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安田菜津紀の写真日記

福島第一原発が立地する、大熊町。熊町小学校の片隅には、木と一体になった梯子。その昔、壊れたうんていを子どもたちが立てかけて遊び、月日を経て木がその梯子を体の一部かのように取り込んでいったそう。

 3月11日、東日本大震災から9年。この日を過ぎるとぱったり、東京のメディアでは東北の被災地のニュースを目にしなくなる。地続きの街と街の間に、まるで見えない亀裂が幾重も存在するかのように。

 先日、ジャーナリストの堀潤さんが公開した映画「わたしは分断を許さない」を、劇場で見させてもらった。その中でとりわけ、忘れられないシーンがある。被災した浪江町、請戸(うけど)小学校に、3月11日の中継をしたメディア関係者が放置していったと思われる傘の束が、ぽつんと壁に立てかけてあったという場面だ。ご遺体が見つかったかもしれない、その場所で。怒りなのか、情けなさなのか、なんとも言えない感情がこみ上げた。一つ言えるのは、お邪魔している取材者の立場でありながら、却って地元に負担をかけていないだろうかと、自分自身にも問わなければならないシーンだったということ。「許さない」という強い言葉を、堀さんが映画のタイトルに使った理由が分かったような気がした。その表現の一つひとつが、「あなたはどうなのか?」と、自分に向けられた問いでもあるのだ。

 先日、福島のメディア関係者の方に言われた言葉が脳裏に浮かんだ。「3月だけ来て、“時が止まったようだ”って言って帰っていくメディアを、俺は絶対に認めない。時は流れているんだ。人が住めなくなった場所も、草が生えて、建物がどんどん崩れていって。3月だけ来る人間には分からない」。“時が止まったよう”という表現を、私も使ってしまったことがある。その言葉を否定しない人もいるだろう。大切なのは、その言葉に傷つく人もいるという自覚なのだと思う。

 知らず知らずのうちに自分が誰かの心に土足で踏み込んでいくかもしれない、そういった自分自身の「加害性」と向き合うことは、決して心地のいいものではないはずだ。「取材なんだから仕方ない」と割り切った方が楽かもしれない。

 けれども見下ろすような立ち位置からは見えないものがあり、聴けない声がある。加害性と向き合うということで初めて、私たちは目の前の相手から「学ぶ」ためのスタートラインに立てるのではないだろうか。

福島県大熊町、雨上がりの梅の花たち
君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―

君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―

安田菜津紀

2016/04/22発売

シリアからの残酷な映像ばかりが注目される中、その陰に隠れて見過ごされている難民たちの日常を現地取材。彼らのささやかな声に耳を澄まし、「置き去りにされた悲しみ」に寄り添いながら、その苦悩と希望を撮り、綴って伝える渾身のルポ。

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*産業革命後に急速な都市化が進むロンドンで、イギリスの詩人ワーズワースが書き遺した言葉。

 

 

「考える人」編集長
松村 正樹

著者プロフィール

安田菜津紀

1987年神奈川県生まれ。NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)所属フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。

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