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Rhythm & Rhymes

2017年8月22日 Rhythm & Rhymes

あぁ、この物語は、空想の物語であるのに、より私たちの日々に近い。

著者: 松崎ナオ

 幼い頃、人見知りが激しかったため、1人で過ごす時間が多かった。でも、部屋で遊ぶのはキライで、外に出て現実と空想の中、ぐるぐる遊んだ。
 目についた虫や動物の目線を想像してみたり、木々の気持ちになったつもりで、公園の木の下に1日中座っていたり、大量のアリが瀕死のセミに食らいついているのにゾクゾクしたり、固い石で比較的柔らかい石を削り、粉にしたり。まあ、そんな子供。
 そのうち、現実の世界に飽き足らず、いちから想像した世界の中で遊ぶ様になった。想像する世界が無限に広がっていくことに日々喜びを感じた。
 その癖はずっと抜けないまま、ある日、飼っていた犬が死んだ。死は身近にあったはずなのに、その衝撃は言葉にはできなかった。その頃から心が揺さぶられる事が起こると、それに見合った空想の景色が浮かぶ様になった。

 作詞・作曲で大切にしていることの1つに、感情を風景描写で表現できないか、ということ。思い描く空想の世界を現実の世界と言葉に変換していく。曲をつくるたび、それにチャレンジしてはその難しさに吐きそうになる。毎回、坂道を転がり落ちたい気分の中、100曲を超えた頃。その表現方法自体に疑問を感じはじめ、ふらふら本屋に立ち寄った時、ふっと目に入って来たのが『獣の奏者』だった。その世界が身体にすっと馴染んで行く。

 あぁ、この物語は、空想の物語であるのに、より私たちの日々に近い。いやそれ以上に現実の様だ。

 私の目指す世界。はじめて、点と点が線でつながっていく感覚。空想の中のより濃い日常を探す。私の目標になった。そして自分がブレそうになるたび、主人公エリンの一生を読んで確認している。ありがたい。

 エリンが息子ジェシに言った言葉を最後に。
「わからない言葉を、わかろうとする、その気持ちが、きっと、道をひらくから……」

獣の奏者 4完結編
上橋 菜穂子/著
2012/08/10発売

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「わかる」のが当然だった時代は終わり、平成も終わり、現在は「わからない」が当然な時代です。わからないことを前提として、自分なりの考え方を模索するしかありません。

わかるとは、いわば自分の外側にあるものを、自分の尺度に照らして新しく再構成していくこと。

"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)*を編集理念に、Webメディア「考える人」は、わかりたい読者に向けて、知の楽しみにあふれたコンテンツをお届けします。

*産業革命後に急速な都市化が進むロンドンで、イギリスの詩人ワーズワースが書き遺した言葉。

 

 

「考える人」編集長
松村 正樹


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