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山野井春絵「友達になって後悔してる」

2026年1月19日 山野井春絵「友達になって後悔してる」

第11回 BFFってなに? 中2の娘に学ぶ、「大人の友情」の最適解

著者: 山野井春絵

「LINEが既読スルー」友人からの突然のサインに、「嫌われた? でもなぜ?」と思い悩む。あるいは、仲の良かった友人と「もう会わない」そう決意して、自ら距離を置く――。友人関係をめぐって、そんなほろ苦い経験をしたことはありませんか?

 自らも友人との離別に苦しんだ経験のあるライターが、「いつ・どのようにして友達と別れたのか?」その経緯を20~80代の人々にインタビュー。「理由なきフェイドアウト」から「いわくつきの絶交」まで、さまざまなケースを紹介。離別の後悔を晴らすかのごとく、「大人になってからの友情」を見つめ直します。

※本連載は、プライバシー保護の観点から、インタビューに登場した人物の氏名や属性、環境の一部を変更・再構成しています。

 “BFF”は、ベスト・フレンド・フォーエバーの略語。SNSで普及し、特にティーンエイジャーの女の子たちが「親友」という意味で使う。思春期の一人娘をインターナショナルスクールに通わせる税理士の和世さん(49)は、「今のティーンたちの友達づきあいにはびっくりさせられることばかり。くっついたり離れたり、その様子はまるで恋愛みたいです」と苦笑する。そんな和世さんには、小学生のころからの仲良し4人グループがある。その関係はまさに永遠かと思われたが、とある出来事をきっかけに不協和音が生じた。悩んだ和世さんは仲良しグループから距離を置こうとするが…。

BFFになろう!

 同業者だった元夫とは、娘が5歳のときに離婚しました。以来娘の亜美と、気楽な女の2人暮らしです。私は外資系事務所に所属している税理士であり、将来は海外移住も考えているので、亜美は幼稚園からインターナショナルスクールに通わせています。現在、日本でいう中学2年生。インターが独特なのか、今の若い子たちはみんなそうなのか、よくわからないのですが、娘の友達関係を見ていると、私の子ども時代とはずいぶん違うなあ、と思うことが多々あります。

 昨年、亜美は隣のクラスのミミちゃんから熱烈なラブコールを受けて、BFFになりました。ミミちゃんは台湾ハーフ。飛び抜けて背が高く、メイクもバッチリ、ぱっと見は高校生のようです。亜美が受け取った手紙は、まるでラブレターでした。

 「亜美の見た目、特に目が好き。話す声も好き。音楽の趣味も一緒だよね。私たちは絶対にうまくいくと思うから、BFFになろう! もし亜美がOKなら、一緒にMr.スミス(学校長)のところへ行って、9月から同じクラスにしてもらえるように頼むのはどう?」

 「こんなに愛されちゃったよ」と、亜美は嬉しそうにその手紙を見せてくれました。

 「亜美も、ミミちゃんのことが同じくらい好きなの? BFFになりたい?」

 「うーん。でもミミはポジションが高いから、得することもあるかも。私は来るもの拒まずタイプだから、とりあえず、受けるわ」

 そうして2人はBFFになったのですが、彼女たちの世界では、こんな感じで友達関係を作っていきます。「親友」とは、なんとなく気づいたらそうなるものだと私は思っていたので、はじめは本当に驚きました。すぐにミミちゃんのママからも、「亜美さんとBFFにさせていただいたそうで、これからよろしくお願いします」と電話がありました。子ども同士が仲良くなると、ママたちもお互いの連絡先を教え合い、登下校や、遊ぶ約束をするときにLINEをします。

 私の子ども時代は、学校の帰りになんとなく遊ぶ約束が決まって、門限の時間まで自由に交流していました。親は、何かあれば学校から配布された連絡網を使って、連絡を取り合ったものです。今、娘の学校の保護者たちとは、まるで予約システムのように、「何日の何時からうちでお預かりします」などとまめにやり取りしています。防犯意識の高い欧米式なのでしょう。ニューヨークの同僚にも、「日本では子どもだけで登校したり、遊びに行ったりするんだって?」と聞かれたことがあります。

亜美はミミに振り回されて

 ミミちゃんと晴れてBFFになった亜美は、すべてをミミちゃんに合わせて生活するようになりました。お揃いのヘアピンをして、靴下の色も一緒。朝は必ずミミちゃんを待ち、一緒に校門をくぐるのがルール。休憩時間やランチタイムは一緒に過ごします。誰かに誘われても、ミミちゃんの許可がなければ遊ぶことはできません。

 「ミミってさ、ちょっと束縛キツすぎるんだよね」

 亜美はだんだん不満を漏らすようになりました。

 「この間もセラミック(陶芸)のワークショップのとき、クラスで一番上手なジョシュが一緒にやろうって言ってくれたんだけど、ミミが狂ったみたいに泣き出してさ。『亜美がジョシュと一緒にやるんだったら、別れるよ!』って脅してきて、私の粘土を投げちゃったんだよ。え、男の子にそんな嫉妬するのってびっくり。ジョシュは親切で教えてくれようとしていただけなのに」

 「別れるって」

 「BFFじゃなくなるって意味」

 「なんだか恋愛みたいね。それでどうしたの?」

 「とりあえず、なだめて、説明して。ジョシュは私とミミ2人ともに教えてくれたから、結局ミミはすごくかっこいいお皿を作ることができて、Mr.スミスにもすごく褒められてラッキー。それで終わったんだけど」

 「BFFも大変だね。亜美はミミちゃんのこと、どう思ってるの?」

 「うーん。まあ、微妙だけど、まだ大丈夫って感じかな」

 無理して付き合うことはないんだよ。私はそう言いたい気持ちをグッとおさえました。子どもの友達関係に、親が口を挟んではいけないと思ったからです。それでも、わがままなミミちゃんに、亜美がいつか傷つけられるのでは…そう想像すると、胸がチクチクしました。

 ある日、亜美は1冊のノートを持ち帰り、私に見せてくれました。そこには漫画が得意なミミちゃんによる、亜美との友情のストーリーが数ページにわたって描かれていました。

 「ミミって、すごいでしょう。ウザいところもあるけど、センスいいし、愛情深いんだよ。私はこの漫画、すーごく気に入ってる!」

 手描きの漫画をもらったその日の亜美はとにかく上機嫌で、進んで夕飯の手伝いをし、お風呂まで洗ってくれたのでした。

 ところがその週末。亜美が習い事に出かけている間に掃除をしていると、亜美の部屋のゴミ箱に、ぐちゃぐちゃに丸められたコピー用紙が押し込まれていることに気づきました。広げると、例のミミちゃんが描いた漫画です。何か必要があってコピーを取ったのかなと思いながら、折りじわを広げ、リビングのテーブルの上に置いておきました。

 「ママ! なんでゴミをまた広げているの! それ、捨てたんだけど!」

 帰宅してリビングのコピー用紙を見た亜美は、甲高い声を出して怒りました。

 「それ、ミミちゃんが描いてくれた漫画のコピーでしょう。大事なものじゃないの?」

 「だって、コピーじゃん。別にいいんだよ」

 「もとのノートはどうしたの?」

 「ミミが返してって言うから、返した。代わりにそのコピーをくれたの。コピーなんか私はいらないと思って、ゴミ箱に入れたんだけど」

 「え? 返してくれって、なんで?」

 「…私が、ちゃんと喜んであげなかったから。『もっと大喜びしてくれると思ったのに! 亜美のために、こんなに心を込めて描いたのに』って、ミミ、すごく怒っちゃったの。褒め方が足りないんだって。なんだよそれ、って感じ。どうしたらミミが納得する喜び方になるかなんて、私にはわからない。なんか、ガチで気分が下がった」

 ほんとに、捨てていいから! そう言い放って、亜美は部屋にこもってしまいました。

小学生のときからおばさんになるまでBFFってすごい

 ほどなく、亜美はミミちゃんとのBFFを解消しました。

 ミミちゃんは学年でも目立つ存在で、たくさんの友達から「BFFになろう」という手紙を受け取るそうです。それらを亜美に、これみよがしに読ませ、「亜美はどんなに素晴らしい友達と付き合っているのか、確認した方がいい」と言ってくるというのです。

 「『もうメンタルもたないわ。だから別れよう』って私から言ったの」

 「ミミちゃんの反応は?」

 「めっちゃ泣いてすがりついてきたの、それもすごく嫌だった。だったらなんで私の嫌がることばっかりするの、って思った。私はずっとミミに合わせて、『やさしい亜美』でいてあげたけど、『もう素に戻らせてもらう』って言ったら、ドン引きしてたけど。元のクールな自分に戻って、今はすっごく楽。ほかの子と遊んでも叱られないし」

 まるで男女関係のようです。呆れながら私は言いました。

 「BFFって、フォーエバーなんでしょ。親友ってそんなものなのかなあ。もっと自然に、深いところで繋がってるものなんじゃないの」

 「ママは昔の人だからね。今でもアケミたちとBFFなんでしょう? 小学生のときからおばさんになるまでBFFってすごいと思う。私には、そんなに長続きする友達が今後できるのかな。まあ、必要かどうかもわからないけど」

 “アケミたち”とは、私の小学校時代からの友人のことです。それぞれの結婚式にも出た、いわゆる「仲良し4人組」。私たちは「お嬢様学校」と呼ばれるエスカレーター式の私立女子校に通っていました。私だけ別の大学を受験しましたが、ほかの3人はそのまま女子大に進みました。

 朱美は商社マンと結婚して、長く海外赴任に帯同していましたが、数年前から日本に戻っています。子どもは2人、専業主婦。

 バツイチの若菜はクリニックをいくつも経営する実業家と再婚。眺めのいいタワマンの角部屋に暮らすセレブです。子どもは1人、こちらも専業主婦。

 郊外の和菓子屋さんに嫁ぎ、厳しい姑の下、女将修業をしてきた智子は、姑が亡くなってから店を切り盛りしています。子どもなし。

 そしてシングルマザーは、私だけ。

 私たちは、それぞれの人生に起こったさまざまな出来事を、いいことも悪いことも、だいたい共有してきました。独身時代はよく4人で遊んでおり、結婚後は連絡が途絶えがちになったこともありましたが、年に何回か、必ず誰かとは会っていました。何年か前からできたグループLINEは、盛り上がったり沈黙したりという感じで、ずっと続いていました。

 私は不精で、グループLINEでも積極的に発言はしないのですが、それでも、幼いころから親しくしている仲間には、ほかにはない安心感がありました。これまで、大学時代や前の職場、元夫つながりの友達など、疎遠になった関係はいくつもあります。でもこの仲間に限っては、離れることはないだろうと考えていました。

 ところがそんな「BFF」たちに、モヤモヤを感じる出来事が起こったのです。

サプライズプレゼントの感想を教えてほしい

 きっかけは、元駐妻の朱美が送ってきたクリスマスプレゼントでした。朱美は昔からまめな人で、どこに住んでいても、私たち3人にクリスマスカードやプレゼントを送ってくれるのです。その年も12月に入るとすぐに朱美から小包が届きました。香りのいいハンドクリームと、手焼きをした一枚のCD。小さなカードには、「メリークリスマス! ちょっとしたサプライズ。ぜひCDを聴いて、感想を教えてね!」。若菜と智子は、CDをすぐに聴いたようでした。グループLINEはにわかに盛り上がり、若菜は豪華なクリスマスツリーの前でそのCDの写真を撮って、SNSに投稿したと報告しました。智子は「朱美、最高のプレゼントありがとう! もうびっくり。素晴らしい才能だよ」と大絶賛。ところがCDプレイヤーを持っていなかった私は出遅れてしまい、ありがとう!というスタンプでとりあえずその場のLINEを流したのでした。どこかでCDを聴かなければ。しかしわざわざプレイヤーを買う気持ちにもなれず、CDは私のデスクの引き出しにしまわれたままになりました。

 その直後、私の父親が緊急入院。命に別状はなかったものの、すべてを父親に頼って生きてきた母親はちょっとしたパニック状態に。私は亜美を連れて一時的に実家で生活をし、そのまま年末年始を迎えました。

 やがて決算期が近づき、私の仕事はどんどん忙しくなっていきました。毎年春にかけて、私は海外の時間に合わせて夜中を中心に働き、そのまま娘の朝食を用意して見送ったら、数時間だけ眠るという生活が続きます。プライベートな約束はほとんどできません。そこへ両親のケアも重なり、とてもストレスフルでした。LINEの未読は1000件を超えましたが、しばらくの間、読む気にもなれませんでした。

 仕事の山場を越え、ほっとした週末、私はようやく溜まりに溜まった未読LINEを確認しました。一番会話件数が多かった仲良し4人組のLINEでは、朱美がやけに私の無反応を心配していました。若菜と智子は、「和世はこの時期、毎年のことでしょう」、「決算が終わったら連絡待ってるよ」というコメントを残し、何度か別の話題で盛り上がったようでした。私はそれらをざっと流し見して、「ようやくモグラ生活から復活しました! ご心配おかけしました」とメッセージを送りました。すぐに朱美から絵文字たっぷりの返事が届き、ほかの2人からもスタンプがきました。「みんなで集まろう」という提案が上がり、日程調整のスケジューラが共有されましたが、私はすぐに予定を立てることができず、そのまま忘れてしまったのです。

 両親の暮らしも落ち着き、私と娘が自宅に戻ってすぐのことです。「話したいことがある」と智子がおまんじゅうを手土産に、久しぶりにうちへやってきました。

 3人で夕食を囲み、お茶を飲んだ後、亜美はお風呂へ。智子はおもむろに話しはじめました。

 「ねえ和世。朱美と、なんかあった?」

 「え? なんで? このところ、会えてないけど」

 「だ、よねえ。毎年和世がモグラ生活になるのはわかってるから、私もそんなに騒ぐなって言ったんだけど。『和世に無視されてる』って朱美が言うから」

 遡って確認すると、私はグループLINEだけでなく、朱美からのダイレクトメッセージもスルーしてしまっていたようでした。

 「ほんとだ。見逃してた」

 「見逃してただけだよね? 別に他意はないわよね」

 「ないよ、あるわけない」

 「朱美は、若菜と3人のLINEで、和世に嫌われたって大騒ぎよ。CDの感想ももらえないって、それでずっとモヤモヤして眠れないって」

 「CD…、やば、そうだった! まだ聴いてないわ。だってプレイヤーがないんだもん」

 朱美は趣味でピアノヴォーカルを習っています。そのスクールの催しでスタジオ録音したクリスマスソング数曲が収められていることは、グループLINEのやり取りからわかっていました。

 「まあ、ちょっと音程に難あり、頑張って歌ってるって感じで、痛いんだけどさ」

 「サプライズがどうのってメッセージがあったけど、あれなんだったの?」

 「最後に、英語で『若菜、和世、智子、いつまでも友達でいよう』ってセリフが入ってるんだよ」

 「へえ〜」

 「へえ〜、じゃないわよ。和世からお礼がないって、それはあのメッセージに対する返事なんじゃないかって朱美が落ち込んじゃってさ」

 「困ったな、今から返事したら余計おかしいよね」

 「おかしいね、それは。まあ、とりあえず、みんなで会ったときにでも話題に出して、大袈裟に褒めちぎっておけばいいんじゃない? 朱美が不安定なの、更年期じゃないかな。若菜みたいに高いヒアルロン酸バンバン注入したらいいのにね」

 智子が帰った後、私は引き出しをあけて、CDを眺めました。

 心が、ざわざわしていました。

思い切って、グループLINEを「退会」しよう

 それから数日して、今度はタワマンセレブの若菜からLINEが届きました。

 「智子から、朱美の話、聞いたでしょ? もう大変だったんだからね。私は和世が忙しいの知ってたから、放っておきなよってずっとなだめてたんだよ」

 「みたいだね。ごめん」

 「なんのために私は一生懸命練習して、CDを作ったのかわからなくなった。和世はきっと私のことを嫌っているんだ、なんで? 理由がわからない。和世のせいで鬱になりそう、とか、わーわー言い出して、会ったらすぐ泣いちゃって」

 「何それ、嫌うとか意味がわからない」

 「まあ、朱美って昔からそういうところあるじゃない? 自分からおせっかいして、見返りを求めるみたいなところ」

 「私がよくなかったよ、忙しいからって全然連絡もしないで。CDのお礼もちゃんとできてなかったし」

 「聴いてないんでしょ? 絶対和世、聴いてないと思った」

 「うん、実は聴いてない」

 「あれさ、スタジオ録音体験とかって何十万かスクールに払ったらしいよ。ぼったくりでしょ。マイク買って家で録ったらタダなのにねえ」

 「お金があって、自己満足できてるんだから、いいんじゃない?」

  「まあね。でも、そんなとこにお金を使うくらいなら、朱美はもっとオシャレに気を遣った方がいいと思う。この間もストッキングでラメ入りの厚底スニーカーはいて、すっごい変だった。それで若ぶって推し活ライブ行ってるんだって、ドン引きだわよ」

 若菜も朱美の演奏を絶賛していたはず。本音はこんなことだったのかと、私は心の中で呆れました。

 「それはそうと、来月の第3日曜、麻布台ヒルズでシャンパーニュの会をやるんだけど、1席空いちゃったの。ワイン好きでしょう、来ない?」

 「第3日曜は亜美のバレエの小品集を見に行くから、ちょっと無理かな。智子を誘ってあげたら?」

 「智子どうかなー、みんな子どもがいるママたちだから、話が合わないかも。ぶっちゃけ気を遣うでしょ、子どもいない人がいると」

 若菜とのLINEを終えると私はスマホをソファに投げ、床に座り込みました。

 私がCDの感想をきちんと伝えなかったことに、朱美が相当ショックを受けていた。そんな思いがけない事実を2方向から知ることになって、むしろこちらがショックだ、と思いました。若菜の毒舌も、いつもより悪意が強い気がして、苦しくなります。モヤモヤはどんどん膨らんで、胸焼けした気分でした。

 そもそも、なぜこんなことになったのか。その夜は珍しく一人でお酒を飲み、私はあれこれと考えをめぐらせました。

 朱美はみんなを喜ばせようと、CDを作った。…いや、そうではなくて、朱美は自己満足のためにCDを作り、せっかくなら誰かに聴かせたいと、メッセージも吹き込んで(格好つけて英語で)、私たちに送った。そこまではまだ良かった。本当に朱美がしたかったことは、自分の音楽を聴かせることではなくて、友達から「賞賛」を回収することだった。ところが私は、朱美が望む賞賛を与えることができなかった。朱美は私からの友情に不足を感じ、ほかの友達2人にその気持ちをぶつけた。

 そして智子と若菜。朱美の大騒ぎを、わざわざ伝えてきたのはなぜか。心の底で、愉快に思っていたからに違いない。2人とも、グループLINE上ではCDを褒めちぎっておきながら、本音は違う。そしてそれぞれがマウントを取り合っているようなところがある。どちらかといえば、朱美はその事実にこそ悲嘆すべきだ。私は少なくとも陰口は言っていないし、嘘もついていないのだから!

 酔いが回ってよけいにグダグダした私は、どんどんマイナスに傾く気持ちをグループ全員にぶつけてやろうと、LINEで長文を書き始めました。書いては消し、書いては消しを繰り返しているうちに、酔いとともに、だんだん気持ちも冷めていきました。

 ばかばかしい。なんだか全部、鬱陶しい。小学校からの仲間とはいえ、もう、生き方はずいぶん違っているのだから、情だけでつるむのは意味がない。人間関係も断捨離すべき、とよくいうではないか。今がまさに、その時なのでは? よし、思いきって、グループLINEから退会してやろう!

 そう思った私は、「退会する」をタップしようとして、…そこでなぜか、踏みとどまったのです。深呼吸をした後、スマホをスリープモードにしてベッドに入りましたが、何度も目が覚めました。その日から、うまく眠れない日が続きました。

なぜそう思ったのかなんて、誰にも伝える必要はない

 「ママ! 起きて!」

 不眠が続いていたある日の朝、ようやく眠りについたと思ったところで、亜美に揺り起こされました。

 「学校に早く行かなきゃいけないの、夕方バレエあるから、髪の毛、手伝って!」

 背後からぴっちりとしたお団子ヘアに結っていると、亜美が言いました。

 「今日から、またミミと待ち合わせしてる」

 「え? ミミちゃんとは別れたんでしょう」

 「私の、このクールなキャラがかっこいいって。またBFFになってくれって言うからさ。そのかわり、私もう、あんたにはいっさい合わせないよ? あんたが合わせるんだよって言ったら、それでいいからって。それなら、まあ、いっかと思って」

 「そうなの…」

 「うん。ミミのことは、心から嫌いってわけじゃないしね。だけど、本当に私がどう思っているかなんてことは、ミミには伝えない。私は、自分のすべてをさらけ出して、心を奪われるのは嫌だから。相手が私に本当の気持ちを伝えてくるのは勝手にどうぞだけど、私は、自分の人生を、友達に支配されたくないんだよね。だからいろいろ、受け流していく」

 私は、亜美の方がよっぽど、友達との距離の取り方を知っているな、と思いました。BFFなんて友情を軽んじた言葉だと、若い世代を小馬鹿にしていた自分が、急に恥ずかしくなりました。私こそ、50歳を目前にして、「友情」も「親友」もなんなのか、よくわかっていないではないか。なんだか笑い出したい気持ちになりました。

 小学生からの仲良し4人組から抜け出たいと思えば、「退会する」をタップするだけ。でも、最後まで私がそうしなかったのは、寂しくなるからとか、情があるからとか、そういう理由からではありません。亜美の「受け流す」という言葉を聞いて、ああ、この言葉がひとつの救いかも、と思ったのです。

 何をどう思ったのか、相手に本当のことを伝えることが正しいとは限らない。大人が個人の正義と本音をぶつけたら、きっと誰もが、地獄の夜を過ごすことになるでしょう。自分が受けることを想像すると、ゾッとします。

 摩擦を避けるために表面的な付き合いをしたい、というのとも、ちょっと違います。これまでの長い関係から、私たちはいいところも悪いところも、お互いのことをよく知っています。きっとこれからも、すれ違いや歪みが生まれることはあるでしょう。それでも、相手を「心から嫌い」になったわけではないのなら、そのときのちょうどいい距離を探してみること。時期が来たら、そこからまた向き合えばいい。そうやって、心のざわつきを受け流していこう。そんなふうに友情を捉える角度をその都度変えていく工夫が、大人には必要なのかもしれない。それでも耐えられないと思ったら、いよいよ強制終了すればいい。

 今、私は彼女たちとどう付き合うかを考える時期にあることを認識した、そういうことだったんだ。

 何周も何周も考えて、私が出した結論は、そうしたものでした。

 朱美のCD問題は、後日4人で会ったとき、智子が提案した通り大袈裟に褒めちぎって解決しました。

 「でもね、これからはデータで送ってくれる? そしたらすぐ聴けるから」

 そう言うと、朱美はうれし涙を湛えながら答えました。

 「わかった、これからはデータを、何かに焼いて、送るわね!」

 思いきりずっこけましたが、3人の笑顔を見ながら、これでよかったんだ、と思いました。

 そして、次にいつみんなで会うかという話になりましたが、私は言いました。

 「3人で決めていいよ。私は、スケジュールが合ったら参加するね」

 

(※本連載は、プライバシー保護の観点から、インタビューに登場した人物の氏名や属性、環境の一部を変更・再構成しています)

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考える人とはとは

 はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
 「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
 どうして自分が「考える人」なんだろう―。
 手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか―手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
 それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

「考える人」編集長
金寿煥

著者プロフィール

山野井春絵

1973年生まれ、愛知県出身。ライター、インタビュアー。同志社女子大学卒業、金城学院大学大学院修士課程修了。広告代理店、編集プロダクション、広報職を経てフリーに。WEBメディアや雑誌でタレント・文化人から政治家・ビジネスパーソンまで、多数の人物インタビュー記事を執筆。湘南と信州で二拠点生活。ペットはインコと柴犬。(撮影:殿村誠士)

 

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