上映会場の煉瓦蔵は市内最大級の煉瓦造建物といい、アーチ状の石組みが建築当時のままにあり、古い煉瓦の風合いが美しい。その内部の壁面には蓑﨑が海外での石内展などで集めたポスターコレクションが展示され、石内を歓迎していた。二回上映のチケットは完売、追加上映をするほどの人気で、会場にやってきた監督の小谷忠典もよろこんだ。

 石内は「歴史のある建物でフリーダの映画が上映されるのは、とってもうれしい。桐生は絹の地であり、多様な刺繍の技術がある。そんな場所でこの映画がどう受けとめられるのか、楽しみにしている」と語る。

 そういえば、資生堂ギャラリーで個展「Frida is」(二〇一六年)が開催された際、石内と対談したファッションデザイナーの黒河内真衣子は、写真集『Frida by Ishiuchi』からインスパイアされたといい、さらに自身のブランド「mame」は、一八七七年に桐生で創業した刺繍屋の職人や工場の存在があって成り立っているのだとも語っていた。伝統的技術と最先端技術を融合し、世界的にも高い評価を得ているノコギリ屋根の工場を黒河内はたびたび訪れているそうだ。

 いよいよ上映が始まる。フリーダ・カーロが生まれ、最期を迎えた家ブルーハウス(メキシコシティ)で、フリーダの遺品を撮影する石内に密着するカメラ。その合間に、フリーダが愛用した民族衣装テワナドレスの地、オアハカ州イスモ地方でのロケがはさまれる。ドレスを鮮やかに彩る刺繍家たちの丁寧な仕事がすばらしい。

 かぎ針を使った「ガンチョ」と呼ばれるチェーンステッチ、ミシンによる機械刺繍「カデーナ」がイスモの代表的な刺繍で、母から娘へと伝えられてきた技だ。厚い布地に太い針をさしていく音が、まるで心臓の鼓動のように聞こえる。女性たちは、それぞれの人生とともに刺繍に込める愛、伝統を継ぐ仕事への誇りを語っている。大輪の花をモチーフにした見事な刺繍をほどこしたテワナドレスも祖母から母、娘へと継がれてきた。桐生の観客たちは身を乗り出すように女性たちの手仕事を見つめている。メキシコと桐生、遠く離れた地であっても、美しいものを作り出す情熱は同じだ。

 映画のラストシーンは〈Frida by Ishiuchi〉を出品するパリフォト会場(二〇一三年、グランパレ)の石内である。客席から「あ」という驚きの声が漏れた。石内がまとう着物が桐生で織られた銘仙だということがわかったのだろう。

 石内はこう話す。「あの銘仙は〈絹の夢〉を撮っているときに、桐生織塾で織られている最中だったの。塾長で織物作家の新井求美さんの作品。織機にかかっていたブルーの糸が美しかったので撮影をして、写真集〈絹の夢〉の表紙にしている。織りあがったあとに買って仕立て、パリフォトで着たのは銘仙を知ってほしい気持ちもあったから。まさか、この映画が桐生で上映されるなんて考えもしなかったけれど、桐生の人たちによろこんでもらえたならパリで着てよかった」