どこから書いていいのかわからないほど、わが家の義父母の介護は大きな動きを見せている。わかりやすいように箇条書きにしてみる。
まずは義母だ。
・認知症対応グループホームへの入居が決定!
・グループホームの職員のみなさんとの面談が終了
・契約終了!
・いつでも入居できる状況。本人も場所を気に入っている。
次は義父だ。
・義母のグループホームへの入居は(渋々だが)承諾
・本人は施設への入居は拒否(わが家での同居希望を匂わせる)
・介護度がホップ・ステップ・ジャンプで要介護2となる
・最近行き始めたデイサービスを気に入って、週三回も通うようになった
さあ、どうでしょうか。かなりの進展を見せているのではないでしょうか。先週末、グループホームの職員の皆さんとの面談のために義母を迎えに行くと、義父は何かを察知したらしく、夫のいない場所で私に「何をしようとしているんや」と聞いてきた。大きなチャンスを逃したくなかった私は思いきり適当に「お義母さんが新しい場所に行くことになったんで、見学に行って来ます」と言った。すると義父は私をじっと見たあげく、涙声で「わしはどうしたらええねん」と言った。出たーッ! 「わしはどうしたらええねん攻撃」だ。自分で考えてくれえ! と大声で言いたい。
義父の気持ちだってわからないでもない。いや、とてもよくわかるよ、私だって悪魔じゃないんだから。でも、今はこれがベスト、わかってください。私は祈るような気持ちだった。顔を10針以上縫う怪我、腰の圧迫骨折、右手首骨折といった怪我を繰り返し、表情も失い、異食(異食とは、認知症の進行により、食べ物ではないものを口にしてしまう行為のこと。義母の場合、洗剤、石鹸、ボンド、紙などを口にするし、あるいはそういったものを体に誤って塗ってしまう)もある状況の義母を、これ以上この家に住まわせるのは無理なんです。老老介護もここまできたら、お互いのためになりません。一人暮らしになってしまうのは寂しいでしょうけれども、とにかく、義母は連れて行くから、ごめんね!
私はいつもの、面倒くさいことは後回しの精神でとにかく義母を車に乗せた。夫は追いすがるようにしてガレージまで歩いてこようとする義父を振り切るように車をスタートさせた。私は車のなかにいる義母に聞こえないように、小さな声で夫に聞いた。「お義父さんに、はっきり言った? もう入居は近いって、ちゃんと説明してる?」と聞くと、夫は「いや、一度は言ったけど、まさかこんなにすぐとは思っていないはず」と答えた。チッと口から出そうにもなったが、夫の作戦も理解できる。あまり前倒しで情報を与えると、何をしでかすかわからないのがわが家の義父だ。
そして実は、わが家が長らくお世話になっているケアマネさんから、義母が入居予定のグループホームに義父に関する連絡はすでに入っている状況だった(もちろん、私と夫からも、義父には手を焼いてきたこと、義母の入居後に施設に来てしまうとか、電凸などのご迷惑がある可能性がエベレストぐらい高いということは伝えてある)。施設のみなさんも言いにくそうに、「それで……お父様はご納得で?」と夫に聞いていた。夫は「やってみなくちゃわかりませんね、アハハハハ」と豪快に笑っていたが、夫以外誰も笑っていなかった。
さて、最新の状況を書く。義母の入居はたぶん八月末になるだろう。いろいろな準備をしなくてはいけないために、もう少しだけ時間が必要だ。義母は自分が施設に入所することは理解していない。しかし、今の彼女の状況であれば、きっと、環境の違いにさほど疑問は抱かないと思う。入居の日は、私と夫で彼女を連れて行く。義父は連れて行かない。しばらくの間は、少なくとも一ヶ月は、義父には我慢をしてもらおうと思っている。
そして、義父に義母の入居について、はっきりと、確定事項としていつ伝えるのか。それは、ASAP(なる早)ということになると思う。誰が言うのかは、もちろん夫がその役割を果たすだろう。私がやることは、引き続きケアマネさんと相談しつつ、義父のデイサービスの利用日を増やし、なんとか独居を成立させつつ、義父が入居できる施設を探すことだ。ちなみに、義母の入所するグループホームの利用料金は25万円から27万円程度だという(一ヶ月)。資金繰りをどうしたらいいのかも考えなくてはならないが、とにかく、まずは義母の入居を目標に、今はがんばっている。
夫は義母の入居する部屋に「おふくろが大好きだった掛け軸を飾ったらいいんじゃないかな」とか、アゴが外れそうになるぐらい浮世離れしたことを言っていたが、私は義母にプレゼントしようと、ミッフィーのぬいぐるみをオーダーした(どっちもどっちだろうか)。とにかく義父がどう出るか、そこが最も心配される点だ。次の報告を待っていてくれ!
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村井理子
むらい・りこ 翻訳家。訳書に『ブッシュ妄言録』『ヘンテコピープル USA』『ローラ・ブッシュ自伝』『ゼロからトースターを作ってみた結果』『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』『子どもが生まれても夫を憎まずにすむ方法』『人間をお休みしてヤギになってみた結果』『サカナ・レッスン』『エデュケーション』『家がぐちゃぐちゃでいつも余裕がないあなたでも片づく方法』など。著書に『犬がいるから』『村井さんちの生活』『兄の終い』『全員悪人』『家族』『更年期障害だと思ってたら重病だった話』『本を読んだら散歩に行こう』『いらねえけどありがとう』『義父母の介護』など。『村井さんちのぎゅうぎゅう焼き』で、「ぎゅうぎゅう焼き」ブームを巻き起こす。ファーストレディ研究家でもある。
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とは
はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
どうして自分が「考える人」なんだろう――。
手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか――手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。
「考える人」編集長
金寿煥
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- 村井理子
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むらい・りこ 翻訳家。訳書に『ブッシュ妄言録』『ヘンテコピープル USA』『ローラ・ブッシュ自伝』『ゼロからトースターを作ってみた結果』『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』『子どもが生まれても夫を憎まずにすむ方法』『人間をお休みしてヤギになってみた結果』『サカナ・レッスン』『エデュケーション』『家がぐちゃぐちゃでいつも余裕がないあなたでも片づく方法』など。著書に『犬がいるから』『村井さんちの生活』『兄の終い』『全員悪人』『家族』『更年期障害だと思ってたら重病だった話』『本を読んだら散歩に行こう』『いらねえけどありがとう』『義父母の介護』など。『村井さんちのぎゅうぎゅう焼き』で、「ぎゅうぎゅう焼き」ブームを巻き起こす。ファーストレディ研究家でもある。
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