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おかしなまち、おかしなたび 続・地元菓子

 水のきれいな地域は水ようかんがおいしい。福井の小浜、岐阜の大垣、埼玉の秩父、いずれも山が近く、湧き水が豊富で冬に寒く、空気の澄んだ土地柄である。町のなかを清冽な水流が走り、快い水音を響かせていることも多い。

 日光もしかり。日光東照宮などの社寺が山裾に建ち並ぶ町の中心部には大谷川が流れ、勢いよくしぶきを上げている。この大谷川を遡った先が中禅寺湖であり湯ノ湖であり戦場ヶ原であり、それらの湖と湿原を擁するのが男体山に代表される奥日光の山々である。これらの山々は火山帯の一部で、山に降った雨が地中にしみこみやすく、地下水となって流れ出すため、湧き水も多いのだ。

 日光に水ようかんを売る店が多いのは、社寺への献上品として、江戸期から煉り羊羹が作られてきたことも大きいだろう。そのため、さらりとした水ようかんの風味にもどこか煉り羊羹のどっしりとした小豆の甘い味わいが含まれている。

 たいていの地方では夏にいただく涼やかな和菓子として、北陸では冬にこたつで味わうおやつとして扱われているが、日光は標高も高く冷涼な地のため、年間を通して作られている。どの店も材料は小豆、砂糖、寒天が基本だが、独自の製法、配合で作られており、同じような大きさで、同じようにビニールにくるまれて紙箱に入っていても、少しずつ見ためも味わいも異なる。なかには敷地内の湧水を用いる店もある。小箱は5本入りからなので、夏には奥日光の湿原散策も兼ねて、好みの味を探しに行くのもいい。

若菜晃子「地元菓子 水ようかん」日光
鬼平(きびら)の羊羹本舗
見ためはみずみずしく、透けるような色合い。きめ細やかでさらさらと口溶けよく、小豆の風味がよくする
若菜晃子「地元菓子 水ようかん」日光
三ッ山羊羹本舗
砂糖の配合か、色はいちばん赤い。お店では藤色とも。親しみのある水ようかんの味。後味も甘い
若菜晃子「地元菓子 水ようかん」日光
湯沢屋
一見して固すぎずゆるすぎずの形だが、食べると水気が多く、つるりとやわらかい。小豆の味わいがある
若菜晃子「地元菓子 水ようかん」日光
吉田屋
全体の色は濃く、しっかりしている。食感も固めで、煉り羊羹の味に近い。黒糖入りだろうか。塩も入る
若菜晃子「地元菓子 水ようかん」日光
綿半
見ためは透けず、正統羊羹色である。やや固めで小豆の風味がよくし、全体に昔ふうの味わい。塩入り

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考える人とはとは

 はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
どうして自分が「考える人」なんだろう――。
手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか――手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

「考える人」編集長
金寿煥

著者プロフィール

若菜晃子

1968年神戸市生まれ。編集者。学習院大学文学部国文学科卒業後、山と溪谷社入社。『wandel』編集長、『山と溪谷』副編集長を経て独立。山や自然、旅に関する雑誌、書籍を編集、執筆。著書に『東京近郊ミニハイク』(小学館)、『東京周辺ヒルトップ散歩』(河出書房新社)、『徒歩旅行』(暮しの手帖社)、『地元菓子』『石井桃子のことば』(新潮社)、『東京甘味食堂』(本の雑誌社)、『街と山のあいだ』『旅の断片』(アノニマ・スタジオ)他。『mürren』編集・発行人。今春『東京甘味食堂』を講談社より文庫化。

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