Webマガジン「考える人」

シンプルな暮らし、自分の頭で考える力。
知の楽しみにあふれたWebマガジン。
 
 

安田菜津紀の写真日記

モスル近郊の街、ハーゼル。廃墟を包む空気は沈黙していた。

 1月1日、新しい年を迎えた日。私はイラク北部、クルド人自治区の主要都市アルビルの救急病院にいた。日がどっぷりと落ちてもなお、遠くから切れ目なく救急車の音がけたたましくこの病院をめがけて近づいてくる。12月29日、第二の都市モスルの奪還作戦が再開され、“前線”から負傷者が緊急搬送されてくるのだ。

 「道を開けて!急いで輸血を!」。医師、看護師たちの怒号と共に処置室へと運びこまれてきたのは、頭を撃たれ血だらけになった子どもだった。まだ9歳の少女。病室の至るところから叫び声、うめき声があがる。立ち尽くしそうになった私に、行動を共にしていたイラク人の友人が珍しく声を荒らげた。「撮れ!ジャーナリストだろ!ここで起きていることを一秒も逃がすな!」。はっと我に返る。そうだ、自分にはそれしか、出来ることがないのだから、と。私たちが病院を後にする頃、亡くなった子どもが一人毛布にくるまれて運び出されていった。

 願わくは、彼らの故郷でもいつか、家族が集い、温かく新しい年を迎えられるように。2017年が少しでも、優しい一年となるよう、今年最初の連載に願いを込めたいと思います。

負傷した3人の兄妹。少しずつ回復し、またモスル近くの故郷に戻るという。
君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―

君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―

安田菜津紀

2016/04/22発売

シリアからの残酷な映像ばかりが注目される中、その陰に隠れて見過ごされている難民たちの日常を現地取材。彼らのささやかな声に耳を澄まし、「置き去りにされた悲しみ」に寄り添いながら、その苦悩と希望を撮り、綴って伝える渾身のルポ。

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考える人とはとは

何かについて考え、それが「わかる」とはどういうことでしょうか。

「わかる」のが当然だった時代は終わり、平成も終わり、現在は「わからない」が当然な時代です。わからないことを前提として、自分なりの考え方を模索するしかありません。

わかるとは、いわば自分の外側にあるものを、自分の尺度に照らして新しく再構成していくこと。

“Plain living, high thinking”(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)*を編集理念に、Webメディア「考える人」は、わかりたい読者に向けて、知の楽しみにあふれたコンテンツをお届けします。

*産業革命後に急速な都市化が進むロンドンで、イギリスの詩人ワーズワースが書き遺した言葉。

 

 

「考える人」編集長
松村 正樹

著者プロフィール

安田菜津紀

1987年神奈川県生まれ。Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル)所属フォトジャーナリスト。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。

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