考える人

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安田菜津紀の写真日記

2017年9月15日 安田菜津紀の写真日記

私は”何人”か、マイノリティーとは何か

著者: 安田菜津紀

チョゴリと少女。2009年、新宿駅にて。

 「だって別に朝鮮学校とか行ってないんでしょ?」真顔で問うその人の目を、私はもう一度見つめ返した。何ら悪意のある言葉ではない。私の心も傷ついてはいない。ただ一抹の違和感だけが心に残った。勿論、韓国語を話すこともできず、“それらしい教育”も受けた記憶は一切ない。ただ、「だからあなたは日本人だよ」というその言葉が、父の抱えてきたものを消し去ってしまう気がするのだ。
 日本人の母、在日韓国人にルーツを持つ父の元に生まれ、幾度か自分に問うてきた。自分は何人なのか、どこに軸足があるのだろうか。そんな折に、やはり在日韓国人としてのアイデンティティーを持つ女性からこんな言葉をかけられたことがある。「マイノリティーとして生きる覚悟はあるの? 例えばあなたがどんなに優秀な成績をおさめたとしても、“さすが在日の子!”“母子家庭の子はやっぱりできるね!”とはいわれない。ところがあなたがもし悪いことをすれば“やっぱり在日の子は、母子家庭の子は”といわれてしまう。だからとりわけ身の振り方に気を付ける」。それがマイノリティーとして生きるということなのよ、と。
 半分は納得しつつ、どうにも腑に落ちなかった。社会の中での振る舞いに気を遣うことは悪いことではない。けれどもそれが少数者であるから、という理由であるならば、何も考えず受け流すことはできなかった。
 学生生活も終わりに近づいたあるとき、ふらりと立ち寄ってみた小さな飲み屋さんで、マスターと息が合い、話し込んだ。彼もやはり在日のルーツを持ち、けれども韓国に行ったこともなければ言葉も分からないのだという。「でもさ、俺、在日であることめっちゃ誇りに思ってるんだよね」。ひょうひょうと語るマスターの言葉に、何だか拍子抜けしてしまった。本来は絶対的ではないはずの境界線にとらわれ、勝手にその線引きから外れたような自分を揺らがせていただけ。もっと曖昧でいいし、もっと自由でいい。家族に素直に感謝できるようになったのは、そう気づいてからだった。

駅の風鈴。同じように見えて、少しずつ違う音色。
君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―

君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―

安田菜津紀

2016/04/22発売

シリアからの残酷な映像ばかりが注目される中、その陰に隠れて見過ごされている難民たちの日常を現地取材。彼らのささやかな声に耳を澄まし、「置き去りにされた悲しみ」に寄り添いながら、その苦悩と希望を撮り、綴って伝える渾身のルポ。

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考える人とはとは

何かについて考え、それが「わかる」とはどういうことでしょうか。

「わかる」のが当然だった時代は終わり、平成も終わり、現在は「わからない」が当然な時代です。わからないことを前提として、自分なりの考え方を模索するしかありません。

わかるとは、いわば自分の外側にあるものを、自分の尺度に照らして新しく再構成していくこと。

“Plain living, high thinking”(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)*を編集理念に、Webメディア「考える人」は、わかりたい読者に向けて、知の楽しみにあふれたコンテンツをお届けします。

*産業革命後に急速な都市化が進むロンドンで、イギリスの詩人ワーズワースが書き遺した言葉。

 

 

「考える人」編集長
松村 正樹

著者プロフィール

安田菜津紀

1987年神奈川県生まれ。Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル)所属フォトジャーナリスト。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。

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