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Rhythm & Rhymes

2017年9月26日 Rhythm & Rhymes

そこに流れる言葉は独立した〈詩〉ではなく、あくまでもその情景を補足するような〈歌詞〉であってほしい。

著者: 田中和将(GRAPEVINE)

 何かワケありの〈男〉が街を歩いている。
 それなりに歳を重ねていて、それなりに人生に草臥くたびれている。〈男〉は一歩また一歩と歩みを進め、それから、過去にあった出来事を一つひとつ思い出しては消してゆく。それでも歩みを停めることが出来ない。その先に何が待っているのか、半ばどうでもいいような気持ちなのに歩き続ける。

 どうもそういうイメージを好んで描くことが多い。〈書く〉ではなく〈描く〉としたのは詞作の話だからである。文章ではなく詩でもない。音楽自体が、それだけで充分なほど我が小宇宙に情景を描いてくれるだけに、そこに流れる言葉は独立した〈詩〉ではなく、あくまでもその情景を補足するような〈歌詞〉であってほしい。と、願いながら〈男〉を歩かせてゆく。

 ポールオースターの小説に出逢ったのはいつだったか。多くの人と同じく『ムーン・パレス』に感銘を受け、次に手に取ったのが『ガラスの街』だった。“ニューヨーク三部作”と呼ばれるものの一作目である。これまでに二度訪れたニューヨークは、ボブディランやルーリード、或いは数多の映画などで知る憧れの街ではあったものの、日本に暮らす私にとってはやはり外国であり、思い入れなどあるはずもない。だが『ガラスの街』は最初から切実なリアリティを持って迫ってきた。主人公クィンの歩く街が、もはやニューヨークかどうかなんてどうでもよかった。読み進めるうちに、いつも私が胸に何かを抱えながら歩く街、“ワケありの〈男〉”の歩く街、に重なっていった。

「どれだけ遠くまで歩いても、どれだけ街並や通りを詳しく知るようになっても、彼はつねに迷子になったような思いにとらわれた。街のなかで迷子になったというだけでなく、自分のなかでも迷子になったような思いがしたのである。散歩に行くたび、あたかも自分自身を置いていくような気分になった。街路の動きに身をゆだね、自分を一個の眼に還元することで、考えることの義務から解放された。」

「そして結局のところ、彼が物事から望んだのはそれだけだった−−どこにもいないこと。」

 物語は少しのミステリ臭を漂わせながらも、“THE TOWER OF BABEL”という言葉の印象を残して、様々な解釈と余韻を読者に委ねて終わる。

 私もまた、どこにも存在しない状態で街を歩き始める。何かワケありの〈男〉と共に。

ガラスの街

ポール・オースター/著
柴田元幸/訳

2013/09/01発売

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*産業革命後に急速な都市化が進むロンドンで、イギリスの詩人ワーズワースが書き遺した言葉。

 

 

「考える人」編集長
松村 正樹

著者プロフィール

田中和将(GRAPEVINE)

GRAPEVINEのボーカリスト/ギタリスト。全曲の作詞を手がける。
デビュー20周年を迎える今年、ユニコーンからOGRE YOU ASSHOLEまで多彩なゲストを迎えた対バン・ツアー「GRUESOME TWOSOME」を開催、ニュー・アルバム「ROADSIDE PROPHET」をリリースしたばかり。10月から全国ツアーを開催する。

GRAPEVINE Official Site>>

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