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安田菜津紀の写真日記

2021年5月12日 安田菜津紀の写真日記

入管法を考える――命を奪われていい人などいない

著者: 安田菜津紀

ウィシュマさんの遺品のノート。昔から、絵を描くのが好きだったという。

 スリランカ出身のウィシュマ・サンダマリさんが名古屋出入国在留管理局の収容施設で亡くなってから、2カ月以上が経った。亡くなる直前には歩けないほど衰弱していたとされるが、点滴などの措置は最後まで受けられなかった。いまだ死因さえ明らかにされていない。そもそも調査されるはずの入管側が、内輪の調査を進めても、まともな報告がなされるはずはない。

 ウィシュマさんは英語講師を夢見て来日後、学校に通えなくなり、昨年8月に施設に収容された。その背景には、同居男性からのDVがあったことが、ウィシュマさん自身が記した言葉や、支援者への証言から明らかになっている。

 彼女の死に、多くの悼む声があがっている。理不尽を見過ごさないために、とても大切なことだ。けれども、「あんな親日家の彼女に酷いことを」「あんな勉強熱心だった人を死なせるなんて」という言葉に、違和感も募る。「親日家だから」「勉強家だから」人権侵害をしてはいけないのではないはずだ。どんな背景があろうと、どんな立場にあろうと、権利を不当に侵害されていい人などいない。まして、命を奪われていい人などいない。その前提が抜け落ちたままでは、事件が起きた構造上の問題は変わらないはずだ。

 政府がウィシュマさんの死と向き合わない中、入管法政府案が審議され、採決されようとしている。「法的なことは難しそう」というイメージを持たれるかもしれない。けれども問われていることは、突き詰めるととてもシンプルなことだ。政府が恣意的に命の線引きをした上で、「この線から先の人間には何をしてもいい、送還された先で死んでも我々に責任はない」とみなしているのがこの法案だ。果たしてそんな社会に私たちは生きたいか、社会のあり方の根本が問われているのではないだろうか。

ウィシュマさんが生前に着ていた服。遺品番号がふられ戻ってきた。
君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―

君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―

安田菜津紀

2016/04/22発売

シリアからの残酷な映像ばかりが注目される中、その陰に隠れて見過ごされている難民たちの日常を現地取材。彼らのささやかな声に耳を澄まし、「置き去りにされた悲しみ」に寄り添いながら、その苦悩と希望を撮り、綴って伝える渾身のルポ。

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考える人とはとは

 はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
どうして自分が「考える人」なんだろう――。
手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか――手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

「考える人」編集長
金寿煥

著者プロフィール

安田菜津紀

1987年神奈川県生まれ。NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)所属フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。

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