Webマガジン「考える人」

シンプルな暮らし、自分の頭で考える力。
知の楽しみにあふれたWebマガジン。
 
 

安田菜津紀の写真日記

元日に出会ったときより少し顔色もよくなり、これから再び故郷へと向かうという兄妹たち。

 イラク北部、クルド人自治区。太陽の光が優しく降り注ぐ日でも、通り抜けていく風はぴりりと冷たい。難民キャンプのゲートの前に、古びた車が一台乗り捨てられていた。車体の上に掲げられた白旗はいかにもくたびれていた。これを掲げて命からがら、誰かがここまで逃れてきたのだ。

 ふと、見覚えのある少女が一人駆け寄ってきた。見れば元旦の日に訪れた病院で出会った三人兄妹の末っ子だった。後ろに目をやるとお母さん、兄姉たちもこちらに気づき、大きく手を振った。

 「お陰様で無事に退院しました。ただ兄のアリの傷は深くて、これから通院が続くんです」。彼らの故郷モスルの病院はいまだISに支配されたまま、もしくは解放された地区の病院も機能を失っている。直線距離でも80キロ近い道のりを、傷ついた人々がまた往復しなければならないのだ。

 たとえそこに、目に見える戦火がなかったとしても、決して“平和”とは呼べない存在を無数に作り出してしまう。それが戦争なのだと改めて痛感した年末、年始の滞在。傷つき続けるのは、誰なのか。その視点に常に立ち返りながら、取材を続けたいと思う。

キャンプのゲート前。この車に飛び乗り、必死にここまで逃げてきた、その道のりを思う。
君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―

君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―

安田菜津紀

2016/04/22発売

シリアからの残酷な映像ばかりが注目される中、その陰に隠れて見過ごされている難民たちの日常を現地取材。彼らのささやかな声に耳を澄まし、「置き去りにされた悲しみ」に寄り添いながら、その苦悩と希望を撮り、綴って伝える渾身のルポ。

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考える人とはとは

何かについて考え、それが「わかる」とはどういうことでしょうか。

「わかる」のが当然だった時代は終わり、平成も終わり、現在は「わからない」が当然な時代です。わからないことを前提として、自分なりの考え方を模索するしかありません。

わかるとは、いわば自分の外側にあるものを、自分の尺度に照らして新しく再構成していくこと。

“Plain living, high thinking”(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)*を編集理念に、Webメディア「考える人」は、わかりたい読者に向けて、知の楽しみにあふれたコンテンツをお届けします。

*産業革命後に急速な都市化が進むロンドンで、イギリスの詩人ワーズワースが書き遺した言葉。

 

 

「考える人」編集長
松村 正樹

著者プロフィール

安田菜津紀

1987年神奈川県生まれ。Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル)所属フォトジャーナリスト。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。

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