Webマガジン「考える人」

シンプルな暮らし、自分の頭で考える力。
知の楽しみにあふれたWebマガジン。
 
 

安田菜津紀の写真日記

日が落ちるとひんやりとした空気に包まれる、ドホークの街並み。

 イラク北部の都市、ドホーク。真下に広がる夜景は美しく、けれども静かな安らぎが満ちていた。この数十キロ先で戦闘が起きている、その悲しみさえ包み込んでいるようだった。

 似た風景を、どこかで見たことがある……記憶を手繰り寄せていくうちに、懐かしいシリアの情景が浮かんだ。そうだ、ダマスカスの山から見た街も、そんな優しい時間を刻んでいた。

 ふるさと。その言葉の意味をこれほど考えた5年間はこれまでなかっただろう。イラクで、シリアで、街が街でなくなり、慣れ親しんだ場所を追われた人々に出会ってきた。彼らが元の営みを取り戻す日は、まだぼんやりとさえ見えてこない。それでも生きる人々を支えるのは、生まれ育ち、自身を育んだ場所、心に刻み込まれた故郷の姿だった。

 あるとき、イラク人の友人が、こんな言葉をくれたことがある。

 「月のない夜には、明かりを頼ればいい。明かりがなければ、蝋燭を灯せばいい。蝋燭がなければ、暗闇に目が慣れるまで待とう。やがて、太陽が昇り、光に包まれるだろう」

 今、この言葉が祈りとなり、日本や世界の至るところで夜を越えようとする人々を、優しく包んでいきますように。

ISから逃れ、イラク国内で避難生活を送る子どもたち。
君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―

君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―

安田菜津紀

2016/04/22発売

シリアからの残酷な映像ばかりが注目される中、その陰に隠れて見過ごされている難民たちの日常を現地取材。彼らのささやかな声に耳を澄まし、「置き去りにされた悲しみ」に寄り添いながら、その苦悩と希望を撮り、綴って伝える渾身のルポ。

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考える人とはとは

何かについて考え、それが「わかる」とはどういうことでしょうか。

「わかる」のが当然だった時代は終わり、平成も終わり、現在は「わからない」が当然な時代です。わからないことを前提として、自分なりの考え方を模索するしかありません。

わかるとは、いわば自分の外側にあるものを、自分の尺度に照らして新しく再構成していくこと。

“Plain living, high thinking”(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)*を編集理念に、Webメディア「考える人」は、わかりたい読者に向けて、知の楽しみにあふれたコンテンツをお届けします。

*産業革命後に急速な都市化が進むロンドンで、イギリスの詩人ワーズワースが書き遺した言葉。

 

 

「考える人」編集長
松村 正樹

著者プロフィール

安田菜津紀

1987年神奈川県生まれ。Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル)所属フォトジャーナリスト。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。

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