元日に出会ったときより少し顔色もよくなり、これから再び故郷へと向かうという兄妹たち。


 イラク北部、クルド人自治区。太陽の光が優しく降り注ぐ日でも、通り抜けていく風はぴりりと冷たい。難民キャンプのゲートの前に、古びた車が一台乗り捨てられていた。車体の上に掲げられた白旗はいかにもくたびれていた。これを掲げて命からがら、誰かがここまで逃れてきたのだ。

 ふと、見覚えのある少女が一人駆け寄ってきた。見れば元旦の日に訪れた病院で出会った三人兄妹の末っ子だった。後ろに目をやるとお母さん、兄姉たちもこちらに気づき、大きく手を振った。

 「お陰様で無事に退院しました。ただ兄のアリの傷は深くて、これから通院が続くんです」。彼らの故郷モスルの病院はいまだISに支配されたまま、もしくは解放された地区の病院も機能を失っている。直線距離でも80キロ近い道のりを、傷ついた人々がまた往復しなければならないのだ。

 たとえそこに、目に見える戦火がなかったとしても、決して“平和”とは呼べない存在を無数に作り出してしまう。それが戦争なのだと改めて痛感した年末、年始の滞在。傷つき続けるのは、誰なのか。その視点に常に立ち返りながら、取材を続けたいと思う。

キャンプのゲート前。この車に飛び乗り、必死にここまで逃げてきた、その道のりを思う。