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おかしなまち、おかしなたび 続・地元菓子

2019年6月6日 おかしなまち、おかしなたび 続・地元菓子

おかしなたび

秦野 その2

たびのきほんはあるくこと。あるいてみつけるおかしなたび。

著者: 若菜晃子

権現山と弘法山の間の『めんようの里』では、日によってモコモコのヒツジがエサを食んでいるのが見られます。姉妹都市の長野県諏訪市から寄贈されたヒツジだそうで、丹沢の主峰大山の三角形を望みながらのんびり暮らしています。
コナラやクヌギ、サクラ、ミズキなどの自然林に覆われた尾根道は四季を通じて気持ちよく歩けます。ことに新緑の頃は木漏れ日が美しく、静かな山歩きを満喫できます。一生懸命歩かなくても、気に入った草むらで昼寝するくらいの気持ちで。
つづら折りの道を町に下りて振り返ると、今歩いてきた山がこんもりと見えています。その近しさがこの山のよさ。先ほどまであそこに立って木々の合間から町を見下ろしていたのが夢のよう。こうして時間というものは過ぎていくのでした。
明治期から百年以上続く『豆峰』では殻付き落花生やバターピーナッツなど自社加工の豆製品が購入できます。小粒でも味は変わりませんと教えてもらい、味付き落花生の徳用と白砂糖衣の落花糖を購入。毎回同じものを買っている気もしますが。
落花生の種類は中手豊種やおおまさり種などさまざまですが、『豆峰』では秦野産の半立種のみを扱っているとのこと。昔はこのあたりでも落花生畑が広がっていたそうです。たばこと落花生に続く農産物はなかったのか、社会構造が変わったのか。
弘法の清水は水無川右岸から少し脇に入った場所で湧いています。驚くほどまろやかな味で、他の町のように汲みに来ている人がいないのが意外なほど。そういえば秦野は豆腐料理も有名ですが、この軟らかい山の水が決め手なのだと納得。
町を流れる水無川は人々の憩いの場。川沿いには草地に遊歩道がつけられていて、地元の人は車道を避け、川へ下って歩いていきます。春は桜の名所で知られる山ではなく、桜並木の川を歩いてお花見するわねと『豆峰』では話していました。
そしてまた新しいお餅を発見してしまった。お彼岸にあんだんごを作る地域は多いですが、だんごが色とりどりなのは珍しい。手作りのおいなりやかんぴょうの海苔巻が抜群の秦野橋角の『月島寿司』にて。寝坊山のお弁当にもよく使います。
川面をイワツバメが行き交い、橋の下に入っていくので見にいくと、橋梁に壺状の巣が無数にかかっていました。二十年同じ山に登っている間に町の風景は大きく変わりましたが、変わらないのは川の流れと山の大きさ。また来るよ秦野。

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考える人とはとは

何かについて考え、それが「わかる」とはどういうことでしょうか。

「わかる」のが当然だった時代は終わり、平成も終わり、現在は「わからない」が当然な時代です。わからないことを前提として、自分なりの考え方を模索するしかありません。

わかるとは、いわば自分の外側にあるものを、自分の尺度に照らして新しく再構成していくこと。

"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)*を編集理念に、Webメディア「考える人」は、わかりたい読者に向けて、知の楽しみにあふれたコンテンツをお届けします。

*産業革命後に急速な都市化が進むロンドンで、イギリスの詩人ワーズワースが書き遺した言葉。

 

 

「考える人」編集長
松村 正樹

著者プロフィール

若菜晃子

1968年神戸市生まれ。編集者。学習院大学文学部国文学科卒業後、山と溪谷社入社。『wandel』編集長、『山と溪谷』副編集長を経て独立。山や自然、旅に関する雑誌、書籍を編集、執筆。著書に『東京近郊ミニハイク』(小学館)、『東京周辺ヒルトップ散歩』(河出書房新社)、『徒歩旅行』(暮しの手帖社)、『地元菓子』『石井桃子のことば』(新潮社)、『東京甘味食堂』(本の雑誌社)、『街と山のあいだ』(アノニマ・スタジオ)他。『mürren』編集・発行人。

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