今年は私にとって厳しい一年になるぞと、年始から少しだけ憂鬱だ。
というのも、わが家の双子は春には中学三年生になる。つい先日、ようやく中学生になったと思っていたが、あっという間に受験生だ。早すぎる。ふと気づけば、二人ともずいぶん私よりも背が高くなっているし、精神的にも大きく成長したような気がしている。
親は未来のことばかり考え、子どもの負担になるほど憂え、顔を合わせれば定期テスト、実力テスト、模試、はては一年先の受験について口に出したりしてしまうのだが、中学生は未来ではなく、今を生きているのだと実感する毎日だ。今を生きている子どもに対して、いくら先にやってくるかもしれない社会の厳しさ(という曖昧なもの)を伝えても、まったく意味をなさないとわかっているのに、むしろそんな言葉は彼らを傷つけるだけかもしれないのに、どうしても口をついて出てきてしまう。「そんなことじゃあ将来苦労するよ」なんて言葉が頭に浮かぶたびに、必死になって飲み込むのだ。私自身が子どものころ、何もわかっていない勝手な大人にひっきりなしに投げかけられた乱暴な言葉が、自分の中にまだ残っていたことに驚いてしまう。
あまりうるさく言わないでおこうと毎日考える。考えるというのに、5分後には「でもあの子の将来を一番心配しているのは私で、あの子に何か言ってあげられるのも私しかいないのに」という心の声が聞こえてくる。知り合いのお母さんは、はたから見れば少し厳しすぎる気もするけれど、それでもあの家の子はとてもよくできる。礼儀正しいし、成績もいい。スポーツだって得意だ。どうしたらあんなに上手に子育てができるのだろうと、うらやましいような、少し悔しいような気持ちになる。でも、厳しさってなんですか?
もしかしたら、私が母として実力不足なのでは? と、ふと不安になる日ばかりだ。できる子は何も言わなくてもできる、勉強しろなんて一度も言ったことがない……そんな記述が目に入るたびに、親としての自信を失うのだ。この子の将来を苦難に満ちたものにしてしまうのは、もしかして、迷いに迷っている今の私なのではないか、一貫した態度で接することができない、はっきりと言えない、甘い私なのではないかと考えて、落ち込み、その落ち込みがいつの間にか怒りや焦りとなって子どもにぶつけられるのだ。延々と繰り返される、終わりのないジレンマだ。
私も、このようにさまざまな悩みを抱えながら、毎日息子たちに向き合っている。双子とはいえ、何もかも違う二人に対して、それぞれ、ベストな声かけをしようと苦闘している。何か伝えたいと思うときは、一旦深呼吸して、その言葉の持つ影響力を考える努力をしている。責めない、追いつめない、否定しない。こんな言葉を頭のなかで繰り返す。まるで「ティーンエイジャーの母しぐさ」だ。ポジティブにいこう、明るい未来の話をしようと気持ちを奮い立たせている。
そうやって悩み抜いて言葉をかけても、彼らから戻ってくるのは、静かな「わかっているよ」という言葉だけだ。こちらの気持ちを上手にかわして、もめ事にならないよう努力しているのだ。まるで私を諫めるような静かな声が、棘のように心に突き刺さる。それでも、その優しさがあることが救いだと思う。冷静でいてくれることに安心する。焦ってしまってごめんね、どうしても心配だからと、重い言葉を口にしそうになり、慌てて目をそらす。
「わかっているよ」という静かな声が、彼らにとっては精一杯の声なのかもしれないと考える。「わかっているよ」は、「あと少しだけ待って欲しい」という気持ちの現れなのかもしれない。「わかっているよ」の後ろには、声にならない「心のなかまで踏み込まないで」という訴えが隠れているかもしれない。それを忘れないようにしようと思う。
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村井理子
むらい・りこ 翻訳家。訳書に『ブッシュ妄言録』『ヘンテコピープル USA』『ローラ・ブッシュ自伝』『ゼロからトースターを作ってみた結果』『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』『子どもが生まれても夫を憎まずにすむ方法』『人間をお休みしてヤギになってみた結果』『サカナ・レッスン』『エデュケーション』『家がぐちゃぐちゃでいつも余裕がないあなたでも片づく方法』など。著書に『犬がいるから』『村井さんちの生活』『兄の終い』『全員悪人』『家族』『更年期障害だと思ってたら重病だった話』『本を読んだら散歩に行こう』『いらねえけどありがとう』『義父母の介護』など。『村井さんちのぎゅうぎゅう焼き』で、「ぎゅうぎゅう焼き」ブームを巻き起こす。ファーストレディ研究家でもある。
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とは
はじめまして。2026年7月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、松本太郎と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただき、ありがとうございます。
2002年7月4日、季刊誌「考える人」が創刊されました。
目次には当代随一の執筆陣がずらりと並び、B5判240ページの誌面の隅々から知の香りが立ちのぼってくるかのようでした。
当時、入社3か月の営業部員だった私は、見上げるような思いで手に取り、発売日には編集長の松家仁之さんと創刊のご挨拶のために書店にうかがいました。
まだ書店訪問にも慣れておらず、編集長ともほぼ初対面の中、次のお店の約束の時間に間に合うだろうかと時計ばかりが気になって、終始、そわそわしていました。そんな私に松家さんがやわらかな笑顔で接してくれたこと、そして、新雑誌の門出を祝うようなすっきりと晴れた一日だったことを覚えています。
あれから四半世紀が過ぎ、ウェブマガジンとして衣替えした今でも、創刊時に掲げられた「Plain living, high thinking(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という言葉は古びていません。AIに尋ねれば瞬時に答えが返ってくる時代だからこそ、それらしい言葉に飛びつくのではなく、自分の頭で考え、心の声に耳を澄ませることの大切さは増しているように感じます。
創刊号には、養老孟司さんのロングインタビューが掲載されています。養老さんはその中で、恩師である中井準之助先生の口癖だった「人の心がわかる心を教養という」という言葉を紹介しています。
読んだ瞬間に立ち止まり、さまざまな思いが湧き上がってくるような文章に、楽しみながら出会える場であり続けたいと思っています。
「考える人」編集長
松本太郎
著者プロフィール
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- 村井理子
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むらい・りこ 翻訳家。訳書に『ブッシュ妄言録』『ヘンテコピープル USA』『ローラ・ブッシュ自伝』『ゼロからトースターを作ってみた結果』『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』『子どもが生まれても夫を憎まずにすむ方法』『人間をお休みしてヤギになってみた結果』『サカナ・レッスン』『エデュケーション』『家がぐちゃぐちゃでいつも余裕がないあなたでも片づく方法』など。著書に『犬がいるから』『村井さんちの生活』『兄の終い』『全員悪人』『家族』『更年期障害だと思ってたら重病だった話』『本を読んだら散歩に行こう』『いらねえけどありがとう』『義父母の介護』など。『村井さんちのぎゅうぎゅう焼き』で、「ぎゅうぎゅう焼き」ブームを巻き起こす。ファーストレディ研究家でもある。
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