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Rhythm & Rhymes

2017年8月8日 Rhythm & Rhymes

もしかして自分自身の体験を重ねているところもあるのかもしれない。

著者: 大沢伸一

 例えば誰かに何かを伝える時に心の中、頭の中にある感情やイメージを言語に変えて理解し、実際に言葉として発する。この行為は日々何の疑問もなく繰り返し行われている。しかし、実際には言葉にならない感情というものが存在し、言語化できないもどかしさも皆それぞれ感じたことがあると思う。物事の感じ方や見方なども共有できているようでいて、実際のところ擦り合わせをする方法もなければ確認もできない。例えば「甘い」という味覚の一つすら他者と同じ体験をしているという確証を得ることはできない。なんとなくの共通の認識を持っているつもりの五感ですらそうなのだから、心にまつわる事柄や意識などに至っては、もう雲をつかむようなものなのかもしれない。その一方で言葉にしなくても分かり合えることが存在するのも事実で、つくづく人類の歴史と言葉、そして意識については謎ばかり。

 この物語の全体的な流れには大きく影響しないものの「ミカ」が、主人公の一人「由人」が少年から青年に変化を遂げる過程でとても重要な役割を果たしている。彼らがある日夜明かしして見た朝日の色は、殆どの場合言葉にすることなく過ぎ去っていく確認のしようのないどうしようもなく切ない思いを言語化させたものだ。青春時代のある意味傍若無人な感情は、常識的な日常に真っ向から疑問をぶつけるような激しいもので、人生の長さや重さからすればほんの些細な(本当はそうでないかもしれない)事柄に半ば命をかける瞬間があったりする。

 本来僕は音楽制作で作詞に大きく関わることはあまりない。しかし、今回14年ぶりにMONDO GROSSO名義でリリースしたアルバム「何度でも新しく生まれる」の中では幾つか積極的に関わったものがある。その中で「See You Again」はテーマの設定をし、作詞の最終段階にも意見を言わせてもらった。この曲の骨格となったテーマは「晴天の迷いクジラ」の中の「由人」が上京し都会で体験する様々の事柄からインスパイアされたもので、もしかして自分自身の体験を重ねているところもあるのかもしれない。

 

晴天の迷いクジラ
窪美澄/著
2014/07/01発売

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*産業革命後に急速な都市化が進むロンドンで、イギリスの詩人ワーズワースが書き遺した言葉。

 

 

「考える人」編集長
松村 正樹

著者プロフィール

大沢伸一

音楽家、DJ、プロデューサー、選曲家。 主な活動はMONDO GROSSOAMPSThousand Tears Orchestra、LNOL。リミックスを含むプロデュースワークでBOYS NOIZE、BENNY BENASSI、ALEX GOHER、安室奈美恵、JUJU、山下智久などを手がける他、広告音楽、空間音楽やサウンドトラックの制作、アナログレコードにフォーカスしたミュージックバーをプロデュースするなど幅広く活躍。

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