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河合隼雄物語賞・学芸賞

2020年6月1日、一般財団法人河合隼雄財団の主催(協力:新潮社)による「河合隼雄物語賞」「河合隼雄学芸賞」の第8回選考会が開催され、授賞作が決定しました。

第8回河合隼雄物語賞

(該当作なし)

第8回河合隼雄学芸賞

小川さやか『チョンキンマンションのボスは知っているーアングラ経済の人類学』(2019年7年30日刊行 春秋社) 河合隼雄学芸賞
小川さやか『チョンキンマンションのボスは知っているーアングラ経済の人類学』(2019年7月30日刊行 春秋社)

第8回河合隼雄学芸賞は、小川さやか『チョンキンマンションのボスは知っているーアングラ経済の人類学』(2019年7月30日刊行 春秋社)に決まりました。選考委員のみなさん(岩宮恵子氏、中沢新一氏、山極壽一氏、鷲田清一氏=五十音順)は、「香港社会のニッチに生きるタンザニア人社会に裸一貫で潜入し、そのクールで愛に溢れたネットワークを描き出し、コロナ以後の人々の生き方に示唆を与える」という授賞理由をあげています。

小川さんは受賞の報を受けて、「この度は、大変栄誉ある賞をいただき、本当にありがとうございます。受賞を励みに、これからも調査・研究に邁進したいと思います。まずは、チョンキンマンションのボスと喜びを分かち合いたいという風に考えております」と受賞のことばを述べられました。

著者略歴

小川さやか(おがわ さやか)
1978年愛知県尾張旭市出身。専門は文化人類学、アフリカ研究。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程指導認定退学。博士(地域研究)。日本学術振興会特別研究員、国立民族学博物館研究戦略センター機関研究員、同センター助教、立命館大学大学院先端総合学術研究科准教授を経て、現在、同研究科教授。著書に、『チョンキンマンションのボスは知っている』(春秋社)、『都市を生きぬくための狡知』(世界思想社)、『「その日暮らし」の人類学』(光文社新書)がある。

授賞作には正賞記念品及び副賞として 100 万円が贈られます。 また、受賞者の言葉と選評は、7月7日発売の「新潮」に掲載されます。

河合隼雄物語賞・学芸賞についての詳細は、一般財団法人・河合隼雄財団のHPをご覧ください。

授賞作発表記者会見

 2020年6月1日、一般財団法人河合隼雄財団の主催(協力:新潮社)による「河合隼雄物語賞・学芸賞」の第8回選考会が開催され、授賞作が決定しました。選考会に続いて記者会見が開かれました。まずは河合幹雄財団評議員より開催の挨拶がありました。

河合幹雄・財団評議員。撮影:吉田亮人(以下すべて)

 ただいまから河合隼雄物語賞・学芸賞の発表を始めたいと思います。今年は新型コロナウイルスの問題があり開催も危ぶまれまして、河合隼雄財団としてもできるだけの工夫をしながらなんとか開催したいということで、選考委員もここにおられる他は皆、遠隔でZOOMでご参加いただいて先ほど終了いたしました。会場もホテルのご協力により、例年よりもはるかに広い場所をご用意させていただきました。それでは物語賞のほうから、小川さん、よろしくお願いいたします。

小川洋子選考委員より、物語賞についての言葉をいただきました。

 今年の物語賞は、残念ながら「授賞作なし」ということに決まりました。後藤先生と一緒に議論しまして、どんなに傷がある作品でも魅力的に破綻した作品を選ぼうと努めましたが、今回はこういう結果になりました。

選考委員の小川洋子さん

後藤正治選考委員より、物語賞についての言葉をいただきました。

 小川さんと意見が対立して収拾がつかなくなったわけではまったくございません(笑)。いいのではないかという候補作がいくつかあったのですけれども、授賞するにはなにか物足りなさが残るということで、またこれからの作品に期待しましょうという結論になりました。

選考委員の後藤正治さん

続いて河合幹雄財団評議員より学芸賞の発表がありました。

 第8回河合隼雄学芸賞は小川さやかさん『チョンキンマンションのボスは知っている―アングラ経済の人類学』に決まりました。授賞理由を選考委員のほうから言葉にまとめておりますので、読み上げさせていただきます。「香港社会のニッチに生きるタンザニア人社会に裸一貫で潜入し、そのクールで愛に溢れたネットワークを描き出し、コロナ以後の人々の生き方に示唆を与える」。以上です。

山極壽一選考委員より学芸賞についての選評をいただきました。

 選考委員の一人、山極でございます。この学芸賞の選考委員は厳しい先生が多いんですけれども、今回は珍しく全員一致で決まりました。著者の小川さやかさん、この方は文化人類学者ですが、以前、タンザニアにフィールドワークに行って「マチンガ」と呼ばれる零細商人のなかに入り込んで、その人たちの生き様やネットワークを描いた方です。この本は、その小川さんがタンザニア人がタンザニアではなく香港の社会に出稼ぎに行っていろんな商売をしながら生きている、合法違法を問わずいろんな繋がりのなかで、タンザニア人商人が香港という社会で生きている姿を描いた新作です。これが大変面白いんですね。もちろんタンザニアでも表には見えてこない零細商人たちの社会を描いた腕がありますが、今回は香港といういわば世界のビジネスの中心地にいて中国本土やさまざまな世界に物を売りさばく、そのビジネス社会の重なり、これをニッチと表現しますけれども、隙間に入り込んでいろんな人たちを出し抜いたりしながら、ときには非合法なこともやりながら、たくましく生きていくタンザニア人商人たちを描いている。そこには男女の繋がりや本国との繋がりがあり、非常にしたたかである意味いい加減な人たちにも見えますが、互いに頼りあわないけれども愛がある、支え合うようなネットワークを持っている、その生き方は我々日本人が持っている文化からは大変不思議に見えるわけですね。それでいて力強く活気に満ちていて愛に溢れているように見える。これは我々が経験していない繋がり、ネットワークだなと思いました。いま新型コロナウイルスの影響下にあって大変縮こまってしまっている世の中ですけれども、そのなかでこういう人々の繋がり、ネットワークの在り方もあるんだということを改めて示してくれて、私たちの未来に様々な示唆を与えてくれる作品だと思いました。

 小川さん自身が香港のタンザニア人社会に、授賞理由に裸一貫と書きましたが大変危険も冒しながらまさに相手の懐に飛び込んでいくという風なやり方で、人類学者としてはインフォーマントを使って聞き書きをするという手もあると思いますが、自分の身で様々な現場を体験して彼らの側から物事を眺めるという、非常に鮮やかな手法でタンザニア人商人社会の姿を描きました。ですから非常にビビッドにその社会の姿が伝わってきます。その腕前については4人の評者が皆一様に見事であると感心したところであります。先ほども言いましたように、いま日本をはじめとして様々な国が縮こまっているという状況で、新たな光をもたらしてくれるような人々のネットワークの在り方、お互い信頼しあうということに重きを置かず、小川さんは「ついで」という表現をしていますが、遊びの気分で相互に依存しあうのではなくて、どこかで繋がっているという意識を持ちながら、絶対的な場面になれば支え合うという力を作ることができる、そういった社会観、しかも離れていながらもその関係が切れそうで切れないというのが、面白い社会の在り方を示してくれたと思っております。そういう意味で我々珍しく全員一致でこの賞の授賞を決定させていただきました。以上でございます。

選考委員の山極壽一さん

著者の小川さやかさんご本人よりZOOMから遠隔で受賞の言葉をいただきました。

 このたびは大変栄誉ある賞をいただき、誠にありがとうございます。受賞を励みにしてこれからも調査研究に邁進したいと思います。まずはチョンキンマンションのボスと喜びを分かち合いたいなという風に考えています。簡単ですが受賞の言葉としたいと思います。

受賞者の小川さやかさんはパソコンの画面越しに喜びの言葉を語った

 この後、山極先生より「もうひとつ付け加えていうと、この作品は河合隼雄先生の賞として大変ぴったりくるなと思いました。つまりタンザニア人商人たちが騙し騙される姿、そして河合先生はそういう意味ではウソツキクラブの会長でもありましたから、先生が読まれたらたぶんすごく喜ばれると思います」という一言があり、小川さんが「私、大好きです。よく読んでいました。すごく嬉しいです。ありがとうございます」と答えると河合俊雄代表理事から「(河合隼雄先生なら)俺がボスだっていうんじゃないの?」とコメントがあり、会場は笑いに包まれました。

続いて質疑応答に移りました。まずは物語賞から。

Q.これまで授賞作なしということはあったのでしょうか。
A.(河合幹雄財団評議員)ございません。物語賞・学芸賞両方を通じて初めてです。

Q.これまで候補作をオープンにしたことはなかったと思いますが、今回何作あったか教えていただけますか。
A.(小川選考委員)4作です。
A.(河合幹雄財団評議員)さすがに候補作までないということはありません。

Q.いずれも選ぼうとしたけれど物足りなさがあったとおっしゃいましたけれども、かなりきわどいところでこの作品を授賞作としてもいいのではないか、というぐらいの議論まではされたのでしょうか。
A.(小川選考委員)最後の最後までこの作品を授賞作にするべきか見送るかという議論に残った1作はございました。

Q.今回、最後まで1作が授賞に値するかどうか議論になったということですが、お二人の先生の今回の河合隼雄物語賞はどういう作品に与えられるべきかという賞のイメージと、その基準にはどういったところで至らなかったのか、少しお話を伺えますでしょうか。
A.(小川選考委員)そうですね、きょう、河合成雄先生のほうから物語賞という名前を決めるときに「魂賞」という案もあったと伺ったのですが、魂の奥深いところまで響いてくる声を持った作品、そういうものをいままでも選んできたわけです。それで今回は、小説としてはとてもきっちり明確にまとまっているけれども、そちらにあまりにもウエイトをかけすぎてしまったために、主人公の思いが読み手の魂と共鳴しあうところまでいかなかったかな、という気がしました。
A.(後藤選考委員)小川さんのおっしゃったとおりですが、小説として上質といいましょうか、オーソドックスな作りの悪くない小説がありましたが、やや躍動性といいますか、そういう点に欠けるところがあって、読んでいてちょっと退屈してしまう。ワクワクする、面白い物語としては少々不足している。悪くないけれども、うーん、授賞までには…ということで、迷いがあるのならば避けた方がいいんじゃないか、ということで見送らせていただきました。

Q.今回、物語賞が初めて授賞作なしということに驚きました。繰り返しになりますけれども、最後まで残った1作が賞にあがらなかった理由というのを教えていただければと思います。
A.(小川選考委員)選考会の状況から説明しますと、一人が×でも一人が◎だったら授賞になると思いますが、二人とも△にとどまっていた状態でしたので決断できなかった、ということがあると思います。部分的にはとても魅力的だけれども、それを繋ぐものが作者の意図を超えた物語ではなくて、作者が調べた知識であったということが、いま一歩だったのかなと感じました。

続いて学芸賞の質疑応答へと移りました。

Q.授賞理由として河合隼雄学芸賞としての視点では、どういうところで評価されたのでしょうか。
A.(山極選考委員)小川さんのすごいところはタンザニア商人の心の中まで入り込んで、彼らがどういう気持ちで一見嘘と思えるような、騙しあいをしたり、でもその裏で繋がりあっているような、そういうネットワークを描けたということですね。河合先生は心理学者として、人の心の中に深く入り込んで箱庭療法というような方法を駆使して、人の心の様々な局面を洗い出すということをやってこられました。そこにたぶん大きく触れる内容ではないかなと思いました。これは私の個人的な意見です。

Q.コロナの話が出ましたけれども、選考の中で近年のこの状況になんらかの示唆を与えるものを選ぼうということは選考会の指針としてあったのでしょうか。
A.(山極選考委員)いや、そういうことは始めは全然意識していませんでした。ただ4人で話し合う中で、コロナ後ということがふと出てきたんですね。それはいま、我々がこれまで過度に依存し合い過ぎていた社会がソーシャルディスタンスをとらなければならなくなって、あるいは親しい人にも近づけなくなって、これまでのような暮らしができなくなった。それに閉塞感を覚えているわけだけれども、それを軽々と笑い飛ばしてしまうような人の繋がりを持っている社会もあるんだということですよね。これがひとつの大きな光になるんじゃないかと思えてくるんですね。これは突然出てきた話です。

Q.タンザニア人社会をテーマに選ばれている理由と、身の危険を冒してまでタンザニア人社会を探られる魅力というのは、どういうところに感じていらっしゃるか教えていただけますか?
A.(著者小川さやかさん)はい。ご期待に沿えない返答かもしれませんが、どうしてもタンザニアで研究したかったというよりは、京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科に進学した際に指導教員がタンザニアの農村の社会経済学が専門であったという偶然的な理由でタンザニアを選びました。また、身の危険を冒して調査をしているという感覚も私自身にはなく、どちらかというと流されやすい人間だと自覚しており、その時々の出会いや状況に応じて人々の関係性に巻き込まれていくことに快感を覚えがちであるという感じです。みずから積極的に乗り込んでいくというよりは、物事の諸々の縁みたいなもの、偶然の積み重ねにうまく波乗りしていくことを重視してフィールドワークをしているのかもしれません。
 ただ、私が調査をしているタンザニアの人たちは魅力的だと思っています。私自身の人間観とも重なる面があり、ドライでもウェットでもない丁度良い距離感で社会を築いており、いい加減であること、いい加減にしかできないことを達観しているような、そんな側面があります。人は腹が減ったら逃げるかもしれないし、嘘を吐くかもしれないけれども、その善悪を問題にする以前にその裏側にある事情を推し量り、さらに個々の事情をいかに紡ぎ合わせていけば、社会を築けるかをしたたかに実践する、そのような知恵にすごく惹かれています。アングラ経済、学術的にはインフォーマルエコノミーと私は呼んでますけれども、国家の法や規制に抵触し、警察や裁判所も頼りにならない、そして特定の社会規範に基づいて安定的なコミュニティもつくらない。そのような状況でもそれなりに信頼しうる社会を築いていけるという人間の知恵のようなものに、おそらくわたしは惹かれているんだと思います。うまく答えられませんでしたが、以上です。

Q.こういう状況で、図書館も本屋も閉まって、なかなか本を読みづらいという状況のなかで選考するにあたって、いままでと違うことを感じられたということはありますか。
A.(山極選考委員)僕自身が実践してますが、むしろ本を読む時間がじっくり持てるんじゃないかということですね。いままでと違った形で本と向き合えるのかなと。どういうことかというと、本というのは、メッセージですね。違う世界を与えてくれる、読者のイマジネーションに訴えるわけであって、まだ僕らが見ていない世界というものを、生き生きと伝えてくれる。これまでのように絶えず動き回っている世界だと、なかなか本と向かい合えなかったと思う。それがこの事態で僕自体も自宅に引き籠っていますけれども、本とかなり真剣に向かい合えるような状況が作れた。これは、本という我々の知的な財産をきちんと見直すべきいい機会なんじゃないかと思いました。視覚ばかりに訴える映像やインスタレーションとか、そういうものばかりを見て暮らしていた自分が、しっかりと文字と向き合って物語、あるいはルポルタージュという違う世界を知る、それが現実の世界と繋がっているわけですから。自分自身も作者と一緒に作る世界であるという意味では、自分も作者と同じように自分の想像力を育てなければならないわけで、それはやはりテレビとか映像主体に送られてくるメッセージとは大変違うということを改めて実感しました。これをいい機会にして、本という財産を見直すべきだとは思いますね。
A.(小川選考委員)本を読むにしても書くにしても、それはコロナの時代であろうがなかろうが、一人ぼっちでいることに耐える時間なんだな、ということを改めて思いました。本を読んでいる間はたった一人で、架空の世界や自分の足では到底いけない世界へ旅するということなので。その一人の時間を十分豊かなものにすることができるかどうか、新型コロナは私たちに問いかけているわけですけれど、それは人間が本や読書を通してずっとやってきたことじゃないか、というふうに誰かに向かって言いたい気持ちです。
A.(後藤選考委員)引きこもり的な生活を送っていましたが、いろんなことを考えさせられた日々でした。震災の時にも思ったんですけれども、未知で制御しがたいものがまだ世界には存在している。それが、人類への戒めのように、ときおり現れてくるようにも感じました。コロナの感染者、また直接、間接に被害にあわれた方々は、大変お気の毒です。どうかタフに事態を乗り切っていただきたい。その一方で、我々が考えるべき命題もあったんじゃないか。そんなことを思う時間になりました。

 最後に著者の小川さやかさんより「ありがとうございました。選考委員の先生方もありがとうございました」と挨拶があり、山極選考委員から「小川さん、授賞式でたぶんコメントを述べる役になっている鷲田清一さんから伝言があるんですけど、本の中で小川さんが子供たちの土産を頼まれていっぱいトランクを持って着ぶくれしている、あの姿を見たいと言っていました。小川さんのことだからびっくりするような服装をしてくるかもしれないよって」と呼びかけがあると「写真を撮ってないんですよ(笑)。ほんとに丸々と着ぶくれをしてぷんぷん怒りながらトランクを引いて戻ってきたという感じなんですけれども。着ぶくれした姿…表現するように努力します」と小川さんが応え「それにかかわらず、小川さんの素敵な姿を見せてください」と山極先生より締めくくられました。新型コロナウイルス対策及び物語賞の授賞作なしという異例の記者会見となりましたが、受賞者ご本人がZOOMで参加してくださったこともあり、終始和やかな雰囲気のなかで行われました。

関連サイト

歓待と無関心のあいだ(小川さやか)

https://kangaeruhito.jp/article/2409

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 はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
どうして自分が「考える人」なんだろう―。
手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか―手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

「考える人」編集長
金寿煥

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2002年7月創刊。“シンプルな暮らし、自分の頭で考える力”をモットーに、知の楽しみにあふれたコンテンツをお届けします。


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