
むごいことが続いている。ミャンマーでは2月のクーデター後、軍による市民への凄惨な暴力が繰り返されている。現地から届く映像の数々を見ていると、10年前、戦火が広がっていったシリアを見ているかのようだ。シリアから隣国へと逃れた方が、「最も自分たちを追い詰めるのは、世界から見捨てられてしまうことだ。これだけのことが起きているのに……」と、ぽつりと語っていたことを思い返す。「無関心」が人々を追い詰めるということは、ミャンマーの市民たちにとっても同じことのはずだ。
これまで、ミャンマーで民主化運動が弾圧された1988年以降に日本に逃れてきた人々を、度々取材させて頂くことがあった。「あの時も、軍は国民や国際社会の出方を窺いながら行動をエスカレートさせていった。だからこそ外国からの目が必要だ」と、30年以上前に故郷ミャンマーを離れ、現在は難民として日本に暮らす男性が、もどかしそうに語った。国際社会が見て見ぬふりをすれば、権力側の意のままになってしまうことを、彼らは身をもって知っているのだ。
10年前、シリアで大規模な反政府デモが広がっていった頃、日本は東日本大震災の渦中にあった。けれどもそれから数年後、岩手県陸前高田市の仮設住宅で出会った方々が、シリアから逃れ、過酷な状況で暮らす子どもたちが無事に冬越えできるようにと、服を集めてくれたことがあった。孫や子どもたちが大きくなって着なくなった衣服の中から、まだ十分に着られるものを選び、送ってくれたのだ。当時、その仮設住宅の自治会長を務めていた方は、「私たちは、世界中からの支援でもう一度日常を取り戻すことができたのだから、今度は“恩返し”ではなく、“恩送り”をしたい」と、朗らかに語ってくれた。
自分自身が気付いていないことも含め、私たちは何かしらの支えを世界中から受け取りながら、毎日を過ごしているのだと思う。その“恩送り”の連鎖を今、ミャンマーの路上で、命がけで声をあげる人々を孤立させないための輪として広げていきたい。

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安田菜津紀
1987年神奈川県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。
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とは
はじめまして。2026年7月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、松本太郎と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただき、ありがとうございます。
2002年7月4日、季刊誌「考える人」が創刊されました。
目次には当代随一の執筆陣がずらりと並び、B5判240ページの誌面の隅々から知の香りが立ちのぼってくるかのようでした。
当時、入社3か月の営業部員だった私は、見上げるような思いで手に取り、発売日には編集長の松家仁之さんと創刊のご挨拶のために書店にうかがいました。
まだ書店訪問にも慣れておらず、編集長ともほぼ初対面の中、次のお店の約束の時間に間に合うだろうかと時計ばかりが気になって、終始、そわそわしていました。そんな私に松家さんがやわらかな笑顔で接してくれたこと、そして、新雑誌の門出を祝うようなすっきりと晴れた一日だったことを覚えています。
あれから四半世紀が過ぎ、ウェブマガジンとして衣替えした今でも、創刊時に掲げられた「Plain living, high thinking(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という言葉は古びていません。AIに尋ねれば瞬時に答えが返ってくる時代だからこそ、それらしい言葉に飛びつくのではなく、自分の頭で考え、心の声に耳を澄ませることの大切さは増しているように感じます。
創刊号には、養老孟司さんのロングインタビューが掲載されています。養老さんはその中で、恩師である中井準之助先生の口癖だった「人の心がわかる心を教養という」という言葉を紹介しています。
読んだ瞬間に立ち止まり、さまざまな思いが湧き上がってくるような文章に、楽しみながら出会える場であり続けたいと思っています。
「考える人」編集長
松本太郎
著者プロフィール
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- 安田菜津紀
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1987年神奈川県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。
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