畑の間を潜り抜けるような赤土の道は至るところがへこみ、車は激しく揺れながら奥地へと進んでいく。両側に生い茂る少し背丈の低い木々は、よく見ると黄色いふっくらとした実をつけている。12月、村々はカカオの収穫の時期を迎えていた。
2018年、新しい年を西アフリカ、ガーナで迎えた。児童労働問題に取り組む認定NPO法人ACEが活動20周年を迎えるにあたり、これまで出会ってきた子どもたちの変化、“CHANGE”を伝える本を作るということで、その撮影で関わらせて頂くことになったのだ。活動地であるガーナの農村で、年末年始を過ごさせてもらった。
日本が最も多くのカカオを輸入しているのが、ここガーナだ。けれども私は、日々美味しく頬張るチョコレートの裏に、人々の計り知れない苦悩が積み重なっていることに対しては無知だった。このカカオ畑で厳しい労働を経てきた子どもたちの多くが、チョコレートを口にしたことさえなかったのだ。
今回特に触れた二つの問題がある。一つは現場での問題だ。例えば知識が乏しいために生産性が上がらないことがある。生産性が上がらなければ結局は人件費を抑えるしかなく、結果、家計を支える労働力として子どもたちまでが駆り出されてしまうことになる。農家さんたちへの研修を重ね、畑の管理や収穫方法などの知識を増やし、収入を増やすことが不可欠だった。加えてなぜ児童労働を防ぐ必要があり、子どもたちが学校に行く必要があるのかを村の人々や農家さんたちに根気強く共有する。
そして二つ目は、買う側の意識の問題だ。チョコレートを作る企業の中には、フェアトレードなど、働き手の環境や収入に配慮した取引を経てのカカオを積極的に使っているところもある。そして何より、買う側である私たちの意識が問われる。働く人々や環境に配慮されたチョコレートを私たちが積極的に選べば、企業の意識も変わっていく。そんな消費行動もまずは、カカオ畑での現状や、解決のための動きを知ることから始めなければ変わらないはずだ。
ちなみに“CHANGE”の一端を紹介すると、子どもたちが学校に通うことに積極的ではなかった親御さんが、彼らの生き生きとした表情を見て必要性を感じ始めたり、人身売買で自身の元に送り込まれてきた子どもを、働かせずに学校に行かせた農家さんがいたり、人身売買から救出され、初めての学校を小学校5年生から編入しても、必死で勉強についていき、中学卒業を間近に控えている少女がいたりと、様々な変化を感じることができる。
そんな彼ら、彼女らを応援する気持ちを写真に込めて、近くACEの皆さんと共に書籍にまとめる予定だ。一人一人の生きてきた軌跡に、写真で、言葉で、一人でも多くの方に触れて頂ければ嬉しい。
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安田菜津紀
1987年神奈川県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。
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とは
はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
どうして自分が「考える人」なんだろう――。
手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか――手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。
「考える人」編集長
金寿煥
著者プロフィール
- 安田菜津紀
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1987年神奈川県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。
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