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編集部の手帖

 編集という仕事をしていると、しばしば人との“縁”を感じるものです。今回の特集「オーケストラをつくろう」では、ひとしおその思いを深くしました。
 ベネズエラの青少年音楽教育プログラム「エル・システマ」については、昨年『世界でいちばん貧しくて美しいオーケストラ』(トリシア・タンストール、東洋経済新報社)が刊行されました。その感想を「考える人」メールマガジンに書いたところ、いろいろな方から有益な情報をいただきました。最大のものはエル・システマの生みの親であるホセ・アントニオ・アブレウ博士が、東日本大震災の被災地・福島を支援するために生まれた「エル・システマジャパン」の設立後初めて、オーケストラの一団とともに、間もなく来日するという知らせでした。
 ちょうど「人を動かすスピーチ」(2013年秋号特集)のために、2009年TED賞を受賞したアブレウ博士のTEDトークをYouTubeで見ていた時期でした。また、福島には私自身も震災後に何度か足を運びましたが、合唱、吹奏楽、弦楽合奏、演劇などの文化活動が非常に盛んであることに目を見張っていたところです。「エル・システマジャパン」がその土地柄にどう根づいていくのか、とても楽しみになりました。
 エル・システマが生んだクラシック界のスーパースター、グスターボ・ドゥダメル氏は語っています。システマとは「ひとことで言うと、結びつきです。システマでは、すべてがつながっている。演奏することと、音楽を奏でることの社会的意義。この二つが切り離されることはけっしてありません」、「合奏には他者への思いやりと協働という概念が必要なので、人として成長することにつながる。つまりオーケストラとはコミュニティーなのです。(中略)これが芸術的な感性と結びつけば、どんなことでも可能になる」。
 実際に特集に着手してからは、ベネズエラ大使館のイシカワ駐日大使をはじめ、次々と思いがけない「つながり」を持った方たちが現れ、そのご協力によって企画が実現していきました。また世界最高峰のベルリン・フィルをはじめ、各国のオーケストラが新たな挑戦をしていることや、私たちの身近においても多くのジュニア・オーケストラ、アマチュア・オーケストラが盛んに活動している様子も実感しました。今回の特集に関わって下さった方々との思いがけない「結びつき」を感じながら編集作業が続きました。

 小特集「山本直純という音楽家」についても同様です。ちょうど大学に入学した年に始まった「オーケストラがやって来た」という画期的な番組を、これもある“縁”に導かれて熱心に見ました。そして昨年末、この番組の制作会社であるテレビマンユニオンの創立四十五周年記念「オーケストラがやって来た が帰って来た!」という一夜限りのコンサートに出向いたことが引き金になりました。
「僕らは楽しむことをおろそかにしない」はドゥダメル氏の言葉ですが、1972年から十年半、五百四十四回の番組がお茶の間に伝えた最大のメッセージは、オーケストラの楽しさ、その限りない魅力でした。そして番組の象徴的な存在として、音楽を真剣に楽しんでいた人が山本直純さんでした。没後十二年。この天才的音楽家が生前にめざしていたもの、その功績をいま改めて世に問いたいと考えます。ここにも“縁”としか言いようがない多くの方々のお力添えを得ています。

 最後になりますが、今号をもって「考える人」は通巻50号を迎えます。2002年7月の創刊以来、五十冊の「考える人」を支えて下さった寄稿家の方々、デザイナーの島田隆さんほか多くの協力者の皆様、販売にご努力いただいた書店の方々、そして何よりお読み下さった読者の皆様に、この場を借りて厚く御礼申し上げます。また創刊以来、単独スポンサーとして雑誌の成長を見守って下さった株式会社ファーストリテイリングにも深く感謝申し上げます。
 オーケストラが和して素晴らしい音楽を奏でるように、私たちも多くの人たちとの結びつきの中で、雑誌の楽しさ、躍動感を求め続けたいと思います。今後ともご支援をよろしくお願い申し上げます。

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考える人とはとは

 はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
どうして自分が「考える人」なんだろう――。
手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか――手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

「考える人」編集長
金寿煥

著者プロフィール

考える人編集部
考える人編集部

2002年7月創刊。“シンプルな暮らし、自分の頭で考える力”をモットーに、知の楽しみにあふれたコンテンツをお届けします。


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