
取材したものを持ち帰り、発表の場を頂く度に思うことがある。自分よりもずっと、経験が豊富なジャーナリストたちが同じ場を訪れていたらどうだったろう。より声を広げることができたんではないだろうか。もっと伝わる形に残すことができたんではないだろうか、と。
そんなことを姉のように慕う人に相談したときだった。「なつきちゃん、大根とバットって、形似てるけど用途全く違うやろ? バットは球打てるけど食べられへんし、大根は球打てへんけど美味しく食べられるやろ? 比べても仕方ないものを比べて苦しむ必要ないねん」。ふふふ、名言やろ?と笑う彼女に、私もつられて笑う。心がふわりと軽くなる瞬間だ。自分の出来る役割に、力を注ぎなさい、と背中を押してもらったように思う。
言葉は時に、人の心を追い詰め、切り刻むほどの威力を持ちえてしまう。けれどもまた、たった一つの言葉で、越えられる夜がある。何気ない言葉で、「生きたい、生きたい」と心が呼吸しはじめる。
日々接する言葉の数はおびただしい。まるで巨大なホースから噴き出す水を、直に飲もうとしているようだ、と飛び交い続ける情報を前に思う。だからこそ一度立ち止まり、深呼吸し、心を柔らかくできるような言葉にゆっくりと手を伸べる。そんな温かな場所をこれからもそっと、守りたいと思う。

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安田菜津紀
1987年神奈川県生まれ。NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)所属フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。
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「わかる」のが当然だった時代は終わり、平成も終わり、現在は「わからない」が当然な時代です。わからないことを前提として、自分なりの考え方を模索するしかありません。
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"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)*を編集理念に、Webメディア「考える人」は、わかりたい読者に向けて、知の楽しみにあふれたコンテンツをお届けします。
*産業革命後に急速な都市化が進むロンドンで、イギリスの詩人ワーズワースが書き遺した言葉。
「考える人」編集長
松村 正樹
著者プロフィール
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- 安田菜津紀
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1987年神奈川県生まれ。NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)所属フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。
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