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安田菜津紀の写真日記

2018年10月12日 安田菜津紀の写真日記

LGBTをタブー視する国から日本を見て

著者: 安田菜津紀

闇深い夜の公園。目を凝らすとそこには、色とりどりの花々が確かに、咲いていた。

 イラク北部の街で取材中のこと。縁あってゲイである男性に話を伺うことになった。イスラム教徒が大半を占めるこの地で、宗教的にも文化的にもLGBTを語ることさえタブーだった。それでもSNSなどを通じて、変化の波はわずかではあるものの若い層に届き始めている。まだ20代だという彼も、数人の友人にようやく自分が男性を愛することを伝えることができたそうだ。
 「ネットの普及で同じセクシャリティーの人と出会える機会は確かに増えた。ただ一方で悲しくなることがある。LGBTのパレードが盛大に行われたり、同性婚が認められたり、というニュースが目に入る度に、“どうして今自分が生きている社会は違うんだ?”と落ち込むんだ」。差別や偏見が、むしろSNSのコメントなどを通して可視化されてしまうこともあるのだという。
 「ところで、日本はどうなんだい?」彼の問いに、真っ先に頭を過ったのは、『新潮45』の寄稿文だった。
 8月号の寄稿の中で杉田水脈氏は、宗教や文化的な背景から迫害さえある国に比べ、日本社会は寛容だったと書いている。「実際そんなに差別されているものでしょうか」と、差別の実態にも疑問を呈した。
 確かにLGBTであることを理由に、死刑に処せられるようなことはないかもしれない。けれども目に見える迫害だけが、人を傷つけるのではない。「生産性」という言葉のほか、LGBTを「不幸」と決めつける同寄稿の言動に何の検証もないままに、10月号ではそれを上塗りするような特集が組まれた。中にはLGBTと痴漢のような性暴力を同列に並べる乱暴な文章も見受けられた。私は今、イラクで話を聞かせてくれた彼に、「日本は生きやすいよ」と胸を張って言えない。
 先日発表された「休刊」は、「幕引き」にはならない。何が問題だったのか、なぜ起きてしまったのか、繰り返さないためには何が必要なのか。具体的な検証なしには、「沈黙」と同じになってしまうはずだ。
 これは別の国の話になってしまうが、宗教的、文化的に性的少数者であることをひた隠しにしなければならない地に生きるある男性が、日本でLGBTの方々が恋愛する漫画があることをネットで知り、「こんなことを表現していい世界があるのか!」と救われ、自ら命を絶つのを止めたという話も伺ったことがある。
 できることなら日本社会を、誰かを追い詰めるのではなく、誰かのこれからを照らせるような社会にしていきたいと心から思う。

ドイツの車窓から見た、虹。豊かな色彩はやはり、美しい。
君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―

君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―

安田菜津紀

2016/04/22発売

シリアからの残酷な映像ばかりが注目される中、その陰に隠れて見過ごされている難民たちの日常を現地取材。彼らのささやかな声に耳を澄まし、「置き去りにされた悲しみ」に寄り添いながら、その苦悩と希望を撮り、綴って伝える渾身のルポ。

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考える人とはとは

何かについて考え、それが「わかる」とはどういうことでしょうか。

「わかる」のが当然だった時代は終わり、平成も終わり、現在は「わからない」が当然な時代です。わからないことを前提として、自分なりの考え方を模索するしかありません。

わかるとは、いわば自分の外側にあるものを、自分の尺度に照らして新しく再構成していくこと。

“Plain living, high thinking”(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)*を編集理念に、Webメディア「考える人」は、わかりたい読者に向けて、知の楽しみにあふれたコンテンツをお届けします。

*産業革命後に急速な都市化が進むロンドンで、イギリスの詩人ワーズワースが書き遺した言葉。

 

 

「考える人」編集長
松村 正樹

著者プロフィール

安田菜津紀

1987年神奈川県生まれ。Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル)所属フォトジャーナリスト。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。

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