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安田菜津紀の写真日記

2020年4月15日 安田菜津紀の写真日記

「緊急時なのだから批判をするな」に思うこと

著者: 安田菜津紀

買い物までの道のり、いつもより花の姿を探すようになった

 今暮らしているコミュニティは、私にとってとても居心地がいい場所だと思っている。お店とお客さんの距離がとても近い。「今日はまっすぐ帰る」と心に決めていても、なじみのお店でスタッフさんたちの顔が見えたり、常連さんに声をかけられたりすると、「一杯だけなら……」と、ついつい吸い寄せられるように入ってしまう。そして大抵、一杯だけでは終わらない。けれどもそんな時間が、かけがえのない息抜きだった。

 そんな地元に根付く大好きなお店が今、次々と休業している。新型コロナウイルスの影響で、緊急事態宣言が発令されてから、その数はぐっと増えた。もちろん、安心して自粛しているわけではない。テイクアウトメニューを考案したり、ドアを開け放したりと、それぞれ苦しいながら工夫をこらして営業を続けていた。それでも、お客さんが来ないのだ。かといって休業していたところで、公的な支援はあいまいなまま、救いがまだ見えないのが現状だ。

 苦しいのは地元のお店ばかりではない。これまで度々、日本に逃れてきた難民の方々が開いた飲食店を取材させてもらってきた。彼らも軒並み、経営に苦しんでいる。「地獄だ」「どうにもならない」と悲鳴のような声が届く。自分が取材したお店がそんな危機にさらされるのはやはり、もどかしい。命の危険から日本に逃れ、慣れない異国でやっとの思いでお店を持った矢先に、この自粛要請だ。

 このようにそれぞれのお店が苦境に立たされているということは、もう1カ月以上も前から叫ばれていることだった。その声が届いているのか、そもそも聞くつもりがないのか、休業補償に関する話は進展がない。そして手元に届くのが確定しているのは、2枚の布マスクだという。届いて安心できるどころか、「この期に及んでこれだけなのか」と、益々不安に駆られそうだ。

 ネットでは、「緊急時なのだから政府批判するな」という声が散見される。特に日本では日ごろから、「批判の仕方」だけではなく、「批判」そのものがまだ、「場を壊す」「空気を読めていない」とタブー視、嫌悪されがちだ。けれども緊急時こそ批判しなければ、現実の問題と政策がどんどん離れていってしまうのだと思う。もっといえば、平時からしっかり批判しなければ、生活実感とは遠い政府になってしまう。

 緊急時ほど、日ごろから脆弱な立場にいる人たちがさらに追いやられ、人権のあり方を左右する事態が起こりがちだ。けれどもわずかながら、声が届いたと感じられることもある。一斉休校で仕事を休まざるをえない保護者への助成金は、当初風俗業などで働く人たちが対象外とされていた。多くの批判が集まり、厚生労働省は一転、支援対象とすることを表明した。形骸的な首相会見に「まだ質問がある」と声があがり、少しずつ会見の時間が長くなり、4月7日の会見では答えきれなかった質問に対し、書面での回答も約束された。小さくても、前進はできる。だからこそ、その都度、「これはどうなの?」と問いかけていきたい。

またこうして、寄り集まれるように
君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―

君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―

安田菜津紀

2016/04/22発売

シリアからの残酷な映像ばかりが注目される中、その陰に隠れて見過ごされている難民たちの日常を現地取材。彼らのささやかな声に耳を澄まし、「置き去りにされた悲しみ」に寄り添いながら、その苦悩と希望を撮り、綴って伝える渾身のルポ。

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*産業革命後に急速な都市化が進むロンドンで、イギリスの詩人ワーズワースが書き遺した言葉。

 

 

「考える人」編集長
松村 正樹

著者プロフィール

安田菜津紀

1987年神奈川県生まれ。NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)所属フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。

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