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山と食欲と私 日々野鮎美の山歩き日誌

2020年4月9日 山と食欲と私 日々野鮎美の山歩き日誌

テーブルマウンテン、苗場山で初心に戻る!

苗場山(新潟県~長野県)

著者: 日々野鮎美 イラスト・監修 信濃川日出雄

みなさま、こんにちは!
日々野鮎美(27歳 会社員)です。

 わたくし、”山ガール”ならぬ”単独登山女子”なんて名乗っていますが、要するに人見知りです……(?!)。
(私の詳しいプロフィールをもっと知りたい方はこちらを→リンク

 普段は会社員、週末になると山歩きばかりの生活を送っている私が、登山を始めてみたい人向けにアテンドするならこの山! ……という個人的にお気に入りのお山をご紹介します。

 今回のお山は……「苗場山(なえばさん)」です!

冬はスキー場、夏はフジロックで知られる苗場

 「苗場」と聞けば、冬は苗場スキー場でのウインタースポーツ、夏は同じスキー場で開催されるフジロックフェスティバルを連想する人が多いかも? 新潟県湯沢町の苗場は、首都圏から遠く離れていても、春夏秋冬、多くの人が訪れる人気スポットです。

 さて、今回訪れた苗場山は、その苗場スキー場ではなく、こちらもスキーヤーやスノーボーダーに非常に人気が高いゲレンデ、かぐらスキー場からアクセスします。ちなみに、フジロックの苗場スキー場は、清津川を挟んだお隣の筍山(たけのこやま)山麓にあるんですよ。ちょっとややこしい。

 苗場山は、標高2,145m。長野県北東部と新潟県南部の境目にある山。雄大な景色と、山頂の湿地帯がまるで天空に現れた大地のよう。ここでは幻想的な景色を見ることができるんです。

苗場山までの道のり

 今回のルートは、祓川(はらいかわ)登山口駐車場から山頂まで行き、往路と同じ道を戻るピストン。多くの登山者が利用するルートです。

 祓川の登山口までのアクセスは、マイカーであればカーナビで「祓川登山口駐車場」をセットするだけですが、私のように車を運転しない人は、JR上越新幹線(または上越線)の越後湯沢駅からタクシーを利用するのが現実的。ソロにはちょっとお財布に優しくないので、パーティーを組んで割り勘で行くのもいいかも…… !?(帰路も同じなので、タクシー会社の電話番号を控えておくのを忘れずに…… !)

駐車場から清々しいスタート!

前日に雨が降っていたため、10月の山行でも湿度が心地よい。

雨上がり、アスファルトがしっとりと濡れて、フォトジェニックな道

 登山口は駐車場から歩いてすぐそば。

 まずは和田小屋まで30分ほど歩きます。

 苗場山の五合目となる和田小屋前のゲレンデに祓川コースの登山道が伸びています。

 ここの登山口にはベンチ、テーブル、温水トイレ(有料)があり、身支度をすることができます。

かぐらスキー場のリフト(写真左奥)。右のポストが登山届を入れるポスト

 「苗場山登山口」と書かれた案内板があるので指し示す方向へ向かいます。

沢沿いを上っていくので、増水すると登山道にも水が流れる

 前日が雨だったからか、登山道に水が流れて、まるで沢のようになっていました。

視界が開けて明るくなる

 神楽ヶ峰を目指しているところ。

 中之芝あたりから展望がよくなり、ひと休みするためのベンチなどもありました。

 視界が開けて空が近くなった気分!

 それにしても、ここは清々しい〜〜!

 しばらく歩くと、顕彰之碑(けんしょうのひ)が現れます。

 碑には、松木喜之七さんと酒井由郎さん、お二人の名前が刻まれています。

この顕彰之碑は昭和52年に建てられたもの

 両氏は越後長岡の人で、昭和5年4月、スキーによる苗場山の初登頂に成功し、この山を世に紹介したそうです。

 石碑には、

 松木喜之七さんが明治30年生まれ

 酒井由郎さんが明治32年生まれ

 と書かれているので、33歳、31歳のチャレンジですね。

 さらに昭和5年は西暦で1930年。というと、大正期から昭和初期にかけての登山ブームの真っ只中、「山と溪谷社」が誕生し、登山雑誌が創刊された年です……!

 登山ブームのさなか、二人の山屋が大きな挑戦を達成し、きっと登山界はどよめいたんだろうな〜。まるで小説や映画みたいですね!

天空の大地を目指して下って上る

大迫力の苗場山。あれに上るのか〜

 さてさて、気づけば目の前にはどーんとそびえる圧巻! の苗場山!

 しかし、あそこに向かうまでには、いったん富士見坂と呼ばれる下り道を下らなければなりません。

 せっかく上ってきましたが、結構、下ります(泣)。

 しかし、ここでは嬉しい発見も。

地図によっては載っていない水場

 水場です!

 神楽ヶ峰を越えて、少し進んだところにある水場。コップも置いてあったので味見してみると、おいしい〜。

 おいしいお水で気力体力を少し回復させましたが、ここからの上りがまたひと苦労! なかなかハードな急な上りを進めば……

小さな池のようなものは池塘(ちとう)

 上り切ったところは、山の頂なのに湿原が広がる不思議な景色!

 あんなに険しい道を上ったのに、まるで天空の大地のように平べったい場所を歩きます。苗場山がテーブルマウンテンと呼ばれているのが、わかる気がします。

 ここまで上って……下って、ちょっと大変だったけど、さらに上ってよかった〜〜! ここからは、アップダウンもなく楽ちん。

天空の湿原に、まるで鏡のように輝く池塘

 湿地帯の中にところどころ小さい池のようなものがありますが、これが池塘と呼ばれるものです。

 標高が2,000mを超えたところにこうして池塘があるのが、不思議な印象を受けました。

 苗場山は実は火山。泥炭(でいたん)層に雨水が長い年月をかけて溜まって池ができたんだとか。

広がる湿地には木道があり歩きやすい

 池塘の横を歩けるのでハイキング気分。これが山の上だなんて、信じられませんね。

山頂標識が湿地にあれば良かったのに!

 山頂標識を写真で記録! 標識は笹原の中にあるので、池塘は見えず、眺望がとくによいわけではないんです。残念。なので、ここで休まずに、開けた場所にあるベンチを利用しよっと。

山頂付近にはレリーフと石碑が並ぶ

 日本の登山の振興に貢献し、苗場山を全国に伝えた大平(おおだいら)(あきら)翁のレリーフ(写真左)と、飛鳥時代に山にこもって修行をし修験道を開いた実在の人物「役行者(えんのぎょうじゃ)」の名前が彫られた石碑(右)。

 苗場山は実は山岳信仰の山。山頂にある池塘が鏡のように輝き、まるで神様の田んぼのようだということで神の苗代田と呼ばれ、農耕の神様として祀られてきました。

 また、苗場講と称する講中らは参拝登山し、豊穣を祈念してきた歴史もあります。

 これまで登った山にも霊山がありましたよね。神や霊が宿るとされる山、それが山岳信仰です。この日本古来の山岳信仰に神道や密教などを混成させたものが修験道で、その開祖が役行者というわけです。

 しかも飛鳥時代って、そうとう昔!!

 虚構説で揺れてはいますが、あの聖徳太子の時代ですよ。

 それにしても、山頂は池塘だらけです。

 池塘が鏡のようで、美しい〜。たしかに神様の田んぼのようです〜。

ランチは、シンプルな定番メニュー

 調理がしやすそうな山頂と知って、今回もバーナーを持参。

 ただ、さくっと済ませたいので、今回は素早くお湯が沸かせるタイプのもの。

 となると炒めるよりも煮る料理……ということで、この日のご飯は「欲張りウィンナー麺」!

コミックスの1巻2話に登場するメニューです。懐かしいですね。

 しかし今回のウィンナーは、すみません。時間なくご当地ものではありませんが、いいウィンナーです!

 普段の買い物では数十円高いだけでも買うのに検討しちゃうけど、山となったらご褒美! ここはケチらずご褒美!

 ステップアップの登山として、技術と知識が備わってきたらぜひチャレンジしてみたい山、それが苗場山! そのためには経験値が上がったからといって慢心せず、都度初心に戻って安全な山行を続けたいものです。

 ということで、装備をしっかりし、事前の登山計画と登山届け、そして地図は必携ですよ〜!

「日々野鮎美の山歩き日誌」の読者のみなさんへ

今回の記事は、連載終了後に登山ガイドブックとして再編集する前提で、秋に取材したものです。現在の実際の季節(4月)は、残雪期でまだ積雪しており、無積雪期とは全く別の知識・装備・体力が求められます。また、初心者の方がいきなり登る山としてもお勧めできません。

安全に楽しく山歩きをするため、以上の点を、どうぞご注意ください。

 

文・構成 井上綾乃
取材協力 石津谷知子

関連サイト

栄村秋山郷観光協会

http://sakae-akiyamago.com/play/3704/

くらげバンチ 山と食欲と私

https://kuragebunch.com/episode/10834108156628844112

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*産業革命後に急速な都市化が進むロンドンで、イギリスの詩人ワーズワースが書き遺した言葉。

 

 

「考える人」編集長
松村 正樹

著者プロフィール

日々野鮎美

ひびの・あゆみ 27歳、会社員。漫画『山と食欲と私』の主人公。「山ガール」と呼ばれたくない自称「単独登山女子」。美味しい食材をリュックにつめて、今日も一人山を登ります(たまには友人や同僚と登ることもあるよ)。

イラスト・監修 信濃川日出雄

しなのがわ・ひでお 新潟県出身。北海道在住。2007年のデビュー以来、ジャンルを問わず多岐にわたって執筆し、『山と食欲と私』が累計100万部を突破、大人気シリーズとなる。現在もくらげバンチで同作を連載中。

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  • 津野海太郎「最後の読書」読売文学賞受賞


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