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安田菜津紀の写真日記

2月3日、外務省前で行われた抗議活動で声をあげるミャンマーの人々

 むごいことが続いている。ミャンマーでは2月のクーデター後、軍による市民への凄惨な暴力が繰り返されている。現地から届く映像の数々を見ていると、10年前、戦火が広がっていったシリアを見ているかのようだ。シリアから隣国へと逃れた方が、「最も自分たちを追い詰めるのは、世界から見捨てられてしまうことだ。これだけのことが起きているのに……」と、ぽつりと語っていたことを思い返す。「無関心」が人々を追い詰めるということは、ミャンマーの市民たちにとっても同じことのはずだ。
 これまで、ミャンマーで民主化運動が弾圧された1988年以降に日本に逃れてきた人々を、度々取材させて頂くことがあった。「あの時も、軍は国民や国際社会の出方を窺いながら行動をエスカレートさせていった。だからこそ外国からの目が必要だ」と、30年以上前に故郷ミャンマーを離れ、現在は難民として日本に暮らす男性が、もどかしそうに語った。国際社会が見て見ぬふりをすれば、権力側の意のままになってしまうことを、彼らは身をもって知っているのだ。
 10年前、シリアで大規模な反政府デモが広がっていった頃、日本は東日本大震災の渦中にあった。けれどもそれから数年後、岩手県陸前高田市の仮設住宅で出会った方々が、シリアから逃れ、過酷な状況で暮らす子どもたちが無事に冬越えできるようにと、服を集めてくれたことがあった。孫や子どもたちが大きくなって着なくなった衣服の中から、まだ十分に着られるものを選び、送ってくれたのだ。当時、その仮設住宅の自治会長を務めていた方は、「私たちは、世界中からの支援でもう一度日常を取り戻すことができたのだから、今度は“恩返し”ではなく、“恩送り”をしたい」と、朗らかに語ってくれた。
 自分自身が気付いていないことも含め、私たちは何かしらの支えを世界中から受け取りながら、毎日を過ごしているのだと思う。その“恩送り”の連鎖を今、ミャンマーの路上で、命がけで声をあげる人々を孤立させないための輪として広げていきたい。

高田馬場のミャンマー料理店「スィゥミャンマー」のお茶の葉サラダ。店主さんたちは1988年の民主化運動弾圧から逃れてきた方々だ
君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―

君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―

安田菜津紀

2016/04/22発売

シリアからの残酷な映像ばかりが注目される中、その陰に隠れて見過ごされている難民たちの日常を現地取材。彼らのささやかな声に耳を澄まし、「置き去りにされた悲しみ」に寄り添いながら、その苦悩と希望を撮り、綴って伝える渾身のルポ。

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考える人とはとは

 はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
どうして自分が「考える人」なんだろう――。
手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか――手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

「考える人」編集長
金寿煥

著者プロフィール

安田菜津紀

1987年神奈川県生まれ。NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)所属フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。

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