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安田菜津紀の写真日記

2020年9月4日 安田菜津紀の写真日記

報道は次期総理の「素顔」を伝えるためのものなのか

著者: 安田菜津紀

2017年7月、ISとの戦闘から逃れた避難民が暮らすハーゼル避難民キャンプで

 私の出身の街、神奈川県横須賀市は、小泉純一郎氏、進次郎氏の地元でもある。小泉純一郎政権が誕生した時、中学生だった私は最初、無邪気に報道をうのみにしていた。「自分の街出身の総理だ! しかもノリがよさそうな人!」。テレビで映されるのは、大相撲で優勝した横綱に、「痛みに耐えてよく頑張った!感動した!」と、重さ40キロもの内閣総理大臣杯を渡す小泉首相の姿、そして写真集まで出したという話題を、彼が好きだという「X JAPAN」の楽曲と共に紹介するシーン。政治家の「固いイメージ」を一新するような目新しさに、メディアも飛びついていた時だったのかもしれない。「自民党をぶっ壊す」と豪語する小泉総理を報じる映像を、いつしか私は「劇場」で劇を見ているかのような感覚で見つめてしまっていた。

 ところが、だ。2003年、「フセイン政権が大量破壊兵器を保有している」と、アメリカはイラクに侵攻した。真っ先に支持したのは、小泉政権だった。そして、大量破壊兵器は見つからなかった。何万人もが「根拠」さえない戦争で犠牲になった。日本政府はいまだ、詳細な検証から背を向けている。

 その後、私はフォトジャーナリストとなり、イラクを取材するようになった。ある時、現地で出会った女性に、はっきりと問われたことがある。「今のイラクの混乱があるのは、イラク戦争があったからでしょう。あの時、アメリカの姿勢を追った日本に責任はないのでしょうか?」。あの時、政権の「劇場」に見入っていた自分自身の姿が脳裏に浮かんだ。

 だからこそ今、次期総理候補の「素顔」を特集し、「親しみやすさ」を伝える番組に、危機感を抱いている。限られた時間の中で報じるべきは、政治家たちが、好きなパンケーキを頬張る様子や、ジョークを飛ばし談笑するところだろうか。「ああいう庶民的な場面も映さないと、余計に人が政治から遠ざかる」という思惑なのだろうか。けれども報じるべき問題を報じず、政治が歪められていけば、人と政治の距離はより開いていくのではないだろうか。少なくとも今、記者会見で「全く問題ない」「批判は当たらない」と、事実上のゼロ回答を繰り返してきた相手を前に、同業者の質問を冷笑している場合ではないはずだ。

2016年9月、ISとの戦争の最前線となっていたイラク北部、クルド自治区の街で
君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―

君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―

安田菜津紀

2016/04/22発売

シリアからの残酷な映像ばかりが注目される中、その陰に隠れて見過ごされている難民たちの日常を現地取材。彼らのささやかな声に耳を澄まし、「置き去りにされた悲しみ」に寄り添いながら、その苦悩と希望を撮り、綴って伝える渾身のルポ。

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*産業革命後に急速な都市化が進むロンドンで、イギリスの詩人ワーズワースが書き遺した言葉。

 

 

「考える人」編集長
松村 正樹

著者プロフィール

安田菜津紀

1987年神奈川県生まれ。NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)所属フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。

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