
3月11日、東日本大震災から9年。この日を過ぎるとぱったり、東京のメディアでは東北の被災地のニュースを目にしなくなる。地続きの街と街の間に、まるで見えない亀裂が幾重も存在するかのように。
先日、ジャーナリストの堀潤さんが公開した映画「わたしは分断を許さない」を、劇場で見させてもらった。その中でとりわけ、忘れられないシーンがある。被災した浪江町、請戸小学校に、3月11日の中継をしたメディア関係者が放置していったと思われる傘の束が、ぽつんと壁に立てかけてあったという場面だ。ご遺体が見つかったかもしれない、その場所で。怒りなのか、情けなさなのか、なんとも言えない感情がこみ上げた。一つ言えるのは、お邪魔している取材者の立場でありながら、却って地元に負担をかけていないだろうかと、自分自身にも問わなければならないシーンだったということ。「許さない」という強い言葉を、堀さんが映画のタイトルに使った理由が分かったような気がした。その表現の一つひとつが、「あなたはどうなのか?」と、自分に向けられた問いでもあるのだ。
先日、福島のメディア関係者の方に言われた言葉が脳裏に浮かんだ。「3月だけ来て、“時が止まったようだ”って言って帰っていくメディアを、俺は絶対に認めない。時は流れているんだ。人が住めなくなった場所も、草が生えて、建物がどんどん崩れていって。3月だけ来る人間には分からない」。“時が止まったよう”という表現を、私も使ってしまったことがある。その言葉を否定しない人もいるだろう。大切なのは、その言葉に傷つく人もいるという自覚なのだと思う。
知らず知らずのうちに自分が誰かの心に土足で踏み込んでいくかもしれない、そういった自分自身の「加害性」と向き合うことは、決して心地のいいものではないはずだ。「取材なんだから仕方ない」と割り切った方が楽かもしれない。
けれども見下ろすような立ち位置からは見えないものがあり、聴けない声がある。加害性と向き合うということで初めて、私たちは目の前の相手から「学ぶ」ためのスタートラインに立てるのではないだろうか。

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安田菜津紀
1987年神奈川県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。
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とは
はじめまして。2026年7月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、松本太郎と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただき、ありがとうございます。
2002年7月4日、季刊誌「考える人」が創刊されました。
目次には当代随一の執筆陣がずらりと並び、B5判240ページの誌面の隅々から知の香りが立ちのぼってくるかのようでした。
当時、入社3か月の営業部員だった私は、見上げるような思いで手に取り、発売日には編集長の松家仁之さんと創刊のご挨拶のために書店にうかがいました。
まだ書店訪問にも慣れておらず、編集長ともほぼ初対面の中、次のお店の約束の時間に間に合うだろうかと時計ばかりが気になって、終始、そわそわしていました。そんな私に松家さんがやわらかな笑顔で接してくれたこと、そして、新雑誌の門出を祝うようなすっきりと晴れた一日だったことを覚えています。
あれから四半世紀が過ぎ、ウェブマガジンとして衣替えした今でも、創刊時に掲げられた「Plain living, high thinking(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という言葉は古びていません。AIに尋ねれば瞬時に答えが返ってくる時代だからこそ、それらしい言葉に飛びつくのではなく、自分の頭で考え、心の声に耳を澄ませることの大切さは増しているように感じます。
創刊号には、養老孟司さんのロングインタビューが掲載されています。養老さんはその中で、恩師である中井準之助先生の口癖だった「人の心がわかる心を教養という」という言葉を紹介しています。
読んだ瞬間に立ち止まり、さまざまな思いが湧き上がってくるような文章に、楽しみながら出会える場であり続けたいと思っています。
「考える人」編集長
松本太郎
著者プロフィール
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- 安田菜津紀
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1987年神奈川県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。
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