
上越から東京への帰り道。どこまで南下しても真っ白に染まった景色が広がり、今自分がどこにいるのかわからなくなるほどだった。柔らかな雪に包まれた街を見つめながら、ふと10年前に訪れたシリアの寒空が脳裏をよぎった。“中東”と大きく括られると暑さを想像する人が多いかもしれないが、とりわけ北の街はこの時期、大雪に見舞われることもある。
道端に積み上げられた雪が少しずつ解けだした日、シリアの北部ではトルコの越境攻撃によって5000人以上が避難生活を送っていると報じられた。首都郊外の地区で、再び化学兵器が使用され、民間人が犠牲になったというニュースも舞い込む。隣国イラクでも独立投票後の混乱で、救援の手が届かないのだと知らせがあった。本当の意味での温かな“春”はまだ遠いのだろうかと、もどかしさばかりが募る。
ある時、爆撃に見舞われた街での取材を終え、私は思わずイラク人の友人にこう尋ねてしまったことがある。
「人間である限り、争いはなくならないのかな」
彼は少し考えた後、静かに私にこう語った。
「人間だからじゃない。どうせ人間はそんなものだって諦めてしまう、人の心がそうさせるんだ」
人間だからこそ、諦めたくない。彼の言葉を思い出す度に、そう思える。温かな春は待つのではなく、私たちの手で築くものなのだ、と。

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安田菜津紀
1987年神奈川県生まれ。NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)所属フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。
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*産業革命後に急速な都市化が進むロンドンで、イギリスの詩人ワーズワースが書き遺した言葉。
「考える人」編集長
松村 正樹
著者プロフィール
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- 安田菜津紀
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1987年神奈川県生まれ。NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)所属フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。
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