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安田菜津紀の写真日記

2020年5月15日 安田菜津紀の写真日記

「なぜ政治に発言をするのか」という政治的発言

著者: 安田菜津紀

夕刻の東京

#検察庁法改正に抗議します というハッシュタグとともに、多くの声がSNS上であがっている。黒川弘務東京高検検事長の不可解な定年延長、議事録さえ残されていない法解釈変更、そのつじつまを合わせるかのように提出された今回の法案と、新型コロナウイルス対策に追われている中での拙速な審議、この積み重ねが、怒りのうねりとなったのだろう。

これまであまり政治に対する意見を表明してこなかったような著名人の方々も、 次々と自分の意思を示し、「おかしい」と声をあげた。けれども彼ら、彼女たちに対し、「何も分かってないくせに」「芸能人には関係ない話」と、嘲笑が目的化しているような声も目立った。それは、スウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリさんに対して、寄ってたかって誹謗中傷したり、高みから揶揄するような言葉を投げつけたりする大人たちの姿と重なる。確かに、問題を紐解いていく「冷静」さは必要かもしれない。ただ、単なる「冷笑」で社会がよくなるわけではない。

私もいまだに、「写真家がなぜ政治に発言するんだ?」と時折聞かれることがある。そして今、似たような言葉が溢れている。「歌手がなぜ」「俳優がなぜ」と。そもそも、政治的発言をタブー視すること自体が、とても“政治性”を帯びた行為だということに気づきたい。「発言するな」ということも、ひとつの政治的なスタンスだからだ。そしてこうした声はたいてい、政権に批判的な声をあげたときにあがる。この「歌手が」「俳優が」政治を語るな、という言葉がエスカレートしていくと、「政治家でもない人間が政治を語るな」に行きついてしまうはずだ。

こうしたバッシングの嵐が起きるからこそ、「政治に発言すると“色がつく”」、と避けがちな風潮は根強い。しかし、その沈黙が重なると、気づけば「茶色の朝」を迎えることになってしまう。フランク・パヴロフ作の寓話『茶色の朝』は、大きな力に抗うことをせず、気づけば「茶色」しか許されなくなってしまった社会の姿が描かれている。私たちが明日も「色とりどりの朝」を迎えるためには、その(いろどり)を与えてくれる多様な声が必要なのだ。

カンボジア首都プノンペン、穏やかな朝
君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―

君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―

安田菜津紀

2016/04/22発売

シリアからの残酷な映像ばかりが注目される中、その陰に隠れて見過ごされている難民たちの日常を現地取材。彼らのささやかな声に耳を澄まし、「置き去りにされた悲しみ」に寄り添いながら、その苦悩と希望を撮り、綴って伝える渾身のルポ。

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松村 正樹

著者プロフィール

安田菜津紀

1987年神奈川県生まれ。NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)所属フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。

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