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山と食欲と私 日々野鮎美の山歩き日誌

みなさま、こんにちは!
日々野鮎美(27歳 会社員)です。

わたくし、”山ガール”ならぬ”単独登山女子”なんて名乗っていますが、要するに人見知りです…(?!)。
(私の詳しいプロフィールをもっと知りたい方はこちらを→リンク

普段は会社員、週末になると山歩きばかりの生活を送っている私が、登山を始めてみたい人向けにアテンドするならこの山! …という個人的にお気に入りのお山をご紹介します。

今回のお山は…「鍋割山」です!

「鍋割山」という一風変わった名前の由来は諸説あるそうですが、それにちなんでか、山頂にある鍋割山荘では、運が良ければ山荘名物「“鍋”焼きうどん」が食べられます。ここは広い丹沢山エリアにある山だけに、登山ルートがとっても豊富だし、さらに、山頂からは富士山が目の前に広がるので、行かない理由がありません。

また、登山拠点となる大倉から山頂までの標高差は約1,000メートルあるため、高尾山などの観光登山から本格的な山歩きへのステップアップにもってこいですよ。

大倉バス停を起点とした、行きと帰りのルートが違う周回コース

今回は、大倉バス停からスタート。ここまでは小田急線の渋沢駅発のバスを利用します。バス停周辺は設備が整っていて、トイレや案内所、レストハウスがあります。マイカーならば、バス停そばの有料駐車場を利用しましょう。

鍋割山の山頂へはいくつかルートがありますが、今回、上りは比較的途中の山容に変化がある西山林道を経て、登頂後は通称「バカ尾根」と呼ばれる大倉尾根で下ります。ここは途中から丸太や木の板の階段が続くルートで、それが苦手な人にはちょっとしんどいかも?

コミックスでは、5巻の52話に登場します!

バス停の広場で登山届け、トイレや準備運動を終えてスタート!

出発、ゴールとなる大倉バス停

バス停から登山口までは、しばらくは住宅地を歩きます。丹沢のふもとで暮らす方々の迷惑にならぬよう、たとえグループでも静かに歩きたいところです。

案内板の「鍋割山・二俣(ふたまた)」に進む

住宅地は目印が少ないため、地図を見ないと登山道への道がわからなくなりそう。案内板を見落とさないように慎重に進みます。ここは静かでのどかないい街ですね。しばらく舗装された道を進み、林の中へ向かいます。

登山道を進むと鹿避けの柵の扉が現れるので、開けて中に入ります。入ったらしっかり閉めるのを忘れずに! …ということは、この先、野生の鹿と会えるのかな?

そのまま進むと西山林道に出ます。すぐに丹沢大山国定公園の案内板とベンチがあるので、ちょっと一休み。

水分補給でもして小休憩

小型車程度なら通行できそうな、幅の広い道がしばらく続きます。さらに1時間ほど歩くと、元神奈川県山岳連盟会長で、登山訓練所設立に尽力された尾関廣さんの胸像がありました。この先が二俣です。

胸像から少し進んだところにある二俣は、四十八瀬川(しじゅうはっせがわ)の支流であるミズヒ沢と勘七ノ沢の出会う場所。大雨の後は増水に注意したいですね。

沢には橋がかかっている
二俣の先にある案内板。小丸尾根との分岐は左へ進む

林道の終点に着くと、水が入った大きな2リットルのペットボトルが川の側に置いてあります。それも1本や2本じゃなく、山のように。

実は、これらは山荘で使う水なんです。

物資だけではなく、水道が整備されていない山では水も貴重な資源。荷物を背負って山小屋などに荷揚げすることを歩荷(ぼっか)といいますが、山荘へ水を運ぶ歩荷を登山客にボランティアでお願いするため、置いてあるんですね。体力に自身のある登山者なら、ぜひ挑戦してみてください。私はトレーニングを兼ねて小さめのボトルを1本背負ってみました(笑)。

ペットボトルが置いてある脇の河原で、おじいさんとそのお孫さんのような二人組が「生きるっていうのはね…」と、人生について語り合っていました。なるほど、山に来ると、普段なかなか話せないようなことでも話せる気がします。

こういうの、なんだかいいなあ…。

いよいよ登山らしい山歩きのスタート!

足元に気をつけたい

標高700mに近づくと急な登り坂になってきました。

いつの間にか息が上がります。しばらくすると展望が広がる後沢乗越(うしろざわのっこし)です。もう一息!

二俣から後沢乗越まで50分ほど

後沢乗越からは両側の開けた尾根を歩きます。ところどころ西側(左側)に富士山が見える場所があり、立ち止まってカメラを構えるも、木の陰に隠れて全部は見えない…。

うーん、もどかしい。ひとまず、全貌を眺めるのは山頂でのお楽しみ! にしておこう。

1時間少々、ところどころ木道も交えながら、登っていきます。

そろそろ山頂かな? と思ってもなかなか着きません。さらに道を進んで、今度こそ山頂でしょ? と期待するのですが、まだ着かない。延々同じような景色が続くと飽きてしまいますが、ちょっとうんざりし始める頃には山頂に到着できますよ!

どーんと目の前に広がる富士山

ついに到着した山頂からは、目の前にせまる富士山を大迫力で見ることができました。

丹沢から富士山って、こんなに近かったんだ…と実感。この時期は4月ということもあり、雪の残るラインまでしっかり見られて感動しました!

何度でも食べたい名物の鍋焼きうどん!

そして、そして

今回の登山の目的のひとつが、この鍋割山荘の鍋焼きうどん。コミックス5巻52話でも縦走して最後にいただいていますが、日によっては早く売り切れる日もあるようです。

あつあつで具だくさんのうどん

疲れた体に甘めの味がしみわたる〜〜!

おつゆも最後の一滴までしっかりいただきました。塩分補給!

ちなみに、鍋焼きうどんはいつでも食べられるわけではありません。提供できる数に限りがあるので、ないものと思って昼食は必ず持参していった方が安全です。とにかく、今回はラッキーでした。

この鍋焼きうどんを作ってくださる鍋割山荘のご主人・草野さんは、登山家、長谷川恒男さんと8,000mのダウラギリ遠征も経験されている山のスペシャリスト。

今の鍋割山荘は、草野さんが自力で増改築されたんだそうです。

下山は別のルートを通って大倉バス停へ戻る

さてさて、景色も食も楽しみましたし、そろそろ下山です。

今回の下山は、山頂から金冷シ(きんひやし)まで鍋割山稜を歩くルートを選びました。鍋割山稜は、ゆるいアップダウンを繰り返すブナ林です。

傾斜もゆるく、平和な登山道

金冷シまで1時間、ところどころ景色を眺めながらゆっくり歩きました。

大倉に向かう

金冷シから大倉へ下山開始。少し進むと崩落個所に足場が設置されていました。

足場があるところは注意深く進む

小さな登り返しをし、進むと眼下に街並みが広がります。

晴れていると見渡しがいい

ここから一気に下り始めます。岩がゴロゴロして足場が悪い場所は、他の登山者とすれ違う時に譲り合いながら進みたいですね。

意外な小石で滑ることも

途中、金冷シから四つの山荘を通過して、約2時間半で大倉に到着です。

天気にも恵まれましたし、本当にいいお山でした!

ついつい何度も行きたくなる山、それが鍋割山! 鍋焼きうどんと景色とのセットで、山歩きを始めたばかりの友人と一緒に行けば喜んでくれるはず。そうそう、デートにもいいかもしれないですね! …ってお山で男性とデートしたことがない私が勧めても説得力がないかもしれませんが…!

この連載をきっかけに実際に訪れて「鍋割山デートよかったよ」なんて、ご報告をいただけたら嬉しいなぁ♪

毎回しつこいですが、山歩きの際は装備をしっかりし、事前の登山計画と登山届け、そして地図の携帯は必携ですよ〜! 技術が伴うまではなるべくソロは避けましょう。

文・構成 井上綾乃
取材協力 石津谷知子

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  • 【出張試し読み】山と食欲と私 - 信濃川日出雄 / 1話 おにぎり

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考える人とはとは

 はじめまして。2021年2月1日よりウェブマガジン「考える人」の編集長をつとめることになりました、金寿煥と申します。いつもサイトにお立ち寄りいただきありがとうございます。
「考える人」との縁は、2002年の雑誌創刊まで遡ります。その前年、入社以来所属していた写真週刊誌が休刊となり、社内における進路があやふやとなっていた私は、2002年1月に部署異動を命じられ、創刊スタッフとして「考える人」の編集に携わることになりました。とはいえ、まだまだ駆け出しの入社3年目。「考える」どころか、右も左もわかりません。慌ただしく立ち働く諸先輩方の邪魔にならぬよう、ただただ気配を殺していました。
どうして自分が「考える人」なんだろう―。
手持ち無沙汰であった以上に、居心地の悪さを感じたのは、「考える人」というその“屋号”です。口はばったいというか、柄じゃないというか。どう見ても「1勝9敗」で名前負け。そんな自分にはたして何ができるというのだろうか―手を動かす前に、そんなことばかり考えていたように記憶しています。
それから19年が経ち、何の因果か編集長に就任。それなりに経験を積んだとはいえ、まだまだ「考える人」という四文字に重みを感じる自分がいます。
それだけ大きな“屋号”なのでしょう。この19年でどれだけ時代が変化しても、創刊時に標榜した「"Plain living, high thinking"(シンプルな暮らし、自分の頭で考える力)」という編集理念は色褪せないどころか、ますますその必要性を増しているように感じています。相手にとって不足なし。胸を借りるつもりで、その任にあたりたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

「考える人」編集長
金寿煥

著者プロフィール

日々野鮎美

ひびの・あゆみ 27歳、会社員。漫画『山と食欲と私』の主人公。「山ガール」と呼ばれたくない自称「単独登山女子」。美味しい食材をリュックにつめて、今日も一人山を登ります(たまには友人や同僚と登ることもあるよ)。

著者の本

イラスト・監修 信濃川日出雄

しなのがわ・ひでお 新潟県出身。北海道在住。2007年のデビュー以来、ジャンルを問わず多岐にわたって執筆し、『山と食欲と私』が累計100万部を突破、大人気シリーズとなる。現在もくらげバンチで同作を連載中。

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