まだ9歳の少女。病室の至るところから叫び声、うめき声があがる。立ち尽くしそうになった私に、行動を共にしていたイラク人の友人が珍しく声を荒らげた。「撮れ!ジャーナリストだろ!ここで起きていることを一秒も逃がすな!」。はっと我に返る。そうだ、自分にはそれしか、出来ることがないのだから、と。私たちが病院を後にする頃、亡くなった子どもが一人毛布にくるまれて運び出されていった。

 願わくは、彼らの故郷でもいつか、家族が集い、温かく新しい年を迎えられるように。2017年が少しでも、優しい一年となるよう、今年最初の連載に願いを込めたいと思います。

負傷した3人の兄妹。少しずつ回復し、またモスル近くの故郷に戻るという。