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たいせつな本 ―とっておきの10冊―

2022年3月24日 たいせつな本 ―とっておきの10冊―

(15)幻想文学研究家、翻訳家・風間賢二の10冊

「怪異猟奇文化」を身近に愉しむための10冊

著者: 風間賢二

フランソワ・リヴィエール&ガブリエル・ヴィトコップ『グラン=ギニョル 恐怖の劇場』(未来社)
荒俣宏『パルプマガジン 娯楽小説の殿堂 』(平凡社)
高橋克彦『新聞錦絵の世界』(角川文庫)
川村邦光『セクシュアリティの近代』(講談社選書メチエ)
竹内瑞穂+「メタモ研究会」『〈変態〉二十面相 もうひとつの近代日本精神史』(六花出版)
毛利眞人『ニッポン エロ・グロ・ナンセンス』(講談社選書メチエ)
濡木痴夢男『「奇譚クラブ」の絵師たち』(河出文庫)
雑誌別冊太陽『乱歩の時代』(平凡社)
会津信吾・藤元直樹編『怪樹の腕 〈ウィアード・テールズ〉戦前邦訳傑作選』(東京創元社)
鮎川哲也・芦辺拓 編『妖異百物語 第一夜・第二夜』(出版芸術社)

 1997年に刊行した拙著『ホラー小説大全』(角川選書)が翌年に日本推理作家協会賞の「評論その他の部門」賞をいただきました。望外の喜びであり、同時に恐縮もしました。申し訳ないとまで思いました。というのも、その著作では東西のミステリー作家・作品にまったく言及していなかったからです。

 もちろん、江戸川乱歩が述べているように、ミステリーはゴシック小説、およびそこから派生したホラー(怪談)とは近しい関係にあります。日本特有の呼称である〈変格〉ミステリーは、いわば怪奇幻想の衣裳をまとったミステリーです。とはいえ、日本推理作家協会の栄誉ある賞をいただいたかぎり、今度は真っ向からミステリー小説に取り組んだ評論を執筆しなければいかんと思いました。

 光陰矢の如し。そんな決意をしてからあっというまの二十四年。その間、ポストモダン小説や海外の大衆小説、あるいはファンタジー関係、そしてぼくのお気に入りの作家スティーヴン・キング論などの執筆、その種の分野の翻訳に忙しくて、本格的にミステリーと向き合う時間がなかなかとれませんでした。

 ようやく今年になって、『怪異猟奇ミステリー全史』(新潮選書)を上梓することができました。しかし、タイトルからもわかるように正統な本格ミステリー史ではなく、異端文学としての、はっきり言えば怪奇幻想小説の観点から考察したミステリー史です。

怪異猟奇ミステリー全史』(新潮新書)

風間賢二

2022/01/26発売

 普通のミステリー史はすでに優れたものがいくつもあるし、どうせ書くなら語られることの少ない〈変格〉ミステリーに焦点をあてよう、と企図したわけでもなく、結局、ぼくの好きな分野は怪奇幻想ものだったということです。

 また、怪奇幻想ものといってもぼくの得意分野は西欧の作家・作品です。今回、日本人作家・作品にも注目して勉強したのですが、そのおかげで新たな関心を抱きました。我が国のエログロ・ナンセンスの時代についてです。和製ミステリー史的に言えば、「乱歩の時代」。

 生来の読書傾向が悪趣味お下劣B級感覚にもとづいていますので、「乱歩の時代」の作家・作品、および文化風俗にいたく惹かれました。今後はその方面での仕事ができたら楽しいなと思いつつ、ここで『怪異猟奇ミステリー全史』副読本としても推奨の十冊を紹介します。

1.フランソワ・リヴィエール、ガブリエル・ヴィトコップ『グラン=ギニョル 恐怖の劇場』(未来社)

 まずはグラン=ギニョルから。それは19世紀末から1960年代初頭までパリに存在した小劇場の名称です。当時は、エッフェル塔やルーヴル美術館と並ぶ観光名所でした。といっても由緒ある建物ではありません。そこで演じられる大衆劇がいつも話題騒然、というより教育上けしからん内容だったからです。

 マッド・サイエンティストや狂人、殺人鬼などを主要登場人物に設定し、人体実験や拷問、性的倒錯、猟奇殺人事件がステージ上で繰り広げられました。人体損傷はあたりまえ、顔に硫酸をぶっかけたり、目玉を抉ったり、内臓を引っ張り出したり、そして性的暴行などがこれでもかといったぐあいに執拗に展開されます。おかげで、残酷な、血みどろの、荒唐無稽な、猟奇的といった意味のグラン=ギニョレスクという形容詞まで生まれています。

 ちなみに、グラン=ギニョルは〈大きな人形〉という意味。つまり人間のこと。そこから人生そのものを指します。凄惨無残な血みどろ絵図、それが人生だ、というわけです。

 『グラン=ギニョル 恐怖の劇場』は、悪名高きその一世を風靡した残酷恐怖演劇をまとまった形で紹介している、いまのところ我が国唯一の著作です。グラン=ギニョルの全貌を知りたければ、まずはその小著ながら充実した一冊を手にすることをお勧めします。

 副読本として、真野倫平『グラン=ギニョル傑作選』(水声社)がよいでしょう。こちらは、残酷劇の実際の演目の台本集で、ガストン・ルルーやモーリス・ルヴェルなどの作品が収録されています。さらには、グラン=ギニョル座の主要脚本家にして恐怖王の異名を戴いたアンドレ・ド・ロルドの代表的な短編を訳出した『ロルドの恐怖劇場』(ちくま文庫)もあります。

2.荒俣宏『パルプマガジン 娯楽小説の殿堂』(平凡社) 

 グラン=ギニョルの残酷劇が隆盛を誇ったのは、世紀末から第一次世界大戦前夜です。いわゆるベル・エポックの時代。『グラン=ギニョル 恐怖の劇場』には、当時の恐怖劇の一端が垣間見える図版・写真が多数収録されていますが、とりわけポスターが興味深い。

 実は、アメリカ産のパルプマガジンの煽情的でけばけばしいカバー絵は、そのグラン=ギニョルの酸鼻をきわめたポスターの影響下にありました。ご存じのように、パルプマガジンは1920年代から40年代にかけて発行された下層階級向けの大衆小説専門雑誌の総称です。ミステリーやSF、ホラー、ファンタジー、冒険小説、ラブロマンスなど、今日のジャンル小説は、この俗悪三文雑誌から誕生したと言っても過言ではありません。その人気のほどは、全盛期には毎月200種類ものパルプマガジンが刊行されていたことからもうかがえます。

 当然、競合が激化します。他社の雑誌より一人でも多くの読者を獲得するために取られた戦略が表紙絵の過激化でした。そのお手本がグラン=ギニョルの残酷絵ポスターだったのです。とりわけ、30年代のカバー・イラストがよい。半裸の美女が悪漢に責め苛まれている、あるいは危機一髪状態の刺激的な絵柄が男性諸君には眼福ものです。これらのセンセーショナルな美女虐待絵図が同時期の我が国のエログロ・ナンセンス文化の雑誌に与えた影響は計り知れません。

 えっ、いったいどんなカバー? と思われた人には、『パルプマガジン 娯楽小説の殿堂』がお勧め。豊富な図版とともに、今や幻のパルプマガジンの誕生から廃刊になるまでの経緯がわかります。ぼくは、この書籍のおかげで、〈グッド・ガール・アート〉や〈バッド・ガール・アート〉なるものが存在して、その筋のコレクターたちのお宝探しのターゲットになっていることを知りました。

3.高橋克彦『新聞錦絵の世界』(角川文庫)

 パルプマガジンの刺激的な〈美女虐待〉もの表紙絵に匹敵する、いやアート的にはそれ以上の美を孕んでいるエログロ・ナンセンスのイラストレーションが、実は我が国にも昔からあります。江戸末期から明治初期に人気のあった極彩色の浮世絵=錦絵です。有名な絵師に月岡芳年がいます。ことに『英名二十八衆句』が知られています。その歌舞伎の有名な修羅場を描いた、いわゆる〈無残絵〉や〈血みどろ絵〉と称される画集は落合芳幾との連作です。芳年と芳幾は、歌川国芳に師事した兄弟弟子です。しかし、月岡芳年と比べると落合芳幾は、今日では知名度が低いようです。

 『新聞錦絵の世界』は、そんな不遇の芳幾の〈無残絵〉をカラーで多数収録した、もうひとつの『英名二十八衆句』とでも称すべき貴重な一冊。主として明治初期に発行の始まった新聞の三面記事を題材に、とりわけ猟奇的事件の一場面を描いた作品ばかりです。芳幾の〈血みどろ絵〉はもちろんすばらしいのですが、その錦絵の画題となった事件そのものも紹介されていて、これがまた奇想天外、荒唐無稽なエログロ実話ばかりでおもしろい。

4.川村邦光『セクシュアリティの近代』(講談社選書メチエ)

 今日の我が国のエロ文化、「欲情」や「肉愛」、つまりセクシュアリティが西欧の科学・医学を輸入したことでどのように形成されてきたかを、ミッシェル・フーコーの『性の歴史Ⅰ 知への意志』を下敷きにして浮き彫りにした著作が『セクシュアリティの近代』です。と一言で述べると、なにやら小難しそうですが、そんなことはありません。江戸末期の医学的解剖図のパロディのような錦絵から説き起こされ、明治期の「和風セクソロジー」を経て、大正時代に台頭した〈性欲学者〉のおかげで脚光を浴びた昭和初期の通俗セクソロジーまでを概観しています。同時に自然主義の作品や〈青鞜〉の“新しい女”たちの活動、あるいは婦人雑誌の記事や広告などから近代日本の性に対するイデオロギーが軽やかに語られています。

 処女、恋愛、家庭、母性愛、男らしさ、女らしさ、異常・正常、そしてセクシュアリティの性器化といったイデオロギーがどのように産出されていったかを知りたい向きに最良の書籍です。明治時代を通して巷間に流布した、最初の西欧セクソロジーの書物『造化機論』なるものを、ぼくは恥ずかしながら本書で初めて知りました。かつて、ある政治家が「女性は産む機械」と失言して大問題になりましたが、そうしたトンデモ発想は、どうやら明治期に大量に出回った『通俗 造化機論』によって捏造されたらしい。

5.竹内瑞穂+「メタモ研究会」『〈変態〉二十面相 もうひとつの近代日本精神史』(六花出版)

 エログロ文化に関心のある当方として、良書『セクシュアリティの近代』の惜しむらくは、大正時代に大いに流行った〈変態性欲〉についての言及がほとんどないことです。そのテーマに関しては、『〈変態〉二十面相 もうひとつの近代日本精神史』がだんぜんお勧め。といっても、セクソロジーにおける逸脱・異常をメインに据えているのではなく、〈変態心理〉を対象にしています。つまり倒錯した性欲一点張りではなく、むしろ精神異常に焦点をあてている。十篇の論文と五篇のコラムで構成されていますが、探偵小説好きには、江戸川乱歩や木々高太郎、谷崎潤一郎、芥川龍之介あたりを分析している項目が気になるところでしょう。

6.毛利眞人『ニッポン エロ・グロ・ナンセンス 昭和モダン歌謡の光と影』(講談社選書メチエ)

 かくて開化セクソロジーや大正〈変態性欲・心理〉ブームが下ごしらえをしたとも言うべき我が国独自の悪趣味低俗B級文化――エログロ・ナンセンスの時代が昭和初期に到来します。この時期の社会背景を考えると、「テロよりエロ、アカより桃色!」といったキャッチコピーが冴えまくっている『ニッポン エロ・グロ・ナンセンス 昭和モダン歌謡の光と影』が手に取りやすい。当時の文化風俗がおもしろおかしく語られていて、かなり笑えます。

 たとえば、モダンガールについて、彼女たちのヘアスタイルはボブカットがお約束なので、漢字表記では〈毛断嬢〉だとか、今風に言えばパパ活(援交)をしていると思われていたので〈もう旦那がある〉と称されていたとか。文学のことはほとんど触れられていないのですが、モダン歌謡の歌詞が大量に掲載されていて、それに対する説明も愉快です。お堅い風俗文化論や精神史としてではなく、気楽な読み物として推奨します。

7.濡木痴夢男『「奇譚クラブ」の絵師たち』(河出文庫)

 俗にいう大正ロマン・昭和モダンの時代は、ぼくにとってはエログロ・ナンセンスの時期です。同様に戦後の焼け跡文化はカストリ雑誌文化。この時期はエログロ・ナンセンス第二の黄金期です。その俗悪文化の代名詞であるカストリ雑誌に関しては、『カストリ雑誌研究 シンボルにみる風俗史』が発行年月は古いけれど、いまだに手ごろな入門書として最適。

 カストリ雑誌には『妖奇』や『猟奇』、『探偵実話』といった探偵小説と関係の深いものもありますが、本道のエロとグロを売り物とするカストリ雑誌として名があがるのは『奇譚クラブ』でしょう。澁澤龍彥や三島由紀夫、寺山修司が一目置き、映画監督の溝口健二が愛読していたという俗悪雑誌。団鬼六のSM小説の金字塔『花と蛇』や沼正三の奇書『家畜人ヤプー』を連載し、現代の異端の浮世絵師と称された伊藤晴雨の緊縛錦絵や写真を掲載したことでも有名です。この異色の性倒錯雑誌「奇譚クラブ」に関する書籍は三点あります。個人的に三部作と呼んでいるのですが、『「奇譚クラブ」の人々』と『「奇譚クラブ」の絵師たち』、そして『「奇譚クラブ」とその周辺』です。

 ここでは『「奇譚クラブ」の絵師たち』を紹介します。タイトルから推測されるように、まずは当時のエロチックな挿し絵が多数掲載されているのがうれしいかぎり。その美女加虐絵図を見れば、パルプマガジンのカバーや錦絵の〈責め絵〉の影響が顕著であることがわかります。また、興味深いのは、このカストリ雑誌にたずさわった須磨利之という人物についてのパートです。大正時代のエログロの仕掛人である梅原北明にも匹敵する昭和の才人です。その八面六臂の活躍ぶりには驚愕させられます。「一芸に秀でる者は多芸に通じる」という諺は、須磨利之のような出版界の怪物にこそふさわしい。

8.雑誌別冊太陽『乱歩の時代 昭和エログロ・ナンセンス』(平凡社)

 ということで、ここでエログロ・ナンセンス時代の旗頭(そう称されることに本人は不快感を覚えていたが)、江戸川乱歩の登場です。お勧めは別冊太陽(日本のこころ88)『乱歩の時代 昭和エログロ・ナンセンス』です。この特集号は実に素晴らしい。贅言はいりません。実際に手に取って目次を見ていただきたい。一流の執筆者が当時の文化・社会・風俗について興味深い卓見に満ちたエッセイを寄せています。乱歩はもちろんのこと、雑誌「新青年」の作家たち、怪奇幻想小説の流行、セクソロジー、心霊学、変態心理、グロテスクとしての世界の猟奇的風習、通俗科学(ロボット)、発禁本などなど、知的好奇心のネットワークがいやが上にも広がります。もちろん、貴重な図版・写真も満載。おまけにかつては発禁処分をくらった乱歩の「犯罪図鑑」が袋綴じ付録としてついています。

9.会津信吾・藤元直樹編『怪樹の腕 〈ウィアード・テールズ〉戦前邦訳傑作選』(東京創元社)

 そろそろ与えられたスペースが限界に近づいているので、残りの二冊は駆け足で紹介します。怪奇幻想探偵小説に近しい東西の恐怖譚アンソロジーです。拙著『怪異猟奇ミステリー全史』には参考文献として、その手の作品のアンソロジーを何点か記しておきましたが、ここに紹介するのはかなりマニアックな作品集です。ぼくも入手したときには、目次に並んだ作家・作品の八割を知らなかったほどです。

 一冊目は『怪樹の腕 〈ウィアード・テールズ〉戦前邦訳傑作選』。副題にある〈ウィアード・テールズ〉とは、パルプマガジンの中でも有名な怪奇幻想雑誌。クトゥルフ神話の生みの親H・P・ラヴクラフトが看板作家として活躍しました。しかし本書収録の作家は超マイナーの書き手ばかり。興味深いのは、「新青年」をはじめとして戦前の大衆小説雑誌に掲載された日本人向けの超意訳や翻案がそのまま収録されていること。なかには日本人作家のオリジナルとして知られていた作品もあります。それぞれの作品に当時の挿し絵と詳細な解説が付されていますが、巻末の解説がことに有益。さらには、「新青年」の当時の新聞広告が多数収録されていますが、それらを眺めているだけでもいろいろと新たな知見を得ることができます。

10.鮎川哲也・芦辺拓 編『妖異百物語 第一夜・第二夜』(出版芸術社)

 二冊目は日本人作家の怪奇幻想短編アンソロジー『妖異百物語 第一夜・第二夜』。二巻合わせて全二十八篇。小栗虫太郎もビックリな篠鉄夫の人外魔境もの「魔女の膏薬」やタイトルからでもそのゲテモノぶりが察せられる辰巳隆司の「人喰い蝦蟇」、潮寒二の蛆虫が語り手の荒唐無稽な「蛆」、殺人者がころころ精神転移するので、しまいに読者は語り=騙りの迷宮にとらわれる夢座海二の「変身」など、まさに怪異猟奇な傑作・秀作揃い。恐怖漫画家の楳図かずおの唯一の創作短編「蠅」も収録されていますが、これはかなりの貴重品です。

怪異猟奇ミステリー全史』(新潮新書)

風間賢二

2022/01/26発売

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 はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
どうして自分が「考える人」なんだろう――。
手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか――手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

「考える人」編集長
金寿煥

著者プロフィール

風間賢二
風間賢二

1953年東京生まれ。武蔵大学人文学部卒。早川書房を退社後、幻想文学研究家・翻訳家として活躍。1998年に『ホラー小説大全』(角川選書)で第51回日本推理作家協会賞評論部門を受賞。主な著書に、『ダンスする文学』(自由国民社)、『スティーヴン・キング論集成』(青土社)、『怪異猟奇ミステリー全史』(新潮社)など。訳書に、スティーヴン・キング『ダークタワー』シリーズ(角川文庫)、カレン・テイ・ヤマシタ『熱帯雨林の彼方へ』(新潮社)などがある。


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