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みうらじゅん&リリー・フランキー『どうやらオレたち、いずれ死ぬっつーじゃないですか』試し読み

2021年4月26日

みうらじゅん&リリー・フランキー『どうやらオレたち、いずれ死ぬっつーじゃないですか』試し読み

そろそろ“人生”を語ろうか――。

第1回 不安とは?

著者: みうらじゅん , リリー・フランキー

みうら「……あのさ、最近、気づいたんだけど、どうやら人間っていつか死ぬってね」
リリー「どうやらね、死ぬっつーじゃないですか」
みうら「うん、どうやら死ぬっつーね」
 2010年春。唐突に始まったふたりの会話。それまでもグラビアなどをめぐって対話を続けてきたふたりだが、この日は深夜まで、人生にまつわるさまざまなことを、とめどなく語り合った。
 その対話は、2011年11月に単行本『どうやらオレたち、いずれ死ぬっつーじゃないですか』として刊行。約10年の時を経て、文庫化(2021年4月26日発売)となったのを記念して、対話の一部を3週連続で公開いたします。第1回は、「不安」について――。

構成・注釈:北井亮(ミドルマン)

「不安とは?」
みうら 本当に不安なときは逆に不安を感じないようにできてる
リリー 人生を逆算すれば、「不安」よりも「すべきこと」が見えてくるはず

みうらじゅん×リリー・フランキー『どうやらオレたち、いずれ死ぬっつーじゃないですか

2021/05/21

公式HPはこちら

みうら(以下、M):人間にとっての不安は加齢と病気かなあ。

リリー(以下、L):あとは死ですよね。一番の不安は、死ねないのに金がなくて、ずーっと病気って状態。

Mそもそも、安定というものがあると思い込んでいるから不安なんだよね。ジョン・レノンの「イマジン」(※1)みたく思い込まなきゃ。ない、ない、安定も不安もないってね。奥さんなり夫なりが、「いいじゃん、大丈夫だよ。どうにかなるんじゃない」って言ってしまえば、不安にならないんだけどね。

L:今は不安を逆手にとって商売にしてる人が、いっぱいいますからねえ。

M:地獄に堕とされる人たちね(笑)。

L:不安を減らしたいなら、少しでも金があるうちに、他人によくすることじゃないですかね。「あいつには、あのとき世話になったから」って。それは自分が死んでも、自分の子供なり家族に、「あなたのお父さんに世話になったから」って引き継がれますし。『パルプ・フィクション』でも主人公の父親が捕虜収容所でケツの穴に隠して守った大切な時計を、その父親が収容所で死んだあと戦友であるクリストファー・ウォーケンが届けに来てくれましたしね(笑)。

M:それはあるよね。未来の話をどんなに頭を使って考えても、全部は当たってないんだって学校で教わってないから、ついつい悩んじゃうんだよね。予想できることで、一つだけ当たっているのは、「いずれ死ぬ」っていうことだけだからね。とりあえず、それだけを不安に思っておけばいいですよ。しなくていい予想で不安になることが一番のムダだから、一生懸命考えないことにしないと。脳は昔から心配性だから、それに付き合ってるとロクな目にあわないよね。

L:大竹伸朗さん(※2)も、「先のこと考えるなんてバカバカしい。だって、今まで想像どおりの未来なんて一度もないんだから」と仰ってましたね。子供のころ、将来の不安なんて、何も考えてないじゃないですか。自分がバカだろうが何であろうが…。それって、たぶんまだ何も始まってないからだと思うんですよ。例えば学力で分かれていったり、就職した会社で分かれていったり、能力で違っていったりとかしたときに生存競争のようなものが始まった気になるじゃないですか。そうなってくると、周りと同じことをしないと、道を踏み外してみんなより不幸せになるような気がしちゃうんですよね。

M:あとは不安の話をすると、ものすごく真剣にものごとを考えているように錯覚しがちなんだよね。

L:「将来のことを考えて、今、これをしておくべきだ」って言うヤツって、女の人からすれば、将来性があると思うのかもしれないけど、その通りにはならねーよって。そのとおりになるかどうかもわからないのに、よほど自分に自信がないんだなって思うだけなんですよね。それって、男のロマンからすれば、一番夢がないんですよ、先のことを予測するなんて。ロマンと計画は違う。

M:だいたい本当に不安なときって、逆に不安を感じないようにできてると思うよ。そういう意味では、安定って不安を感じるための装置みたいなものなんじゃない?

L:金を持ってる人のほうが、絶対に金の心配してますしね。だって、オレがサラ金地獄だったとき(※3)って、これ以上入る予定もなければ、なくなる予定もないから、安定してたんですよ(笑)。しかも、死にはしないことは知ってる。やっぱりシェークスピアが言ってるように、結局、「金持ちは金がなくなることを心配しているうちは、冬枯れの人生だ」ってことですよね。金を持ったと自覚したときの不安というのは、現状維持をしようとか…。そうなってくると攻めがないぶん、余計に不安になりますよね。

M:守りって、これまた怖い状態なんだよね。

L:野球でも守備の時間は、自分たちは1点も取れませんからね。当たり前だけど守っている時間が長ければ長いほど、点を取られる可能性が高くなるわけじゃないですか。

M:野球のたとえは、しっくりくるね(笑)。
 そもそも、オレらみたいな自由業って不安業っていうことだからね。〝不安タスティック(※4)〟な商売だから、不安を原動力にしてるとこあるしね。「こんなときに、なにチンポの話を書いてるんだよ。それどころじゃねえだろ」っていう、〝後ろメタファー(※5)〟こそがこの商売の面白いところでね。

L:でも、人が実際に不安だと思ってることって、漠然としてますよね。なんか柳の下の幽霊に怯えてるっていうか…。不況で5年、10年先のことが読めないから不安とか言うけど、心配しなくても、来年死んでるかもしれないから(笑)。
 将来は良くなってるか悪くなってるかわからないけど、今、想像しているようにはならないですよ。だって、オレにしてもみうらさんにしても、40年前に想像してた現在の自分像って、周りの状況も含めて、もうちょっとちゃんとしてると思ってたしね。まさかポコチンの話を毎月してお金をもらってるなんて、そんな宇宙人みたいな仕事があるわけないと思うじゃん(笑)。しかも世の中の人にバカにされながら生きているって、そんなこと想像できるわけない(笑)。もっと、まともな大人になってると思ってた。

M:なにせオレたちは、世間のみなさんの「暇つぶしのお手伝い」をさせていただいてるつもりですから。だから、いつも「頭を垂れる稲穂かな」じゃないと(笑)。脳が進化して一番失敗したのは、ついつい先のことを考えてしまいがちになったってことだね。

L:『バック・トゥ・ザ・フューチャー』だったかな? 未来から来た主人公が「オレは未来から来たんだ」ということを誰かと話したときに、「じゃあ、お前のいた未来の大統領は誰なんだ」って。その未来ではレーガン大統領なんですけど、レーガンってもともとはアメリカの三流俳優じゃないですか。それで主人公が「ロナルド・レーガンだ」って言ったときに、「絶対、嘘だ」って言われる(笑)。でもそんなことが起きるじゃないですか。だって50年前の人に、西川きよしが政治家になってるとか、横山ノックが政治家になってるとか言っても「アホか」で終わりでしょ(笑)。そういう冗談みたいなことしか起きないじゃないですか。まあヤワラちゃんが政治家になるというのは、みんなが想像したとおりでしたけどね(笑)。

M:何だか、やりそうでしたね、あの方は(笑)。さっきオレらの仕事の話になったけど、ホントに不思議だよね、この仕事。実際に何をやってるかとか、本質的なことはあまり言わないほうがいいよね。だって、「あいつら、なんでこんなことでお金もらってんだ」って、気づかれちゃおしまいだし(笑)。

L:編集者が冷静になっちゃうと、「あれ? あいつらに金やらなくてよくね?」ってなりかねない(笑)。

M:暇つぶしって、みんなタダだと思ってるからさ(笑)。

L:「10年後の自分を考えろ」と書いてるビジネス書とか自己啓発書なんかは、「こうだったらいいな、ということを想像しろ」っていうことでいいと思うんです。だって実際にイメージしてないとそこには行けないし。
 だけど例えば、何年後かに車を買って、家を建てるって物質的な目標を立てて、そのとおりになったとしても、気持ち的には大した発展じゃないと思うんです。本当の発展というのは、想像できないように転がっていくことですもん。物質的な目標よりも、もっと理想的なこと。だから、自分の仕事で、世の中を変えられればいいなと思ってたら、いつの間にかバッキンガム宮殿に住んでいた、みたいなことはあるかもしれないし、そのほうが可能性はある気がする。

M:脳が愉快な勘違いをして、意外な結果が出たほうが楽しいよね。
 だから将来どうなってるかって聞かれたときは、とりあえず「死んでるんじゃないかなあ」って答えておいてさ。その途中にはバッキンガム宮殿に住むとかさ。あくまで目的ではなく過程の話かませたり。

L:「死んでないとしたら生きてる」って(笑)。
 たぶんオレもみうらさんも人生を逆算して考えてるから、そこにあるのは不安というよりも、あと何年オレらはちゃんと仕事できるのかということと、じゃあ何をしなければいけないかっていうことになるんじゃないですか。

M:ずっと不安で楽しそうに、ですかね(笑)。

L:やっぱりファンあってのことですしね(笑)。ファンあってということは、結局は不安ですよ。他人まかせですからね。

第2回はこちら

【注釈】

※1.^ ジョン・レノンの「イマジン」/1971年に発表されたジョン・レノンのソロ代表曲。「想像してごらん天国なんて無いんだと」から始まる歌は、人間の争いの原因となる多くの事柄を「ないと想像する」ことで平和を求めようという歌詞で構成されている。そのような反戦的な内容から、湾岸戦争やイラク戦争の際にアメリカでは放送禁止曲になっている。

※2.^ 大竹伸朗さん/日本を代表する現代美術家。みうら、リリーともに敬愛する武蔵野美術大学の先輩でもある。2009年、香川県直島にオープンした銭湯「I♥湯」が大きな話題を呼ぶ。また、スクラップ作りを40年以上続けており、かつてエロスクラップを300巻近く作っていたみうらに対し「量では勝てないから分厚さで勝負だ!」と語ったとされる。なお現在、みうらのエロスクラップは650巻を超えている。

※3.^ オレがサラ金地獄だったとき/『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』(新潮文庫)のなかでも描かれているが、若いころのリリーは、あらゆる消費者金融から借りまくり、本人いわく「貸してくれる業者がなくなるまで借りた」という。

※4.^ 不安タスティック/みうらの造語。「不安+ファンタスティック」からきた言葉で、無理やり訳せば「素晴らしき不安」といったところか。陽気なネーミングにすることで少しでも不安を和らげようという、みうら流の思考法ならではの用語。

※5.^ 後ろメタファー/こちらも、みうらの造語。「後ろめたさ+メタファー((いん)())」からきた言葉。「どんなことでもやり続ければモノになる」が信条のみうら流の思考法に基づけば、普通の人が「後ろめたさ」ゆえにやめてしまいがちなことほど、ひたすら続ければ、いつかモノになることがある(かもしれない)という考え方。

みうらじゅん

1958(昭和33)年京都府生れ。イラストレーターなど。武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー。1997(平成9)年「マイブーム」で新語・流行語大賞、2004年度日本映画批評家大賞功労賞を受賞。著書に『アイデン&ティティ』『青春ノイローゼ』『色即ぜねれいしょん』『アウトドア般若心経』『十五歳』『マイ仏教』『セックス・ドリンク・ロックンロール!』『キャラ立ち民俗学』など多数。共著に『見仏記』シリーズ、『D.T.』などがある。

リリー・フランキー

1963(昭和38)年福岡県生れ。武蔵野美術大学卒業。イラストレーター、文筆家、絵本作家、フォトグラファー、俳優、作詞・件曲家など、ジャンルを問わず幅広く活動。『東京タワー―オカンとボクと、時々、オトン―』は著者初めての長篇で、2006(平成18)年本屋大賞を受賞。その他の作品に『女子の生きざま』『美女と野球』『日本のみなさんさようなら』『マムシのan・an』『増量・誰も知らない名言集』『リリー・フランキーの人生相談』などがある。

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 はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
どうして自分が「考える人」なんだろう―。
手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか―手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

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