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フツーの路地歩きはもう飽きた! 2018年おさんぽ進化論

2018年9月26日

フツーの路地歩きはもう飽きた! 2018年おさんぽ進化論

第2回 下を向いて歩く東京の愉しみ方

著者: 宮田珠己 皆川典久 松澤茂信

皆川 東京スリバチ学会の皆川と申します。では、「東京のスペクタクルの愉しみ方」をぜひ自慢したいのですが、「スリバチ地形散歩」って何のことかわかりますか。
 私にとってのスペクタクルは「知られざる町のくぼみ」。東京にはくぼみがいっぱいあるって知っています? 実は今日の会場「la kagu」の周辺にもくぼみがあるのですよ。
 (写真を示しながら)これ、ここ神楽坂からすぐにある若宮八幡近辺ですが、道路がくぼんでいるのわかりますか。

松澤 坂道とは違うのですか。

皆川 くぼみです(笑)。近づくと、ほら、こんなに。

松澤 あ、本当だ、くぼんでますね。

皆川 これが町のくぼみです。単純な坂道ではなくて、一回おりてまた上る。ここの住所が袋町ふくろまちと言うのです。

松澤 まさに袋みたいな形。

皆川 この「袋町」は、多分くぼみに囲まれた袋状の土地のことなんですね。ここに昔、何があったかわかりますか。

宮田 池ですか。

皆川 いえ、池に囲まれた場所に何があったか、です。

松澤 墓?

皆川 いえ、ヒントですが、池があると、侵攻しにくいじゃないですか。

宮田 お城?

皆川 そう。神楽坂にあったのです。

宮田 えっ、神楽坂はお城だったんですか。

皆川 その話をしますね。町のくぼみに着目するということで、カシミール3Dという地図を出すと、今ここなんです。今は台地の上なんですよ。大久保通りが一つのくぼみなんですね。

 緑色のところが台地です。青いところが低地で、標高で言うと10m未満のところ。緑色のところは、標高20mから30mぐらいですね。赤く囲んだところが、くぼんでいます。この三つのくぼみに囲まれた真ん中のところが、実は牛込城というお城だったのですね。
 牛込城は中世の城で、北条方についていたので、家康が天下をとったときに北条が滅びたのとともに廃城になります。牛込氏というのは、群馬県の大胡おおごというところからやってきた武将なんです。

宮田 牛込って人の名前なんですか。

皆川 いや、牛込に住んだ人が、牛込と名乗ったわけです。大胡は、実は赤城山の麓にあるんですよ。だから神楽坂に赤城神社が祀られています。

松澤 ああ、そういうことなんですか。

皆川 自分の田舎から信仰していた神社を呼んできたのでしょうね。牛込という地名も、くぼみに囲まれた台地で牛を放牧していたということが由来らしいですね。そこからこの場所は牛込と呼ばれ、群馬からやってきた大胡氏という武将が、牛込と名乗ったと言われています。
 そのように、先ほどお見せしたこの微妙なくぼみにも意味がある。実は、東京はこういうところだらけなんです。私から言わせると、「真実は谷間に沿っている」(笑)。

宮田 ちょっと怪しいかな(笑)。

皆川 さて、次はでこぼこ地形に着目しましょう。これは東京の武蔵野台地です。都心は、こんなにでこぼこしています。宮田さんは調布に住んだのが間違いですね(笑)。

 左側が武蔵野台地で、右側が下町。だいたい10mから20mぐらいの段差で、山の手と川の手が隔てられています。台地にこんなに小さな谷があるのは、もともと川が流れていたから。川は、目黒川であったり、神田川であったり、渋谷川であったり。それぞれの川が上流に行くに従って、鹿の角のように枝分かれしています。この川の先端部分が、実は三方向囲まれたスリバチ状のくぼ地になっているのです。古くはここから水が湧き出ていた。武蔵野台地にはあちこちに湧水スポットがあった。ちょっとすごいと思いませんか。都心でこんなに湧水があったのですよ。

 武蔵野台地の東の端が皇居ですが、武蔵野三大湧水池と言われている井の頭池、善福寺池、三宝寺池――三宝寺池というのは石神井公園のあるところですね。こんなふうに、都心には実は地形的な見どころが多い。

 これはでこぼこ地図ですけれども、今いるのはこの赤丸のところですよ。地形だけで見るとこんな感じですね。地名で思い出してください。市ヶ、四、千駄ヶ、実は谷のつく地名がたくさんあります。溜池はため池だった。外堀のため池ですよね。それから大久保という地名が左上に出ましたけれども、これは大きなくぼ地をあらわしていますね。

松澤 ああ、その「くぼ」なんですか。

皆川 そうなんですよ。青い部分は、もともと家康が入る前は水田が広がっていたところですから、田んぼだったんですね。だから、地名で言いますと田がつきますね。神、千代、桜、早稲、郊外の羽とか蒲とかみんなそうですね。五反も、そうですね。こういうふうに、実は地名の中にも地形があらわれている。
 武蔵野台地は、ほとんど平らです。この平らなところにたくさん谷間が刻まれているのが東京の特徴。
 多摩丘陵は山ですが、武蔵野台地は谷だらけ。山がないので谷間に着目すると、東京は見えてくるものがある。みなさんは山に着目するじゃないですか。たしかに山の方が、山ガールも流行っていますし、華やかで楽しそうなんですよね。

宮田 やっかんでるんだ。

皆川 僕らは谷おやじなんです(笑)。

松澤 ああ、えらい差がありますね。

皆川 服装も活動も地味なんです。

宮田 私、山ガールのほうに行っていいですか(笑)。

皆川 いやいやいやいや、一緒に地味なほうに行きましょうよ。とはいえ、まさに谷こそ東京のスペクタクルです。

宮田 皆川さんは、山には関心ないのですか。

皆川 私は群馬出身なので、きれいな山は見てきました。だからもう山はいいんですよ、飽きました。それに山に行くと、熊とか蛇とかいるじゃないですか。

松澤 危ないですもんね。

宮田 そうなのかな。僕は山好きですけどね。

皆川 そうですか。東京の谷には熊はいないです。たまに蛇はいますけれどもね。

宮田 下を見るということですね。

皆川 タモリさんが「上を向くな、下を見ろ」と言っていますね。「ブラタモリ」で言っていました。スリバチ学会の標語は「下を向いて歩こう」(笑)。

宮田 なんだか後ろ向きだなあ。

皆川 時代的にも、上昇志向ではなくて下降志向で行こうと。

松澤 やはりこれからは「谷」だという気がしてきました。

皆川 そうでしょう。

宮田 そうなの? 洗脳されてない?

皆川 いやいや、宮田さん、洗脳されてくださいよ。きょうはそのために来たんですから。

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わかるとは、いわば自分の外側にあるものを、自分の尺度に照らして新しく再構成していくこと。

“Plain living, high thinking”(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)*を編集理念に、Webメディア「考える人」は、わかりたい読者に向けて、知の楽しみにあふれたコンテンツをお届けします。

*産業革命後に急速な都市化が進むロンドンで、イギリスの詩人ワーズワースが書き遺した言葉。

 

 

「考える人」編集長
松村 正樹

著者プロフィール

宮田珠己
宮田珠己

みやたたまき 1964年兵庫県生まれ。『旅の理不尽 アジア悶絶篇』『わたしの旅に何をする。』『ジェットコースターにもほどがある』『なみのひとなみのいとなみ』『だいたい四国八十八ヶ所』『日本全国津々うりゃうりゃ 仕事逃亡編』『日本ザンテイ世界遺産に行ってみた。』など著書多数。

連載一覧

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著者の本

皆川典久

みながわ・のりひさ 1963年群馬県生まれ。東京スリバチ学会会長。2003年にGPS地上絵師の石川初氏と「東京スリバチ学会」を設立し、都内の谷地形に着目したフィールドワークと記録を続ける。2012年『凹凸を楽しむ 東京「スリバチ」地形散歩』、2013年に続巻を刊行。微地形に着目したまち歩き・魅力再発見の手法が評価され、2014年度グッドデザイン賞受賞。「タモリ倶楽部」をはじめテレビ、ラジオへの出演、各紙誌への寄稿多数。専門は建築設計・インテリア設計。

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松澤茂信

まつざわ・しげのぶ 1982年東京都生まれ。2011年より日本中に点在する珍スポット、珍イベントをご紹介するサイト『東京別視点ガイド』を運営。「このブログがすごい!2012」「ライブドアブログ奨学金」を受賞し、現在の月間PVは約70万。「珍スポバスツアー」などリアルに現地をガイドするイベントも不定期で開催している。15年2月には同サイトをベースに新たな珍スポを取材・撮影した本『死ぬまでに東京でやりたい50のこと』を刊行した。

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