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安田菜津紀の写真日記

2020年2月21日 安田菜津紀の写真日記

今の恐怖にとらわれそうなときほど、過去の声に耳を傾ける

著者: 安田菜津紀

暗闇から少しずつ、光のさす方へ(横須賀・猿島)

 「ま、コロナかしら?」
 スーパーで買い物をしようとレジで会計を待っているとき、軽く咳き込んでしまった私の後ろで、ひそひそと話すそんな声が漏れ聞こえてきた。新型コロナウイルスのニュースが話題になるにつれ、ヨーロッパなどではアジア人に対する露骨な差別が起きていると耳にしていた。けれどもここ日本でも、じわじわと迫る得体のしれない闇を恐れているかのような、不穏な空気が広がっているように思う。
 もちろん「正しく恐れる」ことは大切だ。問題はその「正しく」の基準があいまいなまま、噂やデマに惑わされたり、その混乱が差別と結びついたりしがちだということだ。
 ウイルスの蔓延時だけではなく、自然災害でも同じことが繰り返されてきた。突然、穏やかだったはずの日常が揺さぶられ、明日をどう迎えたらいいのかという恐怖や不安がメディアを通して伝播していくと、必ずといっていいほど「〇〇人が犯罪を広めている」など、不確かな情報が出回る。平時であれば冷静に見分けられるはずのデマも、人々の動揺とそれが結びついてしまったとき、一気に拡散してしまうことがある。
 「たかがデマ」と片付けることはできるだろうか。過去、それが身体的な暴力につながってしまったこともある。関東大震災では、朝鮮半島にルーツを持つ多くの人々の命が「デマ」の蔓延によって奪われていった。
 これまでHIV(通称エイズウイルス)の感染者の方々の取材を続ける中で、「(HIVは)一緒にいるだけでうつる」という誤解から、理不尽に虐げられてきた人々に出会うことも少なくなかった。ウガンダで出会ったある方は、ぽつりとこうつぶやいた。「ウイルスより怖いのは差別や偏見、そして孤立だ」と。日本でもハンセン病に対する誤った認識から、感染した方々だけではなく、家族まで苦しんできたのだ。今のような状況に、私たちはどう冷静であるべきなのか、すでに当事者の方々が数多くの警鐘を鳴らしてきている。
 目の前にある恐怖にとらわれると、どうしても視野が狭まり、不確かな情報に飛びついてしまうことがあるかもしれない。そんなときほど一度、立ち止まる勇気を出してみる。そして過去を振り返り、その声に耳を傾けてみたい。

時々遠くを見て、深呼吸(横須賀・猿島)
君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―

君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―

安田菜津紀

2016/04/22発売

シリアからの残酷な映像ばかりが注目される中、その陰に隠れて見過ごされている難民たちの日常を現地取材。彼らのささやかな声に耳を澄まし、「置き去りにされた悲しみ」に寄り添いながら、その苦悩と希望を撮り、綴って伝える渾身のルポ。

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「わかる」のが当然だった時代は終わり、平成も終わり、現在は「わからない」が当然な時代です。わからないことを前提として、自分なりの考え方を模索するしかありません。

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*産業革命後に急速な都市化が進むロンドンで、イギリスの詩人ワーズワースが書き遺した言葉。

 

 

「考える人」編集長
松村 正樹

著者プロフィール

安田菜津紀

1987年神奈川県生まれ。NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)所属フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。

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