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安田菜津紀の写真日記

2019年12月20日 安田菜津紀の写真日記

中村哲さんの活動に触れて――「私たち」の幅を少しずつ広げてみること

著者: 安田菜津紀

シリア北東部、ハサカ県の春。ふと、中村哲さんが水路を築いた村々の緑と重なって見えた。

 12月4日、アフガニスタンで長年活動を続けてきた中村哲さんが銃撃され、亡くなりました。当初の報道では「命に別状はない」と伝えられていた中の訃報。親しい人々の悲しみは計り知れません。面識はありませんでしたが、私も中村さんの姿勢や残した言葉に強く影響を受けてきた一人です。
 そんな中村さんの死を悼むからこそ、考えたいことがあります。この事件では中村さんと共に、5人の現地の方々が亡くなっています。彼らはどんな想いで活動に携わり、どんな人生を歩んできた人々だったのでしょうか。
 中村さんは武力と常に距離をとり、現地の人々への敬意を忘れない人だったと聞きます。そんな中村さんの信頼関係をもってしても、命を狙われるほどの治安状況は、どれほど熾烈なものだったのでしょうか。市民の犠牲は増え続け、昨年2018年にアフガニスタンでテロによって命を奪われた人々は7000人を超えています
 これまでの広大な水路作りも、多くのアフガニスタンの人々の力の結集だったのでしょう。私たちは中村さんの死を伝えるニュースを通して、現地の人々の生活に、どこまで思いを至らせることができたでしょうか。
 2015年2月、ジャーナリストの後藤健二さんがIS(いわゆる過激派勢力である「イスラム国」)によって殺害されたとされる映像が流されました。次の日に、私はシリアの隣国、ヨルダンの首都アンマンに到着し、事件の緊急対策本部が置かれていた日本大使館前に向うと、目の前の光景に息をのみました。そこには100人を超えるヨルダンの人々が集い、「日本の友人たちのために祈りましょう」と後藤健二さん、その前に殺害された湯川遥菜さんのための追悼集会を開いてくれていたのです。
 シリアでは友達や親戚を殺されたことがない人々などいないくらい、毎日のように殺戮が続いてきました。「なぜそれでも国籍の違う人を悼んでくれるの?」と尋ねると、「ジャーナリストだって一人の市民じゃないか」と一人のお父さんが真っすぐに答えてくれました。
 アフガニスタンの支援に携わる友人の元には、現地のスタッフさんから「あんなにアフガニスタンのために尽くしてくれた人を、私たちの手で守れず申し訳ない」と連絡があったといいます。中村さんのご遺体が日本に帰ってきたときも、多くのアフガニスタンの人々がその死を悼み空港に集っていました。
 ヨルダンで、アフガニスタンで、人々は「日本の友人」のために祈ってくれました。私たちは同じくらい強く、彼らの平和を祈ることができているでしょうか。ヨルダンで出会ったお父さんが、「同じ市民」と伝えてくれたことが思い返されます。大切なのは「日本人」「アフガニスタン人」と“私たち”の定義を狭く切り取るのではなく、その幅を少しずつ広げ考える想像力なのではないでしょうか。

イラク北部、クルド自治区。いつもお邪魔しているご家庭で。家族と共にある、安らかな時間。
君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―

君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―

安田菜津紀

2016/04/22発売

シリアからの残酷な映像ばかりが注目される中、その陰に隠れて見過ごされている難民たちの日常を現地取材。彼らのささやかな声に耳を澄まし、「置き去りにされた悲しみ」に寄り添いながら、その苦悩と希望を撮り、綴って伝える渾身のルポ。

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*産業革命後に急速な都市化が進むロンドンで、イギリスの詩人ワーズワースが書き遺した言葉。

 

 

「考える人」編集長
松村 正樹

著者プロフィール

安田菜津紀

1987年神奈川県生まれ。NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)所属フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。

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