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小さい午餐

 2月にイギリスにいった。初めてのイギリス、文学など日本文化を紹介するイベントに参加するためだ。コロナウィルスの件があってどうなるか心配だったが中止という話はなく、体調も悪くなかったので出かけた。小中高校は感染拡大を阻止すべく休校せよと突如要請される約10日前のことだ。飛行機は成田空港から乗った。東京ではどのドラッグストアにもマスク売り切れの紙が貼ってあって、除菌ジェルとかもありません入荷も未定ですと日本語中国語英語韓国語で書いてあってニュースみたいだと思った。広島でも品薄気味だったがここまでではなかった。機内隣席の母娘と話すと観光でエジンバラなどへいくとのことだった。それは楽しみですね。「ツアーなので全部お任せで…そちらもご観光ですか?」いいえ一応、仕事で。「ロンドンですか?」えーと、あちこち、電車で、ロンドンからマンチェスターにいって、ほかいくつか回ってまたロンドンです。機内では2回食事をした。チキンかパスタかと英語で聞かれチキンと答え出てきたのはパスタで、違うと言おうかとも思ったが言えず、別にパスタでもいいのだがそのやりとりが母娘にも聞こえていただろうなと思って少し恥ずかしかった。帰りも同じ便だということがわかり、またお会いするかもしれませんね、どうか楽しんでお気をつけてと言い合って空港で別れた。
 1晩寝て翌日、ロンドン、イギリス滞在唯一の自由時間に大英博物館へいった。1日では到底見きれないと聞いていたので、オーディオガイドに入っていた『最低限見るべき10の遺物』コースを回る。歩きだしてすぐ滑らかな英語で声をかけられた。「すいません、韓国の人ですか?」いいえ私は日本人です。韓国人らしい若い女性は「あの、そのオーディオガイドってどこで借りられます?」あっちの…英語で説明したかったができなくて歩いて戻って案内する。全然複雑じゃない道なのに…回廊状に丸くなっている道を道なりにいくときもstraightでいいのか? あ、あそこですあそこ。「ああ、ありがとう!」長い髪をしゃらっと揺らしお礼を言われた。小さい子供たちがミイラを見てこれ本物? 人間? うそでしょ本物の人間なの生きてたのウワアアア! ミイラには少し髪が残っている。ホテルに戻る帰り道に書店に寄った。『82年生まれ、キム・ジヨン』がたくさん積んであった。英国版Kim Jiyoung, Born 1982は日本版と似たのっぺらぼうの女性の顔の表紙でタイトルを見なくてもすぐわかった。

 その夜はイベント開会立食パーティーがあった、詩人、翻訳家、映画監督、写真家、通訳、コーディネイター、研究者、小説家、英語日本語握手ハグお辞儀がいき交う。しばらくして他の日本人参加者とフェミニズムの話になった。「わたし今日インタビューでフェミニストですかって聞かれて。作品がそう思わせるのかな? よく聞かれるんですけど、でもわたしぜんっぜんそうじゃなくて」1人の女性が言った。初めて会う人だ。「いろんな問題って、男女っていうよりは個人の問題だと思うんですよね。ジェンダーとかの話じゃなくて」!「そうそう!」とこれまた初対面の別の女性が頷いた。「男女差じゃなくて個人差っていうか」!「そう! 男だから、女だからじゃなく個人がそれぞれ得意なことをすればいいだけの話なのにって」!「女性だから抑圧受けたって経験、わたしないんですよねいままで」ええっ?! と思わずグラス片手にのけぞると彼女らは不思議そうな顔をして「え、小山田さんはあるんですか?」ありますよ、「たとえば?」就活でヒール履かなきゃとか仕事のときは化粧しないとマナー違反とみなされるとかそういうのもあるし、「え、本当にそんなのってあります? わたし会社に勤めたことないからかなあ、よくわからない」ありましたよ、いまもあるそうですよ。「わたし好きでヒール履いて好きでお化粧もしてるから」ね、それが本来ですよね。あとは親戚とかが集まったときにお皿下げたり洗ったりするのは女性ばっかりとかそういうこともあるし。「あー。それはね、わたしも人が集まったりしたときに台所は女の仕事って子供に思わせたくないので、台所の男女比が1:1になるようにって、してますね」それがだからジェンダーの話だと思います。「あー、そうなるのかあ、そう考えたことは、なかったかも」2人は私よりやや年上で、私は驚いて、女性ゆえの抑圧を受けたことがないと感じているなら普通にうらやましいし、それが自分の個人の能力や努力に起因している可能性だってもちろんあるしそう信じる権利だってあるだろう。でも、(私の年代からすると)かつてないほどフェミニズムが話題になっているいま、医学部で入試の点数操作がされていたこと、性暴力加害者への量刑が信じられないくらいゆるいことなどなどがつぎつぎ明るみになっているいま、文学やアートの世界でも立場ある人のセクハラ性暴力が告発されたのにしれっと復帰していたりもするいま、そういうのはおかしいと多くの人が意見を表明しているいま、そして声をあげる人を否定するような声もまた声高になっているいま、抑圧は受けたことがないし男女差別じゃなくて個人の問題だとインタビューで発言することの意味…フラットになんてなりえない話じゃなかろうか。

 その翌日からイベントが本式に開幕した。日本からの参加者がイギリス各地を移動しつつ朗読やトークセッションなどをする。最終日は皆がロンドンの大英図書館に集合するのだがそれまでの旅程はばらばらで、ケンブリッジだったりノリッジだったり、私の場合はマンチェスター→ボーンマス→シェフィールド→ロンドン、移動は電車、マンチェスターまではイベントのプロデューサーの方や別の小説家の方、そのご家族と一緒だった。約2時間の移動で車窓は意外なほど田園風景を経た。馬や羊が見える。葉を落とした木の幹が黒かったり茶色かったり白かったり緑色をしていたりする。何も植わっていない畑、また羊、薄茶色の小柄な羊たちの中に1頭ぴょんこぴょんこ元気にはねてるのがいるなと思ったら犬だった。昼食に駅の売店で買ったツナマヨバゲットサンドを食べた。パンが固すぎず柔らかすぎず味つけも濃すぎずよかった。到着しホテルにチェックイン後、少し時間があったのでスーパーに入る。赤、ピンク、黄、緑のリンゴが並んでいる。どれも日本のより小さくごつごつぴかぴかしている。子供のころに林望氏の『イギリスはおいしい』で読んで憧れた「コックス」というリンゴがないかと探すと「cox apple」と書かれたリンゴがあっておおと思ったが6個パックしかなくて買うのを断念する。レジ前にアスパラガスの束がたくさん売られていると思ったらまだ蕾の水仙だった。

 マンチェスターで1泊し翌日はボーンマス(Bournemouth)へ移動する。南海岸の海っぺり、電車で5時間弱かかる。昨日、英日の地理に詳しいプロデューサーに私の旅程を話すと「ハードですねえ」と言われた。「日本で言いますと、2泊3日の間に東京から仙台へいって下関に移動し、名古屋に立ち寄って東京に戻る、みたいな感じですね、陸路で」今日明日はMさんという翻訳家の方が随行してくださる。今日もお昼は車内で食べる。マンチェスターの駅でハムバターサンドとレモンジンジャージュースを買った。今日の座席は小さい机を挟むように2人がけが向かい合わせになっている。私が窓側、通路側にMさんが座る。私たちの正面には2人の女性が座っているが連れではなさそうだ。小柄な女性が網棚に荷物をあげるのを近くの席の男性が手伝った。放送が流れた。車内販売のお知らせ、ブラウニーとアップルパイと、ほかにもいろいろ手作りだし飲み物もあったかいのと冷たいのがあるからね、というような内容がかなり砕けて聞こえる早口で告げられ、その後、同じ陽気な語調でドネイションなんとかかんとか、と続く。寄付、寄付を受けつけているという意味なのか寄付をしましょうなのかこの事業は寄付で成り立っていますなのかわからないがとにかくドネイションだ。車内販売のワゴンが入ってきた。女性が「トワイニーング、スターバックスコーヒー、ボトルオブウォーター」などと節をつけて言いつつ押していく。ワゴンの上に高く積み上がった紙カップが左右にぶわんぶわん揺れているが倒れない。試しに紅茶を買う(Mさんに頼んで買ってもらう)、支払いは全てカードでとても楽だ。紙カップにティーバッグが落とされ、ポットの湯が注がれる。「砂糖は?」いりません。「ミルクは?」ください。2つころんと渡されたのはいわゆるフレッシュのポーション形なのだが成分を見るとただの本物の牛乳らしい。車窓が都会からじょじょにというよりすぐに田園風景になるのは昨日と同じだ。羊、馬、牛、細い川にびっしり色とりどりのボートが係留されている、黄茶色い浅い水が一面に溜まった景色がたびたび出てくる。沼かと思ったが、水の中から木が生えていたり柵が突き出たりしている。これは元からこういう土地なんでしょうかと尋ねるとMさんは暗い顔で「この前大雨が降ったのでそのせいだと思います」そうなんですか、じゃあ水害、それは大変ですね。電車はときどき駅に停車し、乗ってきた人が自分のチケットを見せながらすでに座っている人に話しかける。話しかけられた人は頷いて席を立って別の空席に移る。それがあちこちである。どうも指定席の券を買っていなくても席が空いていたら座って、その席の指定券を持っている人がきたら移動するのが普通らしい。座られていた人も座っていた人も普通にここ私の席なんですけど、ああそうすか、どもども、みたいな感じのやりとりで済んでいて、これはこれでいいなと思った。途中、検札がきて1人1人チケットを確認するのだがそのときにあなたのチケット指定席じゃないですからと追い出されている人もいなかった。スマホで音を出しながら2人で動画を見てケラケラ笑っている人もいたし、子供をあやす声(こちょこちょこちょこちょ、と全く同じイントネーションでチコチコチコチコ、と言ってすぐあとにきゃははーと子供の笑い声が続く)も大きく聞こえるし、日本の新幹線は速いしリクライニングだし指定席に人が座っていることもまずないけどこれはこれでいいなあ、でも英語話せないと無理だなあ、私だったらそこ私の席なんですけどが言えなくてチケットを見せてプリーズプリーズ言うしかないかもしれない。正面の女性がアルミホイルに包んだ四角いサンドイッチを出して食べ始めた。私もそろそろと思ったが、人が食べだしたのを見た直後というのは何かしら失礼な気がして少し待ってから袋を開ける。両端がとんがったバゲットのサンドイッチは、「ハムサンド」じゃなく「ハムバターサンド」と書いてあっただけあってバターがおいしい。甘みもあってふわっとしていて濃い。ホテルの朝食のバターもおいしかった、イギリスのバターはおいしいのか、表面がカリカリ香ばしいパン、薄切りよりは厚みのある柔らかいハムと歯ごたえのある酸っぱい小キュウリ丸ごとピクルスに白いたっぷりのバターが相まって、もう1つ買えばよかった。レモンジンジャージュースは裏側に本品には余計なものは入ってませんというようなことが書いてあってまさにそういう味で薄甘かった。ボーンマスに到着した。あまり海の気配や匂いはない。チェックインして荷物を置いてイベント会場へ移動する。今日の会場はまだ新しい芸術大学で、全体が白っぽくすがすがしく明るい。イベントを終えると夜になっていて本当だここは海辺だと痛感するような冷たい風が吹いていた。

 今日はシェフィールド(Sheffield)という街までMさんと2人で電車移動、また机を囲んだ席で、2人の子供を連れて大荷物の女性が前の席に座った。上の子は5、6歳くらい、下の子は幼児だ。窓際に上の子、その隣に女性、子供と女性の間にはめこむように幼児、幼児は哺乳瓶を持ってミルクを飲んでいるが、粉ミルクではなくて普通の牛乳のような質感に思えた。ニコニコ笑う幼児はMさんと私を見てハローハローと言い手を振った。私たちも応えた。幼児は座席に立ち上がって後ろ向きになって後ろの席の人にもハローハローと手を振った。あらこんにちは、うふふ、というような反応が小さく聞こえる。2歳くらいかなと思いつつ眺める。幼児はすぐ脇に立つ、無表情の中年男性にもハローハローと笑いかけ、男性は1言ハローとだけ答えた。女性は幼児が落っこちないように片手で支えながら、眉を曇らせてスマホをいじっている。停車駅で乗ってきた男性が彼女らにここは私の席ですがというようなことを言った。ほら、この番号、とチケットが彼女らに示される。彼女はあー、というような仕草で子供らを見、車内を見回す。概ね満員で、親子連れが座れそうな空席はない。立っている人もいる。男性はフームと唸ると、じゃあ、まあ、いいよという感じに肩をすくめ荷物を持って車両の端に移動した。女性はありがとうと言い、男性はまあいいんだ、そっちは子供いて大変そうだしという風に手をひらひらさせたが顔は笑っていない。「譲ってあげたんですかね」私が言うと「そうですね。ちょっとイライラしてるみたいでしたけど」とMさんが微笑んだ。女性はMさんにスマホを差し出し何か言った。車内に飛んでいるWiFiに繋いでほしいようだ。Mさんが操作しスマホを返すと彼女はハーイとスマホに向かって手を振った。即座にテレビ通話し始めたらしい。子供らも映して何か話している。多分英語ではない言語だった。席を譲った男性は車両の端で立っている。電話が済んだ女性は板チョコレートを出して割って子供らに与え自分も1かけくわえ、私たちに「あなたたちもいる?」と言った。ありがとう、でも大丈夫。「そう。あなたたちには子供はいるの?」ええ、私には1人、娘が。「パードン?」娘が。どうも私のdaughterの発音が悪いらしい。昨日も別の人に聞き返された。ドゥター。ドーラー。ドゥラァ。「ああ娘さん。おいくつ?」6歳です。あなたの子供は?「こっちが5歳でこっちが4歳」4歳? 思わず聞き返しそうになる。下の子はどう見てもようよう赤ん坊から幼児になったくらいに見える。女性は私が思っていることがわかったのだろう、この子は生まれつき脳に、というようなことを言った。手術をして。生活。体。成長。大人。私には単語が切れ切れにしかわからなかったがMさんに尋ねるのは憚られた。そして概ねわかる気もした。「でもこの子はすごくハッピーだから」女性は言い、「そしてこの子は私たちを完全にハッピーにしてくれているから」子供はチョコレートを食べながらまたハローハローと笑った。今日も昼食は駅で買ったサンドイッチ、ビーフオニオンサンド、シェフィールドでは街中のギャラリーにあるホールで話し、その日のうちに電車に乗ってロンドンに戻った。

 大英図書館での最終イベントも無事済み(お昼は控え室で三角サンドを食べた。ベーコンとチキンと野菜)夜は打ち上げ、料理を食べているとイベントの責任者の方がきて「イベントはいかがでしたか?」とても素晴らしい経験ですありがとうございます。「それはよかった。慌ただしい日程だったかと思いますが、英国を楽しめましたか?」ええ、とても。どの街もどのイベントも面白かった、ああ、でも英国のクリームティ、だからスコーンと紅茶の組み合わせを試したかったのに機会がなくて残念でした。言いながら、私いまwantedって言ったけどwantは直接的だからwould like toとか言わないといけなかったんじゃないか、でもwould like toの過去形ってなんだ、いやwouldってそれ自体過去形じゃなかったっけ、そもそも過去形にする必要があったのか?…英語、多分簡単なはずの文章、私が言う端から恥じ入っていると「ではまたいつかいらしたときにぜひ!」ええ本当に、どうか本当に。ありがとうございました。それからまた日本の人とフェミニズムの話になった。「女性差別よりも、まずは労働格差を解決すべきなんじゃないですか、日本は」「でもね実はね小山田さん。アカデミズムの世界ではね、化粧が濃いだなんだ言って、女の足を引っ張ってるのは女なんですよ。女の敵は女」「わたしは、やっぱり個人を大事にしたい」そう言う人には女性もいて男性もいて若い人もずっと年上の人もいて、うううと思いながら女性が多い保育とか介護とかの賃金が安かったり出産で休むと出世できなかったり家事育児の両立で短時間や非正規の雇用になっちゃったりしてつまり労働格差と女性差別って切り分けられない問題と思いますよ。アカデミズムの世界でもどこでも成功している女性は男性優位社会の価値観を内面化してるってことはありませんかそうでないとそもそも上にいけないっていうか。性差別は変えていかないと個人以前の問題でだって差別なんだから。店内は満席で、音楽も人々の話し声も大きくて、私は声を張り上げて滑舌が悪くて、早口なのにしどろもどろで、何をどう言うべきなのか、言葉、文章、知識、実感、どこかで読んだ聞いた言葉、私が考える言葉、頷いてくれる人もいたけれど首をひねったままの人も笑っている人もいて、日本語でだってうまく伝えられない。ホテルに戻り落ちこみながら荷造りをした。

 帰りの飛行機はお昼の便で、行きに一緒だった母娘の姿があったので目礼すると会釈が返ってきた。空席を挟んで若い女の子が座っていた。イギリス最後の午餐はジャパニーズスタイルチキン、と称された鳥の照り焼きと白いご飯の機内食だった。隣の若い女の子は機内食を断ってカロリーメイトを食べている。その次の機内食はもう日本上空で、ハムとソーセージとマッシュルーム添えのオムレツ容器を覆うホイルにイングリッシュブレックファストというシールが貼ってある。東京に1泊して広島に帰るともう地元の店にもマスクは売っておらずほどなくトイレットペーパーにも行列ができだした。

庭

小山田浩子

2018/03/31発売

それぞれに無限の輝きを放つ、15の小さな場所。芥川賞受賞後初著書となる作品集。

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考える人とはとは

 はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
どうして自分が「考える人」なんだろう―。
手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか―手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

「考える人」編集長
金寿煥

著者プロフィール

小山田浩子

1983年広島県生まれ。2010年「工場」で新潮新人賞を受賞してデビュー。2013年、同作を収録した単行本『工場』が三島由紀夫賞候補となる。同書で織田作之助賞受賞。2014年「」で第150回芥川龍之介賞受賞。他の著書に『』『小島』『パイプの中のかえる』など。

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