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料理は基準

2025年1月17日 料理は基準

第22回 蓮根(11月30日筆)

著者: 土井善晴

一汁一菜でよいという提案』がベストセラーになり、「一汁一菜」を実践する人が増えてきました。土井先生の毎日の実践を、旬の食材やその日の思考そのままに、ぎゅっと凝縮するかたちで読みたい! というたくさんの声を背景に、土井先生に、日々の料理探求を綴っていただきます。四季折々にある料理の「基準」とはなにか、ぜひ味わって、そして、自分なりの料理に挑戦してみてください。

 蓮池の水が凍るくらいになると、蓮根は糸を引くように粘りが強くなる。

 そういえば、蓮根は根っこだと思っていたが、地下の茎らしい。茎の穴に空気を入れて、美しい花を咲かせて茎を太らせる。ちょうどよく沈まず浮かず、冬枯れの季節、未来に向けてエネルギーを蓄える。

 和食の「おいしい」は、口あたりや歯ごたえといった触覚に重心を置いている。触覚は、味覚に優先し、微小な変化を認め、細やかな他者の心持ちさえ捉える。  

 蓮根は食感や調理法によって、パリパリ、シャキシャキ、サクサク、モチモチ、ネトネト、と多様に変化する。

 「パリパリ」は、蓮根を薄く切って、フライパンに重ね焼きし、焼き色がついたら裏返し、透き通るまで焼く「蓮根のガレット」。

 「シャキシャキ」は、湯掻いて水にとり、甘酢につける「酢蓮根」。

 「サクサク」は、歯切れの良さを残して火を止める煮物。薄味のぜんざいを加えて煮れば、「蓮根のいとこ煮」だ。

 「モチモチ」は、「蓮根餅」。蓮根をすりおろし水気を絞って、つなぎにでんぷんを加えて丸めて蒸した吸い物の椀種だ。それから、銀杏や百合根を混ぜて、小鉢で蒸して、葛餡をかける「蓮根蒸し」に、油で揚げて香ばしい「揚蓮根餅」。

 「ネトネト」は、沈澱した蓮根澱粉に砂糖を加え、練り上げ型に流す「甘みの蓮餅」。

 不自然に白いものよりも、黒い傷のある蓮根が安心できる。蓮根は皮を剥かず、そのまま輪切りの味が濃い「蓮根の天ぷら」。 

 白い方がいい、となんでも皮を剥いてきた価値観は、日常では不要だ。私たちは、きれいにするために手数を増やしてきたようだ。命丸ごとの一物全体は、力強く、美しい。

 

*次回は、1月24日金曜日配信の予定です。

 

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考える人とはとは

 はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
どうして自分が「考える人」なんだろう―。
手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか―手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

「考える人」編集長
金寿煥

著者プロフィール

土井善晴

1957(昭和32)年、大阪生れ。芦屋大学教育学部卒。スイス、フランス、大阪で料理を修業し、土井勝料理学校講師を経て1992(平成4)年、「おいしいもの研究所」を設立。十文字学園女子大学特別招聘教授、甲子園大学客員教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員などを務め、「きょうの料理」(NHK)などに出演する。著書に『一汁一菜でよいという提案』(新潮文庫)、『一汁一菜でよいと至るまで』(新潮新書)、『くらしのための料理学』(NHK出版)、『味つけはせんでええんです』(ミシマ社)、『お味噌知る』(土井光さんとの共著、世界文化社)など多数。


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