シンプルな暮らし、自分の頭で考える力。
知の楽しみにあふれたWebマガジン。
 
 

安田菜津紀の写真日記

森を歩く。木漏れ日が照らすのはわずかな場所、あとは静かな闇のまま。

 #MeToo というハッシュタグを、Twitterのタイムラインで頻繁に目にするようになった。思えばこの一年国内外問わず、とりわけ性被害や犯罪に対して声があがった年だったのではないだろうか。
 こうした性被害の報道がなされる度に、必ずといっていいほど「危ないので、女性が夜一人で歩くのはやめましょう」という声かけを聞く。けれども「男性が夜、出歩くのはやめるべき」という声はほとんど耳にしない。どちらも的を得た意見ではないにせよ、やはり“女性が慎むべき”という風潮を感じてしまう。そしてまた、男性も性犯罪の被害に遭うかもしれないという視点も欠けてしまっている。
 この言葉を更に突き詰めていくと、“自分は加害者ではない。だから意見を言える”という意識が見え隠れするときがある。けれども私たちは身の回りで、「これってパワハラ?」「もしかしてセクハラ?」という言葉や行動を目にしたことはないだろうか。そしてそれを目撃した一人として、疑問をしっかりと呈してきただろうか。もしかするとセクハラ、パワハラ、何かしらの差別や犯罪に気づかないまま見過ごすこともあるかもしれない。そう考えると私たち誰しもが、当事者でありうる問題ではないだろうか。
 こうして次々と声があがると、「声をあげられない私がいけないのかな」と、被害者が自分を責めてしまうことがある。彼女たちに何度でも繰り返し伝えたい。「あなたが自分を責める必要はない」と。最も苦しんでいる人たちに、更に声をあげることまで強いないために、私たちは想像し続けたい。いまだ声さえあげることができない無数の苦しみと沈黙があることを。
 今年は刑法が改正され、被害者が告訴しなくても、性犯罪の加害者を起訴できるようになった。法改正は飽くまでも一歩。取り巻く人の意識が問われている。もうすぐやってくる新しい年を、もっと優しい一年にするために。

立ち上がった花たち。枯れないように、支えたい。
君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―

君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―

安田菜津紀

2016/04/22発売

シリアからの残酷な映像ばかりが注目される中、その陰に隠れて見過ごされている難民たちの日常を現地取材。彼らのささやかな声に耳を澄まし、「置き去りにされた悲しみ」に寄り添いながら、その苦悩と希望を撮り、綴って伝える渾身のルポ。

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考える人とはとは

 はじめまして。2026年7月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、松本太郎と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただき、ありがとうございます。

 2002年7月4日、季刊誌「考える人」が創刊されました。

 目次には当代随一の執筆陣がずらりと並び、B5判240ページの誌面の隅々から知の香りが立ちのぼってくるかのようでした。

 当時、入社3か月の営業部員だった私は、見上げるような思いで手に取り、発売日には編集長の松家仁之さんと創刊のご挨拶のために書店にうかがいました。

 まだ書店訪問にも慣れておらず、編集長ともほぼ初対面の中、次のお店の約束の時間に間に合うだろうかと時計ばかりが気になって、終始、そわそわしていました。そんな私に松家さんがやわらかな笑顔で接してくれたこと、そして、新雑誌の門出を祝うようなすっきりと晴れた一日だったことを覚えています。

 あれから四半世紀が過ぎ、ウェブマガジンとして衣替えした今でも、創刊時に掲げられた「Plain living, high thinking(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という言葉は古びていません。AIに尋ねれば瞬時に答えが返ってくる時代だからこそ、それらしい言葉に飛びつくのではなく、自分の頭で考え、心の声に耳を澄ませることの大切さは増しているように感じます。

 創刊号には、養老孟司さんのロングインタビューが掲載されています。養老さんはその中で、恩師である中井準之助先生の口癖だった「人の心がわかる心を教養という」という言葉を紹介しています。

 読んだ瞬間に立ち止まり、さまざまな思いが湧き上がってくるような文章に、楽しみながら出会える場であり続けたいと思っています。

「考える人」編集長
松本太郎

著者プロフィール

安田菜津紀

1987年神奈川県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。

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